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【ショートショート】勤務初日

「あなたの担当はこの方になります」指導官が指示する先には若い女性が立っていた。
おもむろに彼女の後ろに就いてはみたものの、私はまだ理解が追いついていなかった。
「はぁ。あの…具体的には何をすればいいのですか」
「可能な限り立ち位置は左側で」と指導官から強めの語気で注意が入る。慌てて左側に立ち直すと、彼女はこちらを振り返った。
思わず彼女と目があった私は「すみません」と何故か謝った。
しかし彼女は何も応えず、向きを正すと歩きだした。
「基本的にしていただくことは護衛です」彼女の後に続く私の後に、更に指導官が続いた。「それは…SPみたいなことですか」
「我々の権限ではそこまで直接的なことはできません。『危険から身を守る』というより、『危険に陥らないように前もって誘導する』というイメージです」
危険、と言われても彼女はごく一般的な大学生のようで誰かに命を狙われているというようなことがあるはずもなく、ただただ平穏な時間が流れていった。むしろその様子をずっと傍観している私自身のほうがストーカーのようで後ろめたい気持ちが芽生えてきた。
「あの…そもそもこれって私がしないといけないこ」「下がって!」
指導官に腕を捕まれ引き離されると、ちょうど彼女は友人達と記念撮影をする所だった。
「絶対に彼女のプライベートには写り込まないでください。彼女に恐怖を与えることに繋がります。…確かに本来は親族が担うことが多いのですが、今やどこの世界も人手不足なんですよ」
「そういうもんですか。ところで休憩はいつとればいいんでしょうか」
目を丸くした指導官がまるで催眠術でも解くかのように、私の眼の前でパチンと指を鳴らした。

ああそうか、そうだった。そうだったんだ私は。
守護霊としての勤務初日だった。

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