【年齢のうた】中川五郎 その1●50すぎの主婦の人生…「主婦のブルース」
テンコ盛りの夏を過ごしています。
まずは、何と言ってもフジロック。今年は2日目のみの参加。
カミさんが大ファンである10-FEETが目当てでした。いやぁ堪能しまくった。彼らの前後、スカパラとマンウィズへのゲストヴォーカル・TAKUMAも見届けたので、テンフィコンプリートな7月27日でした。
ほかにもアンジー・マクマホン、ラスト・ディナー・パーティー、グラス・ビームス、アイドレス、ベス・ギボンズも観て、楽しみました。クラフトワークは断念。
翌日は越後湯沢の界隈も初めて歩き、ロープウェイにも乗ったりと、半ば家族旅行の様相。生配信が合ったので、行く前にキラーズを観たり(ワタルさん!)、帰宅してノエル・ギャラガー(ノエルの後ろ!)を観たりもしました。
今年のフジロックは荒天もなく、去年の電子マネーの不具合のようなこともなく、現地に行った人々はゆったりと楽しめたのではないでしょうか。
で、その前の僕は、プロ野球のオールスターゲームも観戦しに行きました。とても祭りらしい宴。
オールスターゲームの内容については「やっぱり面白い」「やっぱりつまらない」と意見が割れているようで……だいたい「昔はああだった」云々にこだわると面白くないという見方に集約している気配。
試合後に選手がグラウンドを歩いて一周して、スタンドのファンに手を振ってたのと、両リーグ交わるようにタッチしてたのも良かったです。
って、こういう意見が旧世代に受け入れられてないのかな。
ただ、リスペクトし合うことと、仲良くやっているから楽しいということは、まったく違います。後者は近年の一般社会の傾向を反映している気がしますね。
それ以外に僕は取材仕事をしたり、そして世間ではオリンピック報道がしつこいくらいですね。まあバスケットの試合は観ながら盛り上がりましたけど(言えた義理ではない)。
ほかにもありますが長くなるので、今日のお題にいきます。
中川五郎です。
フォークシンガー、そして文筆家としての中川五郎
中川五郎は現在も唄い続けるフォークシンガーである。1949年7月生まれなので、75歳になったところ。出身は大阪で、関西フォークの、そして日本のフォーク・シーンの重要な唄い手である。
長いキャリアの間に、さまざまな歌を書き、唄い、残してきた存在だ。
一方、彼のことを音楽ライター/評論家として、また小説家、文筆家、さらに翻訳家として、もしかしたら編集者として知っている人もいるかもしれない。
中川は多数の著書を残してきた物書きでもある。
僕は10代半ばで中川五郎の名を知り、それから彼の文章を呼んだり、音楽を聴いたりしてきた。
自分が東京に来たあと、この仕事をするようになって初めてお会いした時には、ちょっと緊張したほどだった。その後にインタビューをさせてもらったこともある。実際にお会いした時には「五郎さん」と呼ばせてもらっていた。
そのインタビューも、気がつけばもう20年も前のこと。その後は蔵前だったかのお店にライヴを観に行って、終演後にお話もしたのだが、それからはずいぶんご無沙汰している。しかし今も元気に唄っていらっしゃるようで、何よりである。
60年代当時の女性の像が浮かび上がる「主婦のブルース」
さて、当【年齢のうた】で最初に紹介する中川五郎の歌は「主婦のブルース」である。
この曲は1969年発表。先輩であるシンガーの高石ともや(友也)の歌唱によってフォーク界隈で知られていった。作曲は高石で、作詞が中川五郎だ。
「主婦のブルース」は、「かあちゃんのブルース」と読む。母親として生きてきたひとりの主婦の心のつぶやきを唄った曲である。
歌詞の序盤に、自分自身を、もうすぐおばあちゃんになってしまう、50をちょっとすぎた奥さんだと唄うところがある。
思い通りにいかない人生を唄っている。
この歌は高石の歌が世に出たあと、中川によってセルフカバーされ、彼の初作品に収録された。
翌1969年リリース、小室等の六文銭とのスプリット・アルバムである。
ここでは、高石のバージョンから歌詞が追加されている。もともとの歌詞にも夫が戦争に行った描写があったが、ここではさらに受験戦争や学生運動という背景も描かれているのだ。
この歌は中川の最初のフルアルバム『終り はじまる』にも再度収録された。
「主婦のブルース」は、当時の女性のリアルな心情を唄っていると思う。中川は男だし、想像で書いている部分も多いと考えられるが、それでもかなりのことは60年代の人々の価値観や生き方を反映しているように僕は感じる。
きっとこの歌を聴いた人たちは、議論したことだろう。このかあちゃんは、主婦は、幸せなのか、どうなのか。本当につまらない人生だったのか、あるいは恵まれた人生だったのか。
それに、もうひとつ。50ちょっと過ぎたところで人生を振り返っているところに、今よりも寿命が短く、今よりも老境に入るのが早かった時代性というものを感じる。
しかも当時、いや、今でも、50代の人間の心の内を唄った曲なんて、そうは多くない。しかもこれを作った当時の中川はまだ18とか19という年齢である。
60年代に比べて男女観も生き方への考え方も大きく変わった今の時代であれば、この歌で表現されているようなことが前向きに捉えられることは、そうはないのではないかと思う。ただ、世の中には、現代の価値観に合う人ばかりではなく、昔ながらの考え方こそがハマるという生き方もあるわけで。一概にどうだとも言い切れない。
その点でも、この令和の時代でも語る意味の、捉え直す意義のある曲ではないかと、僕は思った。
中川にインタビューした20年前、僕が家でこの曲を流していたら、カミさんが気になって聴きはじめ、主人公の主婦に同情したのか、エンエンと泣きはじめた。僕は取材の席で中川にそのことを伝えたら、たいそう喜んでくれて、2004年当時の最新アルバム『ぼくが死んでこの世を去る日』のジャケットへのサインにそのことも書いてくれた。
ちなみにこのアルバムには、中川と親交のあるギタリストにしてシンガーのイマイアキノブも参加している。そう、The Birthdayの初期のギタリストだ。この頃、イマイにも取材で会っていた僕は、中川と彼の話を少しだけした。
なお「主婦のブルース」はいくつかのカバーも生んでおり、オリジナルの発表後にはザ・フォーククルセダーズの北山修も唄っている。
「主婦のブルース」は、フォークソング……民衆の歌として、グッと来る歌であり、しかもさまざまなことを考えさせてもくれる、とても優れた作品だと思う。
(中川五郎 その2 に続く)