いつまで続けられるか経営陣のロックアウト

去る2021年12月13日(月)、日刊ゲンダイの2021年12月14日号27面に連載「メジャーリーグ通信」の第106回「いつまで続けられるか経営陣のロックアウト」が掲載されました[1]。

今回は大リーグの労使対立の背景と今後の展開について検討しています。

本文を一部加筆、修正した内容をご紹介しますので、ぜひご覧ください。


いつまで続けられるか経営陣のロックアウト
鈴村裕輔

新たな労使協定の締結が期日までに実現しなかったことで、大リーグでは機構と経営陣による施設封鎖(ロックアウト)が始まった。

大リーグでロックアウトが行われるのは史上最長の労使紛争となった1994年から1995年にかけてのストライキ以来26年ぶりのことである。

「百万長者と億万長者の争い」「ファン不在の対立」などと批判を受け、大リーグは人気の低下と観客数の減少という非常の事態に見舞われた。

1998年のマーク・マグワイアとサミー・ソーサの本塁打王争いによって社会的な注目度を回復し、2007年には史上最高の約7950万人の来場者を記録して当時のコミッショナーのバド・セリグが「われわれは黄金時代を迎えている」と指摘するなど、2010年代までの大リーグでは、労使対立はほとんど過去の出来事であった。

この背景には、1995年から1997年までの3シーズにわたる来場者の低迷という経験から、労使協定の有効期間を5年間とし、意見の対立はあっても交渉が決裂することを慎重に避けて来た選手会と大リーグ機構・球団経営陣の妥協と譲歩があった。

しかし、「コロナ禍」によって人々の生活が一変し、世界的な経済活動の停滞や先行きの不透明感、さらに物価騰貴の進展などから、大リーグを含むスポーツ界の環境は厳しさを増している。

そのため、対立点があっても新協定の締結を優先する余地は乏しくならざるをえない。

経営者側は労使協定の改定を好機と捉え、「コロナ禍による収益構造の変化」を理由に年俸総額制の導入への道筋をつけるべく贅沢税の算定基準額の引き下げを強硬に主張したことが、交渉決裂の決定的要因だった。何故なら、「年俸総額制は選手の権利の侵害」と主張してきた選手会側にとって、経営者側の要求は受け入れられないものだからだ。

だが、人々の趣味が多様化した現在、大リーグは他のスポーツだけでなくNetfflixといった映像配信サービスなどとも視聴者の獲得を競い合わなければならない。ロックアウトが長期化し、2022年のシーズンに影響を及ぼすことは大リーグが視聴者から見捨てられることに繋がりかねず、経営陣にとって重要な収入である放映権料への打撃は避けられない。

何より、激しい対立の裏面で折衝が行われるのは、交渉の常識でもある。

労使問題への対応を評価されて機構内での地位を固め、コミッショナーの座を手にしたのがロブ・マンフレッドであることを考えても、有効期間の短縮や贅沢税の扱いの継続審議といった妥協点を見出して、新協定の締結が急がれる状況にあることに変わりはない。

最初の関門である2021年内の妥結に向けて、関係者の交渉は続けられることになる。


[1]鈴村裕輔, いつまで続けられるか経営陣のロックアウト. 日刊ゲンダイ, 2021年12月14日号27面.

<Executive Summary>
When Will the MLB Lockout End? (Yusuke Suzumura)

My article titled "When Will the MLB Lockout End?" was run at The Nikkan Gendai on 13th December 2021. Today I introduce the article to the readers of this weblog.

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