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聖騎士シリーズ

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オリジナルRPG曲集×音楽寸劇のシリーズです。造語コーラス曲が特徴のダークファンタジー。
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#掌編小説

聖騎士シリーズまとめ

聖騎士シリーズまとめ

オリジナルRPG曲集、聖騎士シリーズのまとめです。
2021年5月2日〜公開順にまとめています。時系列順のまとめはこちらから。

■ ラスボス編 / 過去の英雄と黄金の城「昏き英雄」

1作目。この曲から始まりました。

「冥府の婚礼」

2作目。婚約者も出てきてます。

「昏き目覚め」

3作目。遠い昔の穏やかな記憶。

■ 過去編/ 聖騎士が英雄となった頃の話「理の形象」

4作目。《魔王》の

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ミハルカ・テーゼの章(4)【掌編小説】

ミハルカ・テーゼの章(4)【掌編小説】

 ――親愛なるミィハへ

 お元気ですか? 私は元気です。
 あなたとお喋りしていたのが昨日のことのようになつかしい!

 この数ヶ月で、私の髪やまつ毛はすっかり白くなってしまいました。以前にも話したとおり、私の家系の人たちは扱える魔力の種類によって髪の色を変えます。中でも白はとても珍しいそうです。
 まだ私たちの家に御三家だなんて区切りがなかった時代にこの国を救った、初代大賢者様の髪がこの色だっ

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ミハルカ・テーゼの章(3)【掌編小説】

ミハルカ・テーゼの章(3)【掌編小説】

 エリーネが体調を崩したと聞いて、北の森にあるロジウ様の別邸に見舞いに行くことにした。
 別邸を囲う結界の入り口へは案内役の使い魔が馬車を誘導し、そこから先は使用人が案内してくれる。

「ミィハ……来てくれたの? 嬉しいわ!」

 部屋では寝巻き姿のエリーネがベッドに横たわっていた。
 これまで彼女との間にあった距離は、いつも彼女が詰めてきてくれたのだと知る。今日は一歩一歩、自分が近付いていく番だ

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ミハルカ・テーゼの章(2)【掌編小説】

ミハルカ・テーゼの章(2)【掌編小説】

「ねえミハルカ、勉強会はどうだったの? 楽しかった?」

 まるでデートの報告を待ちわびる少女のような瞳で、エリーネがたずねてきた。

「楽しかったかどうかはわからないけれど……とても興味深い内容だったわ。詳しく聞きたい?」
「ふふ……遠慮しておくわ!」

 予想通りの反応だ。

「で……誰か気になる人はいた?」

 エリーネがずいと距離を詰めてくる。
 第一賢者様の主催する魔導薬学の勉強会には、

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ミハルカ・テーゼの章(1)【掌編小説】

ミハルカ・テーゼの章(1)【掌編小説】

 ミハルカという名前には、大空という意味があるらしい。
 テーゼ家の長女として生まれた私に、当時の王国付き魔導師であったお祖父様がつけてくれた名だ。

「また古代文字の勉強か?」

 王宮図書館で一人勉強していると、積み上げた分厚い魔導書の隙間からロジウ様が顔を出した。

「はい。今は先祖の故郷で用いられていた言語の解読にいそしんでいます」

 第一賢者であるロジウ様は、私の親友エリーネのお父上で

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聖女ミェゼの章(4)【掌編小説】

聖女ミェゼの章(4)【掌編小説】

 目を覚ますと、そこには僕の顔を覗き込むミェゼの姿があった。身体中がやけるように熱く、指一本満足に動かすことができない。

「私ね、お父様からこの命をもらったの。これはその印……」

 小さな手に包まれた僕の指が彼女の胸の刻印をなぞる。それは翼を広げた鳥の形をしていた。

「私たちが最も愛した者に贈る印よ。今はあなたの胸にもある……」

 何か喋ろうにも意識が朦朧として、喉笛がひゅうひゅうと音を立

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聖女ミェゼの章(3)【掌編小説】

聖女ミェゼの章(3)【掌編小説】

 その日はいつも通り聖女様のお部屋の前で見張り番をしていた。
 聖女様はこのところ体調が思わしくなく、前ほど頻繁にはお話されなくなっていた。

「今日は少し冷え込みますね。聖女様も温かくなさってお過ごしください」

 返事はなくとも、こうして毎日声をかけるのが日課となっていた。それが僕がここにいる意味だと思っていたから。
 そして――。

『ナスカ――逃げて』
「え……?」

 突然の声に振り返る

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聖女ミェゼの章(1)【掌編小説】

聖女ミェゼの章(1)【掌編小説】

 聖女ミェゼの第一印象は、小鳥のような声の人、というものだった。

 衛兵である僕が彼女と顔を合わせることはない。朝昼晩と数人の世話係が出入りする扉の前で、日がな一日見張り番をする仕事についた。夜は別の者と交代するが、互いの名前や素性を教え合うことは禁止されている。

「今日から新しい方なのね。お名前を聞いてもいいかしら?」
「ナスカと申します、聖女様。今日から配属になりました。これからどうぞよろ

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聖女ミェゼの章(2)【掌編小説】

聖女ミェゼの章(2)【掌編小説】

 聖女様はとても博識だった。持ち主の魔力によって身体の色を変える使い魔や、全身がお菓子でできた空飛ぶドラゴンの話、太古の魔術師が残した禁断の魔導書の話。
 そのどれもが、世の中のことをよく知らない僕の心を素晴らしくワクワクさせるのだった。

「……というのは全部嘘よ。忘れてちょうだい」
「ええっ!」

 そして僕はしばしば、こうして聖女様の嘘に騙されている。

「ナスカは本当に人がいいんだから。聞

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ひだまりの記憶【掌編小説】

ひだまりの記憶【掌編小説】

「お兄ちゃんみーっけ! ふふ……」

  昼の陽気が差し込む草むらに少女の笑い声が響く。

「また見つかっちゃった……メル、そんなにはしゃぐと疲れちゃうよ!」
「だいじょーぶー!」

 グリスは隠れ場所にしていた大きな樹の陰から体を起こすと、他の子どもたちを探しにいく妹の背中に慌てて声をかけた。

「昼間は元気なんだけどなぁ……」

 そんな独り言ともいえる呟きに、近くで子どもたちの遊びを監督して

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書を司る者【掌編小説】

書を司る者【掌編小説】

 瞳がこぼれ落ちそうなほどに目を見開いて、少年は高くそびえる無数の本棚を見上げた。

「ここが……王宮図書館?」

 部屋いっぱいに大好きな本の香りが漂っている。まだ読んだことのない本がこんなにたくさん世の中にあるなんて。周りの本棚に目を走らせただけで、少年の心は踊った。

「そう、私はここで魔導司書をしているの。あなたのことを案内するわ」

 そう言われ、少年はその日の目的を思い出した。目の前の

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遠い日の記憶【掌編小説】

遠い日の記憶【掌編小説】

「賢者さまありがとう! これで外に遊びにいけるよ」

 沈みゆく陽射しに照らされた礼拝堂のカーペットの上を一人の少年が駆けていく。賢者と呼ばれた女は、うっすらと微笑んでそれを見送った。

「どういたしまして」

 彼女がこの教会で行う賢者としての仕事が今しがた終わったところだ。その肩書きに似つかわしい落ち着きを見せる女の横顔に、アースレイは声をかける。

「ミハルカ、いつもありがとう。夜、痛みで眠

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まどろみの中に沈む【掌編小説】

まどろみの中に沈む【掌編小説】

「エイデル……?」

 目を覚ますと傍らに婚約者の顔があった。彼は微笑みながら息をつき、重ねた手をぎゅっと握ってくる。

「君にそう呼ばれると安心する……気分はどうだい?」

 そう言われ、ルカリスは反射的に微笑み返した。彼がしてくれたのと同じように。
 エイデルというのは、彼ーーアデルバートの愛称だ。ルカリスに限らず、親しい者は皆彼のことをそう呼んでいるのだという。
 薄暗い部屋には二人の他に誰

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