「レイチェル・バルコヴェツ氏のマイナー球団監督就任」はいかなる意味を持つか

現地時間の1月9日(日)、大リーグのニューヨーク・ヤンキース傘下であるルーキー・リーグのGCLヤンキースの打撃コーチであったレイチェル・バルコヴェツ氏は、同じくヤンキース傘下である短期A級タンパ・ターポンズの監督に就任しました[1]。

バルコヴェツ氏は2020年に米国のプロ野球史上最初の「女性コーチ」となっており、今回の監督就任により、同じくプロ野球界として初の「女性監督」が誕生することになります。

米国社会全体の趨勢に比べ、女性や人種的少数派を球団の経営や指導者として起用する動きに欠けるとされるのが大リーグです。

このような状況があるからこそ、バルコヴェツ氏やサンフランシスコ・ジャイアンツのアシスタント・コーチのアリッサ・ナッケン氏、あるいはフロリダ・マーリンズのゼネラル・マネージャーであるキム・アン氏ら、「活躍する女性」の様子が重要な取り組みとして注目されることになります[2]。

従って、球界を代表するヤンキースによる人事という話題性の高さを考えれば、バルコヴェツ氏の監督就任は一面では米国社会に対する実績作りの域を出ないことが推察されます。

一方で、選手の育成に主眼が置かれ、勝敗を重視する割合の低い短期A級であるとはいえ、一つの球団を指揮することに代わりはありません。

特に充実したマイナー組織はメジャー球団の戦力を長期的に向上させることは、有力なフリー・エージェント選手を中心とした球団作りが成功せず、1990年代に入ってからの育成制度の拡充がヤンキースを「斜陽の名門」から「常時優勝を争える強豪」へと復活させたのは周知のとおりです。

その意味で、今回の人事はヤンキースとして球団の基礎をより強固にするためにバルコヴェツ氏が適しているという判断によることをも示唆します。

それだけに、バルコヴェツ氏がA級以上の指導者となるか否か、あるいはバルコヴェツ氏に続く人材の登用があるか否かは球界全体の多様化の促進への取り組みの指標の一つなるでしょう。

今後のバルコヴェツ氏の足跡は重要な意味を持つゆえんであります。

[1]Rachel Balkovec to manage in Yanks' system. MLB.com, 10th January 2022, https://www.mlb.com/news/rachel-balkovec-to-manage-yankees-low-a-team (accessed on 11th January 2022).

[2]鈴村裕輔, 小さな変更を大きな改革として宣伝する大リーグ帰国や球団経営者の思惑. 2021年7月26日, https://researchmap.jp/blogs/blog_entries/view/76353/afee15d6cc55c343fe4c7a2a37d666d0?frame_id=435622 (2022年1月11日閲覧).

<Executive Summary>

What Is a Meaning of "Balkovec as a Manager in Yank's System"? (Yusuke Suzumura)

It is announced that Rachel Balkovec is appointed as the Manager of GCL Yankees, the Short-A team of the New York Yankees, on 9th January 2022. In this occasion we examine a meaning of this personnel selection.

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