傍までいって話を聞いてあげたい

タバコを吸っている人を見るたびに思う。この人は何か悩みを抱えているんだろうと。タバコを吸わなければいけないぐらいの悩みを。

ボクの会社に４つほど上の先輩がいる。その人をNさんと呼ぶ。若くして家庭を持ち、Nさんは若い社員から尊敬される頼りがいのあるとても面倒見のいい先輩だ。Nさんより年上の先輩からも慕われている。若手の社員に何か困ったことがあればまずはNさんに相談するぐらいNさんは頼りにされている。

でもボクは見てしまった。Nさんがタバコを吸っている姿を。ボクはNさんがタバコを吸う人だと微塵も考えたことがなかった。だから余計にショックだった。Nさんは人には簡単に打ち明けられない悩みがあるんだとその時に悟った。

Nさんだけではない。周りの社員も知り合いも友達でもタバコを吸う人はいる。ただ、いつも笑顔で誰にでも愛嬌よく分け隔てなく、まともに話したこともないボクにでさえ仲良くしてくれるNさんと、いつもバカでくだらない話をするボクの友人たちでは関わってきた時間が違う。距離感が足りない。

つい最近、電気グループのピエール滝さんが薬物の使用で捕まった。
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彼もまた、麻薬を使わなければいけないほどの悩みや不安を抱えていたのかもしれない。そう思うと、SNSの意見だけに左右されてしまいそうになる自分が情けなく思えてくる。彼は頑張って頑張って頑張ったうえで、薬物に手を出さざる状況になったのかもしれない。そう思えば、ただ単に彼を非難中傷するだけで物事が解決するとボクは思えない。

なんでも問題は表面には見えてこない。そりゃそうだ。誰か悩んでいそうな人の傍まで駆け寄って「どうしたんですか？悩みがありそうですね、ボクでよければ聞ますよ。」こんなことがみんなできれば滝さんのような人は世の中に出てこないはずだ。相手からしてみれば余計なお世話というやつだろう。

だからボクは思う。遠回りでもいい、直球ストレートの球を投げるより前に相手へサインを送るべきではないかと。はたまたそれを、手紙を送ること、と言い換えてもいいかもしれない。相手の反応を伺いつつ、相手にトビラを開ける動作が見え始めてきたらアクションを起こせばいいのではないかとボクは思う。

結局のところボクが言いたいのは、相手の話を聞いてあげてほしい、ということ。相手が本音を話してくれていると感じたら自分の意見は後回しにしてほしい。最後までウンウンと頷いて聞いてあげる。それだけをまずはしてほしい。自分の話なんかその後だっていくらでもできる。1番大事なのは目の前にいる相手が、普段話せないようなこと、溜め込んでいることを自分に向かって話しかけてくれている。それがとても大事なんだってこと。

小さい頃からボクは人の話ばかり聞いていた人間だ。べつに話すことが嫌いとかそういうことではない。気づけばそんな自分だっただけ。それも高校生ぐらいからなのか、大人になるにつれていろんなものを見たり知ったり聞いたりして、自分も感じたことを誰かに話したくなるようになった。ボクはコレが好きでこんな事をあのとき思ったんだ！と。わかって欲しい、理解して欲しい、共感して欲しい。

そして今になって思う。そんな自分になってからボクの話を聞いてくれる人がずいぶんと減ったな、と。小学生の頃のようにボクの近くまできて、話を聞いて欲しいと言ってくれる人がグンと減ったことに気付いた。

それはそれでイイと認めたい

話は逸れるけど、今の時代は誰もが個性を主張したがる雰囲気が目立つと感じる。私を見てくれと言わんばかりに、SNSで刺激的な音楽や映像で注目を浴びたがる人が増えたと感じる。

別に個性を主張すること自体は悪いことではない。誰もが自由に感じたことや意見を世の中に向けて発信できる世の中になったのは、いい意味で壁がない自由な世界だ。だけどお互いが意見や個性を主張してばかりでは、いつしか反発や衝突が訪れるのは目に見えている。

だからお互いがお互いのことを認めあったり、なぜそうなったのかを知り、原因を探っていく必要がある。 と、ボクは感じている。

今回の滝さんの話に戻ろう。滝さんは俳優やアーティストとしても活躍していた。特に音楽活動はレイヴというけっこうコアなジャンルだったそうだ。そのレイヴだって１つの音楽に変わりはない。それはそれでいいと感じる人たちがいる。芸術とはそういう人たちのためにあるのではないか。誰かが否定するべきものではなく、こういうものがあるんだよ。ということを教えてくれる存在なんじゃないかと。

ただ今回の一件、滝さんが捕まったがキッカケで音楽自体や音楽業界にまた一つ傷がついた。彼が悪いわけではないのに、まるで音楽が汚いものに見えてしまったように感じる。ボクはこれがとても許せない。目に見えない問題が故に、大好きな音楽が穢されていく様を黙って見ていられないと強く思った。

誰か一人の人間を責めたところでこんなに大きな問題は解決しない。もう問題は一人歩きを始めてさまよっている。ボクたちはこういう目に見えない問題と戦わなくちゃいけないんだ。誰かが放置したままの問題を、怪物を、みんなと手を組んで立ち向かっていかなくちゃいけない。

そのためにもNさんや滝さんを見ていて改めて思った。もっと人の話を聞ける自分に戻らなければいけないと。いがみ合っていては何も始まらない。この世の中は、誰かがほったらかしにしたコトやモノで溢れかえっている。誰かが手放してしまった、面倒臭いからといって放置したまま一人歩きを始めてしまった怪物をボクたちがてなずけなければいけない。

ただ強くそう思った。