吉田図工

はじめまして。吉田図工と申します。 今日も何処かでひっそりと想像を膨らまし 創造する喜…

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はじめまして。吉田図工と申します。 今日も何処かでひっそりと想像を膨らまし 創造する喜びを放出させております。 よろしくお願いします。

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【ショートショート】文継ぎセミナー

「これは器が割れたり欠けたりした際に施す金継ぎと同じ要領なんですよ」 文継ぎセミナーの講師は文継ぎについて説いた。 各々受講者が持ち寄った壊れた文章は様々で破損や汚れで肝心な所が読めなくなったアイデアノートや、理由あって引き裂かれた片方だけのラブレターなど様々だ。 私も内容が破綻し収集がつかなくなった執筆途中のショートショート小説をいくつか持参した。 隣の席の女性はこのセミナーの常連だそうで、講師の助手さながらに初心者である私の世話を焼いた。 「もしよろしければ、こちらも使っ

    • 【ショートショート】勤務初日

      「あなたの担当はこの方になります」指導官が指示する先には若い女性が立っていた。 おもむろに彼女の後ろに就いてはみたものの、私はまだ理解が追いついていなかった。 「はぁ。あの…具体的には何をすればいいのですか」 「可能な限り立ち位置は左側で」と指導官から強めの語気で注意が入る。慌てて左側に立ち直すと、彼女はこちらを振り返った。 思わず彼女と目があった私は「すみません」と何故か謝った。 しかし彼女は何も応えず、向きを正すと歩きだした。 「基本的にしていただくことは護衛です」彼女の

      • 【ショートショート】逢鍵

        「悪いね。実はもう作ってないんだ」 深く下げた後頭部に店主の言葉が降り注いだ。 「分かっています。誠に勝手なお願いなのは承知しています。そこを何とかお願いできないでしょうか。代金はいくらでもお支払いし…」 「そうなんだよ。やっぱり勝手なんだよ逢鍵なんてものはさ」 その鍵屋が提供していたとされる不思議な合鍵の存在を知ったのは昨日のこと。居ても立っても居られず駆けつけていた。 「もちろんその気持は分かるよ。こういう言い方をしちゃ何だが、逢いに行くチャンスはあったわけだ。いくらでも

        • 【ショートショート】プロ食事人

          「ねぇ、彩。ずっと気になってた澤山って三つ星のお店。急遽キャンセルが出て二人入れるんだけど今晩どう?」 グルメな先輩社員の誘いに彩は申し訳無さそうに苦笑いをした。 「すみません先輩。私まだ二つ星なんです」 「あーそっか…じゃあこれは久美子に声かけてみるか。じゃあまた二つの店の時に誘うね」 再度すみませんと頭を下げ、彩は自席へと戻った。隣の席で同期入社の上村が待ってましたとばかりにため息をつき、スマホ画面を向けてきた。 「牛丼の吉田家、ついに一つ星になるんだってさ。俺のオアシス

        【ショートショート】文継ぎセミナー

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          【ショートショート】ランドセルからの贈り物

          卒業式を終えたその夜、優太はもう背負うことのなくなったランドセルを机の上に乗せた。 友達の中にはボロボロになっている子もいたが、大事に使っていた優太のランドセルはまだまだ綺麗だった。 それでもついてしまっている擦り傷も今となっては当時の思い出を振り返るための印のようなもので、その傷をなぞるようにランドセルを撫でた 「まだまだキレイだね。大事に使ってたもんね」背後から母親がそっと声をかけた。 「実はね」優太の肩に手を置き母親は続けた。 「今日で小学校もランドセルも卒業だけど、こ

          【ショートショート】ランドセルからの贈り物

          【ショートショート】タコ足伏線

          男は静かに302号室の前に立った。 両親から預かっている合鍵を使いドアノブに手をかけた瞬間、ふと誰かに見られているような感覚に襲われた。 辺りを見回すも人の気配などはなかった。薄気味悪さを覚えながら男は部屋に入った。 この部屋に住む青年が音信不通となり一週間。身を案じた両親からの依頼で男は訪れた。 両親の話では青年は小説家を目指しており、最近はスランプに陥ったようで思うように執筆が進まずひどく悩んでいたようだ。 両親にも立ち入りへの同行を求めたが母親の方の動揺が激しく、やむな

          【ショートショート】タコ足伏線

          【ショートショート】再訪の景色

          林田健吉は遊園地の入場ゲートに立っていた。 経営陣として幾度と足を運んだ場所だったが、客として訪れるのはこれが初めてだ。 ふと、どうやってここに来たのかを思い出そうとしたがうまく思い出せない。 思い出すのを諦めようとしたとき、林田の脇を小さな男の子が小走りで追い越していった。そのちょっとした弾みで何故ここに居るのかを思い出すことができた。 そのせいで男の子の小さな背中を見つめる眼差しは改めて、憂いを帯びたものになったがその先に彼の両親の姿を認めたとき、複雑な心境のまま小さく頷

          【ショートショート】再訪の景色

          【ショートショート】煩悩のちから

          『煩悩の力はホンマにすごいんでっせ』 東光願寺の住職にしてITベンチャー企業『SunriseWish』代表取締役という異色の肩書きを持つ須崎来道が逮捕、連行される際報道陣に向け発した言葉である。 遡ること一ヶ月。 東光願寺の本尊兼、仏像型スーパーコンピューター『正覚』の処理能力が世界一位に輝いたと発表され世界の度肝を抜いた。 取材に駆けつけた報道陣に対し、袈裟ではなくスーツを着込んだ須崎は饒舌に語った。 「我々の知っているスーパーコンピューターとはかけ離れた見た目なのですが

          【ショートショート】煩悩のちから

          【ショートショート】進化

          今じゃ信じられないかもしれないですけど、最初はその名の通り通話しかできない『携帯電話』だったんですよ。 それがデータ通信、いわゆるインターネット通信が可能になって追加されたのがEメール機能なんですよね。 当時はまだ中高生を中心にポケットベルが全盛期でしたから、街中の公衆電話が活躍したものでした。 それが受信と送信が1台の中で完結するわけですから、それだけで画期的な進化だったんですよ。 そして液晶画面がカラー画面になりました。更には形もストレート型が主流だったのが折りたたみ式が

          【ショートショート】進化

          【ショートショート】問いかけ定食

          「へい、定食お待ち」 カウンター席で店主からお盆を受け取る。 店主は定食のご飯を指差しながら 「一杯目から『おかわり』にするにはどうすればいいと思う?」 とっさのことに言葉が出ない。メニューに目を移す。 単に定食とだけで伝えた注文は、日替わり定食のつもりだったのだが 実は『問いかけ定食』だった。 「えっと、その…ちゃんと正解はあるんですか?」 何となくご飯は避けて、とりあえず味噌汁から手を付ける。 「適当言ってるんだから俺が納得すれば正解よ」 目線はまな板で返事が返ってきた。

          【ショートショート】問いかけ定食

          【エッセイ】改名について思いふける中秋の晩

          「もう10月かぁ。早いなぁ。そろそろ今年の流行語大賞のノミネートあるんちゃうか。今年も色々あったけど、今年はアレちゃうか。何やったかなほら、もうここまで出てんねん。アレやアレ」 「もう出てるやん。今年はアレに決まりやろ」 なんていうコントみたいな会話がそろそろ関西の居酒屋から聞こえるのではないかとほくそ笑みながら想像のリハビリをしております。 夏頃に『Twitter』が突如として『X』に名前を変えた時、SNS界隈を全然乗りこなせていない私ですら 「世の中にこんだけ浸透して認

          【エッセイ】改名について思いふける中秋の晩

          【エッセイ】思ってたより残業って暗くなかった(そういう意味ではない)

          最近めっきりテレビを観る時間が減ってさぁ。 と少し誇らしげに話す自分をたまに見かける。 確かにダラダラとテレビ画面に視線が向けられていた時間は減ってきてはいるのだが、その分その視線はスマホ画面に向けられていたりする。 そして、ダラダラとニューストピックスを貪り 『俳優の○○、あの涙の理由を赤裸々告白』なんてのに興味を惹かれタップしてみると 『俳優の〇〇が1日放送の【○△□特番】に出演し…』とテレビ番組の焼き直し記事であることが少なくない。 なんじゃい結局は間接的にテレビ観とる

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          【エッセイ】蝉の声が聞こえない昼下がりにミンミンする

          そういえば蝉の声が聞こえない。 遠い夏休みの思い出の中では、8月31日まで四六時中鳴きじゃくっているイメージだったが、大人になってから改めて意識すると 比較的涼しい午前中に鳴き、日中の暑さがピークを迎える頃にはピタリと鳴きやんでいることに気づく。 蝉ですら分かっている真夏の暑さのリスクを、太陽を真上に迎えつつ『熱中症に気をつけて』と注意喚起し労働し続ける人間の姿は蝉にはどう映っているのだろうか。 『今は危ないから、おさまるまで極力何もしない』というシンプルな蝉対応から 『今は

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          【ショートショート】要冷蔵読書

          新刊コーナーを通り過ぎ冷蔵ケースの前で足を止める。『生鮮本』コーナーがこの書店の売りだ。 生鮮本とは読了まで時間がかかり放置される不憫な本を救済し、読書サイクルをあげ業界の底上げを狙った新しい試みとして開発された。 冷蔵ケースにずらりと並ぶキンキンに冷えた中から1冊を選ぶと、レジにて持ち帰り時間を聞かれた。1時間ほどと答えると保冷剤を同封された。 「ご帰宅後は冷蔵庫で保管し、ぜひ新鮮な内にお読みください」 と店員は言った。鮮度が落ちるとどうなるのかを店員に問うと 「食品とは違

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          【ショートショート】絆磨き

          ビジネスサイト『プラチナムビジネス・オンライン』の特集記事のひとつ『今週のオーガニック・パーソン』 フリージャーナリスト田崎美羽が時代を彩る1人にスポットを当て、現在のビジネスの在り方を掘り下げる巷で人気のコンテンツだ。 今回は、今もっとも勢いのある企業の1つとして注目される『株式会社NUKI』の代表取締役社長、賀川光一氏に話を伺った。 案内された応接室で待っていると、グレーのスーツを着こなした賀川が時間通りに現れた。 挨拶を交わし名刺を交換すると、では早速と賀川が促す形で取

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          【ショートショート】成分表示の義務化

          『大豆(遺伝子組換えではない)』 「これも最初は違和感あったのにな」 男は商品棚から納豆を手に取ると成分表示の面を妻に向けた。 「最初は遺伝子って響きに少しドキッとしたわね。これもそう」妻はそう言うと商品かごの中のポテトチップスの袋を指さした。 「でもなんで急にそんなこと言うの」 「昨日本屋に寄って小説を買ったんだけどさ」男は鞄から真新しい単行本を取り出した。 「どうやらいつの間にか小説にも成分表示が義務化されていたんだ。全然知らなくってさ」 「え、どういうこと。単純に『紙

          【ショートショート】成分表示の義務化