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夜ふかしの理由。

今日も、気付けば日付を跨いでいた。

ベッドに入り、YouTubeを見れば時間は過ぎていく。とっくに見たい動画なんてないはずなのに、今日という日を終わらせないように、次の動画を再生する。

俺は今日という日に一体、何を期待してたのだろう。

 

朝、iPhoneのアラームで目が覚める。寝不足のせいか、頭が重い。

12月の冷気が皮膚を刺し、乾燥した喉が痛くて、苛立ちを覚える。

今にも閉じそうな目を擦り、音のうるさいソレに電源をつける。6時20分を映し出す液晶は、今日が始まったことを告げていた。

 

誰でも入れるような大学を卒業する年には、誰でも働けるような会社の入社式があった。
それから1年経った今でも、会社に対する評価は変わらない。

この1年間で身についた事といえば、仕事を受けつけないよう忙しいフリをする事と、飲み会で注ぐビールのラベルを気にすることくらいだ。

あの日、たしかに描いたはずの輝く社会人はいない。家に帰れば、ストロングを2缶空けて、1人で、自分を慰めて、終わる1日に絶望することを繰り返す人間が存在するだけ。

 

また退屈な1日が始まってしまった。ベッドから出て、西友で買った84円の食パンを焼く。6枚にスライスされたソレは、変わり映えしない味がして、今日が他の日々と変わらぬことを暗示しているかのようだ。

歯を磨き、3日前に切ったばかりの髪にワックスをつける。鏡を見れば、どこにでもいるサラリーマンがそこにいた。黒髪の、何の特徴もない外見だ。

学生の頃、金髪に染めた自分が、何者かになった気持ちでいたことを思い出す。外的特徴の違いで、ナニカになったつもりでいた俺は、周りから見たら痛い奴、だっただろう。

でも、誇るモノがない俺には、それしか特別になる方法がなかった。

ただ、逆上がりができるだけで特別であった頃が懐かしい。

親に怒られ、泣き腫らした目に違和感を抱いて起きた朝も、これから始まる遠足に飛び起きた朝も、どの朝も、特別だった。

しかし、今では、特別でない朝に、特別でない自分がいるだけ。その他大勢の、大人の一人となってしまった。毎日が特別だった頃が懐かしい。

 

また、つまらない1日が、その役目を終えようとしている。何でもない、適度に怒られ、適度に疲れ、適度にストレスを抱える1日であった。

PCの電源を落とす。飲み干されたいろはすをゴミ箱に投げ入れる。何度か繰り返したであろうこの動作からは、何も得るモノがない。荷物をまとめ事務所を出る。

出社した頃よりも、信号の光が強調されている。規則正しい電灯は、行き交う人々の行き先を照らしていた。それなのに、俺の先には光がみえない。

吐き出される息の白さに驚く。息が白いことを確認すれば、必ず温かい息を出そうとする人間の習性は何なのだろう。そう思いながら、ゆっくり息を吐き出す。

全身を纏う冷たい空気から逃げ出すように、セブンイレブンに入る。500円程度の弁当に、ストロングをカゴに詰め込む。コンビニですら、同じことの繰り返しだ。

 

1ルームの部屋に、電気を灯す。生活に必要なモノと、数冊の小説があるだけの部屋は、自らが凡人であることを強調しているようだ。

ストロングに手をかける。この瞬間。この瞬間だけは好きだ。何も為し得なかった今日に、赦しを乞うような気持ちになる。

数分もすれば、全てがどうでも良くなる。そのことがわかっているからこそ、ありのままの自分を受け入れることができる。そんなこの瞬間が、好きだ。

 

また、1日が終わってしまった。

すでに酔いは幾分か醒めており、残るのはほんの少しの罪悪感と、眠気だけだ。

すでに0時を回った時計は、俺を絶望させるには十分だった。現実から逃げるように、コードを挿しっぱなしにしたiPhoneを、持ち上げる。

いつからだろう。こうやって夜ふかしをするようになったのは。社会人になったばかりの頃は、これから始まる生活に胸を躍らせ、活躍する自分に期待を抱き、ベッドに潜り込んでいた。

今では、怯えている。

終わってしまうこの1日に。

だから、またYouTubeでどうでもいい動画を再生する。
今日という日を終わらせないために。

寝なければ1日は終わらない。小さな頃、本気でそう信じていた。そんな訳がないとわかったはずの、大人の俺は、夜を深めていく。

また、新たに始まる今日に怯えながら。

2020年12月6日

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