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【木曜日】【短編】本当に怖くない猫の話

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1話完結型です。何でも屋の男が猫の見合いを依頼してきた女性によって、猫に関する依頼が増えて猫にまつわる話を聞かされるという形で書いています。
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#本当に怖くない猫の話

【全話】本当に怖くない猫の話

【全話】本当に怖くない猫の話

はじめに

noteでこれまで書いた同じタイトルのものをまとめようと思い立ちました。この「本当に怖くない猫の話」を一つにしています。
正直、誰か読んでくださったかわからないですが、9万字以上も書いたんですね。
noteでは、ほとんど日記や読書感想文を書いています。たまにこうした小説を性懲りもなく書いていますが、あまり気にせずお付き合いいください。
誤字脱字など校正に手を出すと、話がすっかり変わって

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続・本当に怖くない猫の話「猫と小判」

続・本当に怖くない猫の話「猫と小判」

 昨日はケージから脱走して自由を満喫した子猫2匹たち今日は外に出る気が全くないようだ。やんちゃ盛りの子猫たちをケージの外から見守っているメス猫二匹に子猫と血縁関係なないらしい。その猫たちもケージの方に顔を向けているだけで、だらりと床に寝そべっていた。扉が閉まっていないので、どうしても猫たちの様子が目に入って、話の内容に集中できない。
 あまり愛想がよくないという猫たちは、初対面のなんでも屋にほぼ無

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【短編】続・本当にこわくない猫の話「コンプレックスは猫で解消」

【短編】続・本当にこわくない猫の話「コンプレックスは猫で解消」

 なんでも屋は疲れていた。連日の仕事で疲労はピークに達していた。
 結婚相談所のスタッフの仕事ではない。なんでも屋の仕事の方だ。なんでも屋は自分の生計の基盤が、いかに結婚相談所の仕事の方にあろうともなんでも屋が本業だと思って続けてきた。けれども、それもそろそろ返上しなければならない。四十の坂も目前の一生独身の自分が結婚相談所の職員として説得力のない仕事を続けていくことが運命として定まっているのかも

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続・本当に怖くない猫の話「三毛猫美容室」

続・本当に怖くない猫の話「三毛猫美容室」

猫と人間の結婚相談所「ハッピー+」が開業して、もう3年が過ぎた。何でも屋が何でも屋の仕事を始めて、4年が過ぎたということだ。
依頼人の父親からこの仕事に誘われて、アルバイト感覚で始めた契約社員であったが、もはやこちらが本業だと意識から逃れられないと途中までは思っていた。
しかしながら、案外と何でも屋の仕事も尽きないものだ。
疫病流行の収束とともに、買い物代行の仕事はほとんどなくなった。
しかし、ペ

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続・本当に怖くない猫の話 part.9 「ねこ日記」

続・本当に怖くない猫の話 part.9 「ねこ日記」

Twitterの終わりに#の文化がきょうびは死語になりつつあるらしい。
検索に引っかかるか?どうか、人気のあるコンテンツに便乗するか?を考えてばかりなのは、今や大人だけ。子どもたちはタイトルにヒキのあるコンテンツであれば流行ってようがどうでもいいらしい。
好みの全てが昔の子供っぽい児戯だと笑われれば、自分こそ古い文化に乗っかった死語の代名詞ではないかと"何でも屋"は思う。
社会の常識に適応できず、

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続・本当に怖くない猫の話 part.8

続・本当に怖くない猫の話 part.8

その後の太宰のその後

何でも屋は普段は結婚相談所の職員をしているが、本業は何でも屋で猫の依頼をされることが多い。それは、単純な迷い猫探しではなく、例えば、猫の新たな飼い主を探したりであるとか、猫にまつわる家族の厄介事を相談されることもある。

それらはいつも非常に難解であるが、いつの間にか話を聞いているうちに、本人たちの中で自己解決してしまう。だから、結局のところ、何でも屋の仕事もほとんどは結婚

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本当に怖くない猫の話 part.7

本当に怖くない猫の話 part.7

アレルギーの猫は怖くない

穀物アレルギーの猫の飼い主が結婚相談所『ハッピープラス』に現れた。人間が猫のアレルギーなのでなく、猫がアレルギーを持っている。猫が穀物を食べられないので、自分も食べないのだという。だから、結婚相手もそれを理解して、グレインフリーな肉食生活を送ってくれる人が良いそうだ。そういった要望に応えられるのか、何でも屋は返答に困り、所長に対応をお願いした。

「そういったご相談であ

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続・本当に怖くない猫の話 part.6

続・本当に怖くない猫の話 part.6

猫と出会う旅は怖くない

「この世のすべての猫と出会いたいんです。その旅に同行してくれるパートナーを探しています」

目の前の男性は唐突にそう切り出した。何でも屋はじっくりと男性を上から下まで観察した。外資系の商社に勤める会社員らしく、スーツを慣れた感じで着こなし、シャツは皺ひとつない。
ん少しタレ目で人好きのする顔をしている。穏やかそうで、見た目だけなら平凡を好みそうだ。とても冒険家を志すように

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続・本当に怖くない猫の話 part.5

続・本当に怖くない猫の話 part.5

番犬をする野良猫猫に好かれすぎて困っている。
猫のせいで婚期を逃してしまいそうだと真剣に訴えてきた女性はまだ20代であった。
実家は資産家だが、大学を卒業して後はよほどのことが無ければば援助をしないと言われている。
大学卒業後は、ずっと派遣社員。収入が少なくとても猫3匹も養う余裕がない。今の2匹だって手いっぱいなのだ。
しかし、まだ後一匹家に入りたがる猫がいる。
その猫は最も健気で、彼女が帰宅する

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続・本当に怖くない猫の話 part.3

続・本当に怖くない猫の話 part.3

運命の猫は怖くない

「こんにちは。今日もお疲れ様です」

新宿の街に似つかわしくない明るく爽やかな声で現れたのは、元力士の議員秘書だ。

久しぶりの来訪に猫と人間の結婚相談所「ハッピープラス」に、一瞬不穏な空気が流れた。
結婚相談所において、以前の会員が訪れる事は良いことではない。
何かのクレームか?結婚後の愚痴を言いに来たのか?それとも離婚したので、再び会員登録して結婚相手を探したいのか?

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続・本当に怖くない猫の話  part.3

続・本当に怖くない猫の話  part.3

これまでのあらすじ

猫が口実

何でも屋には依頼人しか友達がいないかもしれない。さらに、同僚も依頼人しかいなくなった。所長は同僚とは言えないだろう。
結婚相談所の職員の1人が、出産を機にパート勤務を申し出て、それから、2ヶ月の間に2人の正社員もパート勤務を申し出た。
なんでも、子育てや副業に忙しいらしい。

何でも屋は、一応結婚相談所の正社員と言うことになっている。しかし、何でも屋の仕事が自分の

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続・本当に怖くない猫の話 「坐禅する猫は怖くない」

続・本当に怖くない猫の話 「坐禅する猫は怖くない」

来るべき時が、来てしまった。
何でも屋の元に、猫の捕獲依頼が届いた。
逃げ出した迷い猫ではない。
春から庭にやってくるようになった成猫3匹を捕まえてほしいというのである。
捕まえた後は、その依頼人ではなく依頼を仲介した依頼人の依頼人、結婚相談所「ハッピープラス」で働く何でも屋の同僚がしばらく預かる。
そして、人馴れをさせてひっかいたりせず、ご飯もトイレも覚えたら、引き取り手を探す。引き取り手が現れ

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続・本当に怖くない猫の話 part.2

続・本当に怖くない猫の話 part.2

【長毛の三毛】
「冬は結婚相談所の閑散期なんだけど、こうもお客様が多いのは異常気象のせいかしらね」

かの国には正月明けから零下62度の冬将軍が襲ってきているというのに、日本は気象庁が春のような気候と発表している。
なるほど、小春日和というより確かに春である。
ブラインドの隙間から差し込む日差しを目当てに数匹の猫たちが窓辺で横になっている。
気温は初夏の手前といって差し支えない。
日中の都内の気温

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続・本当に怖くない猫の話 part.1

続・本当に怖くない猫の話 part.1

夏の休日、何でも屋は海釣りの帰りに依頼人の家に寄った。

今週は毎日家を行き来していることに何でも屋も依頼人も気づいていなかった。

「ずいぶんと日焼けで赤くなってますね。痛そうです」

「顔だけですから、大丈夫ですよ。アジが大量に釣れたんで、料理してもらおうと持ってきました」

何でも屋は釣り道具一式をいそいそと下ろして、クーラーボックスを開いて見せた。

「アジがいっぱい釣れたんですよ。料理し

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