吉田図工

はじめまして。吉田図工と申します。 今日も何処かでひっそりと想像を膨らまし 創造する喜…

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はじめまして。吉田図工と申します。 今日も何処かでひっそりと想像を膨らまし 創造する喜びを放出させております。 よろしくお願いします。

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【ショートショート】均等の波

青年は黒縁のメガネをクイと押し上げると皆を見据えた。 「犯人は分かった。精巧なトリックもこの真実のメガネを素通りすることなんてできな……」 「ちょっと待て!」 トレンチコートの男が遮った。帽子を正すと窓際までゆっくりと歩を進める。皆が見つめる中、空を見つめながら口を開く。 「その前にこの屋敷の秘密を紐解く必要がある。今、真実が私に語りかけてい……」 「わたくし、気づいてしまったの」 婦人の透き通る声が広間に響き渡った。そして花瓶から1輪のバラの花を抜き取るとその香りを嗅いだ。

    • 【ショートショート】結果屋

      「兄ちゃん。結果いるかい?」 男は前方からそう声をかけられたが競馬新聞から視線は外さずに答えた。 「結果?予想の間違いだろ」 「おいおい、そんじょそこらの予想屋と一緒にするな。俺は結果屋だ」 顔をあげる。タバコを咥えた背の低い老人が立っていた。男の競馬新聞を指差しながら言った。 「そう簡単に信じないのは当然なこった。初回は無料でいいぜ、次のレース4-8だ」「ハハハ、大穴じゃないか。100円が10万になるぞ。嘘つくならせめてそれっぽい予想してくれよ。適当言いやがって」はいこの話

      • 【ショートショート】袋の中身は

        「そうしたらよ。ジェフ爺さん、急に車椅子から立ち上がったんだと。俺も今聞いた話で、これから見に行くところなんだ」 息を切らした男はすれ違う人がいれば足を止めその奇跡を触れ回った。 噂は小さな村を瞬く間に駆け巡り、昔は父娘で営んでいたが、今はジェフの娘が一人で切り盛りするパブには人だかりができていた。 村人に囲まれる中、おぼつかないが確かにジェフは立ち上がり、自身でも何が起きたか理解しきれないまま、笑顔で村人達と喜びを分かち合っていた。 空席になった車椅子の傍で、ジェフの娘は村

        • 【ショートショート】伝説の泥棒

          彼の逸話は1冊の本が容易く書けるほどに存在する。 最新の防犯システムをもってしても一度も逮捕されたことが無く、弱者からは盗らず悪名高い権力者をターゲットとするスタイルと、盗んだ金を匿名で保護施設に寄付しているとの噂もあり、現代の石川五右衛門として庶民から絶大な人気があった。 当然ながら年齢も不詳で、40年にもわたりその名を轟かせていることからすでに代替わりしているのではないかとの噂もあり、同じように親子2代に渡り彼を追いかける警察官も存在した。 目撃されることは稀有で防犯カメ

        【ショートショート】均等の波

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          【ショートショート】止まらない時計

          24時間365日休みなく働くことに耐えられないと、ある日突然全ての時計達が働き方改革を敢行し1ヶ月が経った。 各自、おもいおもいに休憩を取るようになり全ての時計は正確な時刻をしめさなくなった。 「母さん、もう12時半だけど昼ご飯まだ?」息子は大げさに腹を抑えてリビングに入ってきた。 「えー、今あの時計で8時だからまだ11時半じゃないの」壁かけ時計を見上げながら母親は言った。 「違うよ、アレ今休憩してるから動いてないよ」 「あらやだ、すぐ作るわ」「そもそも日時計見たら一発なんだ

          【ショートショート】止まらない時計

          【ショートショート】ハイ皿のイイエ

          「もう今となっては席で吸える方が珍しくなってきたからな」 男は煙たいため息を吐き出すと、白髪の混じった髪を撫でつけた。 そしてネクタイを少し緩めると灰皿にタバコをねじ込んだ。 「本当ですよね。全席禁煙の店のほうがもはや普通です。あ、すみませーん」相づちを打ちつつ、対面する部下は店員を呼び止めた。 入社三年目で仕事は一通りそつなくこなせるようになったが、合わせて悩みも折重なってくる頃だ。悩みなど無さそうにひょうひょうとした顔をしている者こそ、人知れず隠し持っているものなのだ。

          【ショートショート】ハイ皿のイイエ

          【ショートショート】文継ぎセミナー

          「これは器が割れたり欠けたりした際に施す金継ぎと同じ要領なんですよ」 文継ぎセミナーの講師は文継ぎについて説いた。 各々受講者が持ち寄った壊れた文章は様々で破損や汚れで肝心な所が読めなくなったアイデアノートや、理由あって引き裂かれた片方だけのラブレターなど様々だ。 私も内容が破綻し収集がつかなくなった執筆途中のショートショート小説をいくつか持参した。 隣の席の女性はこのセミナーの常連だそうで、講師の助手さながらに初心者である私の世話を焼いた。 「もしよろしければ、こちらも使っ

          【ショートショート】文継ぎセミナー

          【ショートショート】勤務初日

          「あなたの担当はこの方になります」指導官が指示する先には若い女性が立っていた。 おもむろに彼女の後ろに就いてはみたものの、私はまだ理解が追いついていなかった。 「はぁ。あの…具体的には何をすればいいのですか」 「可能な限り立ち位置は左側で」と指導官から強めの語気で注意が入る。慌てて左側に立ち直すと、彼女はこちらを振り返った。 思わず彼女と目があった私は「すみません」と何故か謝った。 しかし彼女は何も応えず、向きを正すと歩きだした。 「基本的にしていただくことは護衛です」彼女の

          【ショートショート】勤務初日

          【ショートショート】逢鍵

          「悪いね。実はもう作ってないんだ」 深く下げた後頭部に店主の言葉が降り注いだ。 「分かっています。誠に勝手なお願いなのは承知しています。そこを何とかお願いできないでしょうか。代金はいくらでもお支払いし…」 「そうなんだよ。やっぱり勝手なんだよ逢鍵なんてものはさ」 その鍵屋が提供していたとされる不思議な合鍵の存在を知ったのは昨日のこと。居ても立っても居られず駆けつけていた。 「もちろんその気持は分かるよ。こういう言い方をしちゃ何だが、逢いに行くチャンスはあったわけだ。いくらでも

          【ショートショート】逢鍵

          【ショートショート】プロ食事人

          「ねぇ、彩。ずっと気になってた澤山って三つ星のお店。急遽キャンセルが出て二人入れるんだけど今晩どう?」 グルメな先輩社員の誘いに彩は申し訳無さそうに苦笑いをした。 「すみません先輩。私まだ二つ星なんです」 「あーそっか…じゃあこれは久美子に声かけてみるか。じゃあまた二つの店の時に誘うね」 再度すみませんと頭を下げ、彩は自席へと戻った。隣の席で同期入社の上村が待ってましたとばかりにため息をつき、スマホ画面を向けてきた。 「牛丼の吉田家、ついに一つ星になるんだってさ。俺のオアシス

          【ショートショート】プロ食事人

          【ショートショート】ランドセルからの贈り物

          卒業式を終えたその夜、優太はもう背負うことのなくなったランドセルを机の上に乗せた。 友達の中にはボロボロになっている子もいたが、大事に使っていた優太のランドセルはまだまだ綺麗だった。 それでもついてしまっている擦り傷も今となっては当時の思い出を振り返るための印のようなもので、その傷をなぞるようにランドセルを撫でた 「まだまだキレイだね。大事に使ってたもんね」背後から母親がそっと声をかけた。 「実はね」優太の肩に手を置き母親は続けた。 「今日で小学校もランドセルも卒業だけど、こ

          【ショートショート】ランドセルからの贈り物

          【ショートショート】タコ足伏線

          男は静かに302号室の前に立った。 両親から預かっている合鍵を使いドアノブに手をかけた瞬間、ふと誰かに見られているような感覚に襲われた。 辺りを見回すも人の気配などはなかった。薄気味悪さを覚えながら男は部屋に入った。 この部屋に住む青年が音信不通となり一週間。身を案じた両親からの依頼で男は訪れた。 両親の話では青年は小説家を目指しており、最近はスランプに陥ったようで思うように執筆が進まずひどく悩んでいたようだ。 両親にも立ち入りへの同行を求めたが母親の方の動揺が激しく、やむな

          【ショートショート】タコ足伏線

          【ショートショート】再訪の景色

          林田健吉は遊園地の入場ゲートに立っていた。 経営陣として幾度と足を運んだ場所だったが、客として訪れるのはこれが初めてだ。 ふと、どうやってここに来たのかを思い出そうとしたがうまく思い出せない。 思い出すのを諦めようとしたとき、林田の脇を小さな男の子が小走りで追い越していった。そのちょっとした弾みで何故ここに居るのかを思い出すことができた。 そのせいで男の子の小さな背中を見つめる眼差しは改めて、憂いを帯びたものになったがその先に彼の両親の姿を認めたとき、複雑な心境のまま小さく頷

          【ショートショート】再訪の景色

          【ショートショート】煩悩のちから

          『煩悩の力はホンマにすごいんでっせ』 東光願寺の住職にしてITベンチャー企業『SunriseWish』代表取締役という異色の肩書きを持つ須崎来道が逮捕、連行される際報道陣に向け発した言葉である。 遡ること一ヶ月。 東光願寺の本尊兼、仏像型スーパーコンピューター『正覚』の処理能力が世界一位に輝いたと発表され世界の度肝を抜いた。 取材に駆けつけた報道陣に対し、袈裟ではなくスーツを着込んだ須崎は饒舌に語った。 「我々の知っているスーパーコンピューターとはかけ離れた見た目なのですが

          【ショートショート】煩悩のちから

          【ショートショート】進化

          今じゃ信じられないかもしれないですけど、最初はその名の通り通話しかできない『携帯電話』だったんですよ。 それがデータ通信、いわゆるインターネット通信が可能になって追加されたのがEメール機能なんですよね。 当時はまだ中高生を中心にポケットベルが全盛期でしたから、街中の公衆電話が活躍したものでした。 それが受信と送信が1台の中で完結するわけですから、それだけで画期的な進化だったんですよ。 そして液晶画面がカラー画面になりました。更には形もストレート型が主流だったのが折りたたみ式が

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          【ショートショート】問いかけ定食

          「へい、定食お待ち」 カウンター席で店主からお盆を受け取る。 店主は定食のご飯を指差しながら 「一杯目から『おかわり』にするにはどうすればいいと思う?」 とっさのことに言葉が出ない。メニューに目を移す。 単に定食とだけで伝えた注文は、日替わり定食のつもりだったのだが 実は『問いかけ定食』だった。 「えっと、その…ちゃんと正解はあるんですか?」 何となくご飯は避けて、とりあえず味噌汁から手を付ける。 「適当言ってるんだから俺が納得すれば正解よ」 目線はまな板で返事が返ってきた。

          【ショートショート】問いかけ定食