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評論

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2022年1月の記事一覧

「歴史」とは何か

E・H・カーが、1962年に刊行した代表作の一つである"What Is History?"において、歴史を定義して「歴史家と様々な事実との間の交流であり、過去と現在との間の終わりなき対話である」[1]と指摘したことは周知のとおりです。

ここでカーが強調した視点は、「歴史」の理解に求められるのは対立や競争ではなく、交流と対話であることを示しています。

すなわち、ある「歴史」においていずれの理解が

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What Is a Problem of the Beijing Olympics?

The Beijing Olympics will start on 4th February.

Regarding the Beijing Olympics, some countries such as the United States and Australia have decided to conduct a "diplomatic boycott" by not sending m

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開幕1週間前に考える「北京五輪への興味と関心の高まりの可能性」

2月4日に開幕する冬季オリンピック北京大会まで、あと1週間となりました。

個別の競技や選手に対する興味や関心の高まりはあっても、日本国内において大会そのものへの注目の度合いは必ずしも高いようには見えません。

もちろん、昨夏のオリンピックは日本で開催されたのですから、関心の有無にかかわらず絶えず五輪の情報に接したことを考えれば、他国での開催となる北京大会への関心が相対的に低くなるとしても不思議で

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「新大関御嶽海」は角界に新風を吹き込めるか

昨日、日本相撲協会は大相撲の東関脇御嶽海の大関への昇進を決定しました。新大関の誕生は2020年9月場所後に昇進した正代以来となり、長野県出身の大関は1795(寛政7)年3月場所の雷電以来227年ぶりとなります。

今年1月場所で3度目の幕内優勝を果たし、2021年は年間で横綱の照ノ富士に次ぐ55勝を記録、三役も28場所務めるなど、御嶽海は角界の実力者でした。

また、2015年3月場所で最初の取り

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「まん延防止等重点措置の適用地域の拡大」で当局に求められるのはいかなる態度か

昨日、政府は新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき、北海道、大阪府、京都府、兵庫県など18道府県をまん延防止等重点措置の対象地域に追加しました。

これで、すでに適用されている東京都など16都県と合わせて34都道府県が対象となり、全国の7割以上に拡大することになりました。

各地で新規感染者数が過去最多を記録し、国内の感染者数が初めて6万人を超える[1]など、現在の状況に鑑みればまん延防止等重

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いつまで続けられるか経営陣のロックアウト

去る2021年12月13日(月)、日刊ゲンダイの2021年12月14日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第106回「いつまで続けられるか経営陣のロックアウト」が掲載されました[1]。

今回は大リーグの労使対立の背景と今後の展開について検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。

いつまで続けられるか経営陣のロックアウト
鈴村裕輔

新たな労使協定の

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ウラディミール・バレンティン選手の「日本球界からの引退表明」に寄せて

本日、福岡ソフトバンクホークスに所属していたウラディミール・バレンティン選手が日本球界からの引退を表明しました[1]。

東京ヤクルトスワローズとホークスに合計11年間在籍し、2013年には日本プロ野球の新記録となる年間60本塁打を達成するなど、バレンティン選手は日本の野球史に残る偉大な選手の一人です。

ところで、バレンティン選手が従来の日本記録であった年間55本塁打を更新したのは2013年9月

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What Should President Joe Biden Do after His First Year in Office?

Today, US President Joe Biden marks his first year in office.

After pledging to unite the nation at his inauguration, President Biden has turned around the isolationist policies of the Trump Administ

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岸田文雄首相の最初の施政方針演説の問題点は何か

昨日第208回国会が召集され、衆参両院において岸田文雄首相が施政方針演説を行いました[1]。

演説の中で岸田首相は新型コロナウイルス感染症対策を政権の最優先課題として取り組み、5500万人分のワクチンの3回目の接種を所定の期間よりも前倒しで実施することを表明するともに、気候変動などに対処して持続可能な発展を実現するため、「経済社会変革」に挑戦する意欲を示しました。

また、外交及び安全保障につい

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阪神・淡路大震災の発生から27年目にわれわれは何を考えうるか

本日、1995年1月17日(火)に阪神・淡路大震災が発生してから27年目を迎えました。

本欄が繰り返し指摘するように、どれほど鮮明で克明な体験であっても、時間の経過に伴って記憶として堆積するからには風化は避けられず、記憶は風化するという事実から出発することが、阪神・淡路大震災を後世に伝えるための出発点となります[1]。

一方で、どのような出来事であってもわれわれの体験は風化する以上、記憶が薄れ

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「レイチェル・バルコヴェツ氏のマイナー球団監督就任」はいかなる意味を持つか

現地時間の1月9日(日)、大リーグのニューヨーク・ヤンキース傘下であるルーキー・リーグのGCLヤンキースの打撃コーチであったレイチェル・バルコヴェツ氏は、同じくヤンキース傘下である短期A級タンパ・ターポンズの監督に就任しました[1]。

バルコヴェツ氏は2020年に米国のプロ野球史上最初の「女性コーチ」となっており、今回の監督就任により、同じくプロ野球界として初の「女性監督」が誕生することになりま

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『鎌倉殿の13人』は「大河ドラマの生き残り」に寄与できるか

本日20時から、NHKの大河ドラマ『鎌倉殿の13人』が始まります。

1963年以来続くNHKの看板番組である大河ドラマは、2009年以降平均視聴率の低下が進んでいます[1]。

もとより、視聴者のテレビ番組の受容の方法が多様化し、Netflixなどのオンデマンド配信が普及した現在においては、平均視聴率のみが番組の価値を決めるものではないことは明らかです。

その一方で、すでに本欄が指摘するように

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開幕1か月前に考える「北京オリンピックの問題」

去る1月4日(火)、北京オリンピックの開会まで1か月となりました。

北京オリンピックを巡っては、中国国内での人権問題を理由として米国やオーストラリアなど一部の国が主要な政府高官を開閉会式に派遣しない「外交的ボイコット」を行うことを決めており、日本もこうした動きに追随する形で政府関係者の参加を見送ることを決めました[1]。

中国政府が「スポーツの政治化」に反対し、国際オリンピック委員会(IOC)

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岸田政権の「長期政権への遠い道のり」

本日、岸田文雄氏が2020年10月4日に首相に就任してから3か月が経ちました。

これまでの間は、新型コロナウイルスのオミクロン株の流行を受けた国際線の新規予約の受付停止措置を3日後に撤回したり、国土交通省の統計改竄問題で第三者委員会の設置を斉藤鉄夫国土交通大臣に指示するなど、政権の基盤を揺るがしかねない問題に対して比較的迅速な対応を講じています。

また、自民党の総裁選挙で「聞く力」を標榜し、国

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