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ホラー

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吉田図工のホラー作品です
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記事一覧

【ショートショート】煩悩のちから

『煩悩の力はホンマにすごいんでっせ』 東光願寺の住職にしてITベンチャー企業『SunriseWish』代表取締役という異色の肩書きを持つ須崎来道が逮捕、連行される際報道陣に向け発した言葉である。 遡ること一ヶ月。 東光願寺の本尊兼、仏像型スーパーコンピューター『正覚』の処理能力が世界一位に輝いたと発表され世界の度肝を抜いた。 取材に駆けつけた報道陣に対し、袈裟ではなくスーツを着込んだ須崎は饒舌に語った。 「我々の知っているスーパーコンピューターとはかけ離れた見た目なのですが

【ショートショート】進化

今じゃ信じられないかもしれないですけど、最初はその名の通り通話しかできない『携帯電話』だったんですよ。 それがデータ通信、いわゆるインターネット通信が可能になって追加されたのがEメール機能なんですよね。 当時はまだ中高生を中心にポケットベルが全盛期でしたから、街中の公衆電話が活躍したものでした。 それが受信と送信が1台の中で完結するわけですから、それだけで画期的な進化だったんですよ。 そして液晶画面がカラー画面になりました。更には形もストレート型が主流だったのが折りたたみ式が

【ショートショート】April eve

はじまりは3月31日の早朝。わざわざ速達で届いた封書だった。 赤字で「重要」と印字され、差出人は日本政府、しかも内閣総理大臣の名前まで連なっており思い当たる節もなく戸惑いながら封をきった。 「なんだこれ」思わず声が漏れた。 『貴殿を我々と同じ未来にお連れすることが不可能となりました』 仲の良い友人ら数人におかしな封書の内容を連携した途端、身を案ずるメールが鳴り止まなくなった。 友人の1人である小林からわざわざ電話があった時に、こんな手の込んだことをするのはこいつかもしれな

【ショートショート】I4D

ある年配の男は、自身の孫とそう変わらないであろう若い役場の担当者にI4Dの手ほどきを受けていた。 「それではここのゲイズを波長に合わせて、インテレストしてください」 今となってはどんな仕事や各種申請にもI4Dが必須となっている。 男はそのような最新の技術はとうの昔に諦め、何をするにもサポートが必要なのであった。 「ゲ…?ようはここの上に手のひらをあてたらいいんだな」 男はテーブルに埋め込まれている入力装置らしきタッチパネルに手のひらを乗せた。 「いえ、そこではなくこちらのフィ

【ショートショート】運命の矛先

男は気がつくと無機質な部屋にいた。 そしてなぜか部屋の真ん中には赤ん坊が眠っている。 近づいてみると異質な光景に男は思わず息をのんだ。 まるで赤子をあやすために用意された玩具のように、その傍らには拳銃が鎮座していたのだ。 本能は不気味な状況から立ち去るように警笛を鳴らす。しかし出入り口らしき扉が見当たらないことに背筋が凍りついた。 戸惑う男に天の声が降り注ぐ。 『任務は簡単です。その人物は未来、殺人犯になることが確定しました。直ちに処してください』 処す。という曖昧な表現は男

【ショートショート】『こんなところにマンホールなんてあったっけ』

実はもう、相当数の我々の仲間は地球に侵入してるんですよ そう、あなたがたは『宇宙人』とか呼んでいますよね いつのまに?どこから? フフ…そうやってあなたがたはすぐ空を見上げる ここだけの話ですよ どうして空なんですか UFOでも飛んでやしないかって? 宇宙人はUFOに乗って空からやって来る それがあなたがたの常識として根付いているなら我々先人の策が成功している証です あなたがた人間も技術進歩の凄まじさは身を持って体験しているはず 昔は対峙しないと会話できなかった距離のある人と

【ショートショート】今日だけの俺

やっと俺の番がやってきた。 本当に長かった。早すぎても遅すぎてもダメだったが29歳というこのタイミングは願ったり叶ったりだ。 まだ6歳の時に巡ってきた別の俺は意味が分からず気がついたらもう終わっていたと嘆いていた。 どうも噂では他の人間は一つの身体を一つの自分で独占出来るようだ。 しかし俺にはそれが出来ない。俺の中に大勢の俺がいるからだ。 身体を支配出来るのが日替わり交代制になっていた。 自身を支配でき『本当の俺』なるその瞬間に到るまでの過程は、人気アトラクションに並ぶ行列み

【ショートショート】Lucy's Box

「それでは先生の理論だと人類の誰しもその…『箱』を持っていると?」 今にも書類が崩れ落ちそうな机に埋もれる大学教授に向け、刑事は尋ねた。 「そうです。例えば昔よく聴いていたが長らく聴いていない歌があるとする。歌い出しのメロディすらスッと出てこない程の。 しかしその曲を再び聴きはじめると聴き馴染みのあるメロディがトリガーとなって次のメロディが蘇ってくる。これまでの経験上で容易に理解できるはずです。その感覚が記憶の『箱』になります」 「えっと…すみませんその辺りをもう少し詳しくお

【ショートショート】自分リモコン

我社は入社すると社員に自分リモコンが支給される。 初期設定後、直属の上司に預ける決まりだ。 現在、課長の私は部下の分のリモコンを数本保有している。 「す…ません…のけん…そうだ…があ…」 新入社員の高橋が自席で声を上げているが小声の為聞き取れない。 「ごめん高橋、もう一度言って」高橋のリモコンを手に取り音量ボタンで声量を上げる。 「すみません、午後の会議の件で相談があるのですが」 「オッケー、じゃあ後で声掛け」「もしもしー。あー杉本さんお世話になっております。ちょうど電話しよ

【ショートショート】与えられた仕事

そう遠くない未来。 高性能のAIを搭載した人型アンドロイドは完成していた。 生身の人間と変わらない精巧な造りで、言われなければ誰も気づかない程、同時に言われても誰も信じない程の完成度だった。 そしてそれらは決してアンドロイドであることを告知されずに世に放たれた。 すなわち生身の人間に混じって生身の人間として同じ様に社会生活を送るのである。 ある『与えられた仕事』を全うするために。 役目を終えた一体の機体が検査台に横たわっていた。二人の研究員がそれを取り囲む。一人が端末を操作

【ショートショート】勝手口な彼女

「私って一度しゃべり出すと止まらないじゃない?それでいつも食べるの遅くって美希のこと待たせちゃうし」 確かに里香はおしゃべり好きで今もフォークに巻かれて持ち上げられたパスタがおざなりになっている。 「別に気にしなくていいよ。里香の話好きだから」 私は無口な方なのでこれは決して嘘では無い。 『ありがと。でも食事としゃべる場所が同じなんて効率悪くない?』 そう聞こえたが里香の口元は今まさにパスタを頬張ろうとしている。「え、ちょっと待って。何これ。どういうこと?」 『だから、口は食

【ショートショート】その肉の味

しっとりとしたジャズが流れる店内。夫婦は向かい合い夕食を共にする。 「この肉は何の肉だろう。食べた事ない味だな」 「ええ。猪や鹿と同じで好みは分かれると思いますけど、私はこの味好きですわ。ソースの味がとても上手に全体をまとめていますね」 「ああ、同感だ。是非ともシェフに聞いてみようか」と通りかかったウエイターを呼び止めた。 「お口に合いましたでしょうか」 「今日も絶品だったよ。毎月ここのおまかせコースを家内ともども楽しみにしているんだ。ちなみにメインの肉は何の肉かな」 「実

【ショートショート】青い扉と9人

扉が開かれると皆一斉に顔を向けた。幼女の手を携えた少年がそこに立っている。「さあ、着いたよ。中へお入り」快人(♂16)は千夏(♀7)に優しく語りかけた。 「ほんとにまた連れてきちゃったよ」と龍平(♂23)はボソボソと小声で吐き捨てた。「お嬢ちゃん、怖かったろう。もう大丈夫だよ、おばちゃんとこにおいで」秋江(♀52)は駆け寄り千夏の肩を抱いた。 「秋江さん、この子のことお願いします」「ああいいよ。こんな小さい子もいたんだね。お名前は?」「…ちなつ」と不安そうに答えた。 まだ怯え

【ショートショート】感情銀行

五十日の銀行は混雑する。 衝動的に家を飛び出してきてしまったが少し冷静になると月末だったことに気づき、あそこも同様に混雑しているかもしれないと気になった。 自動ドアを潜ると冷房の冷気と警備員の挨拶に迎えられる。2台あるAEMは想像以上の行列ではなく胸を撫で下ろした。 一般的な銀行ではATMと呼ばれる機械がここ感情銀行ではAEMと呼ばれる。 最後尾に並ぶと前には婦人と青年の2人。 1つ機械が空き、婦人が向かう。 機械操作を終えた婦人は突然その場で嗚咽し泣き崩れた。 唖然とする他