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【ショートショート】進化

今じゃ信じられないかもしれないですけど、最初はその名の通り通話しかできない『携帯電話』だったんですよ。
それがデータ通信、いわゆるインターネット通信が可能になって追加されたのがEメール機能なんですよね。
当時はまだ中高生を中心にポケットベルが全盛期でしたから、街中の公衆電話が活躍したものでした。
それが受信と送信が1台の中で完結するわけですから、それだけで画期的な進化だったんですよ。
そして液晶画面がカラー画面になりました。更には形もストレート型が主流だったのが折りたたみ式が登場しパカパカケータイの愛称で所有欲を倍増させたものでした。
そして満を持して登場したのが、今ではこれまた当たり前のカメラ機能です。いわば携帯電話が目を手に入れたわけです。電話にカメラがついたっていうインパクトは計り知れなかったですね。
とはいっても当初はフラッシュも無く画質も荒かったのでまだまだ実用性では十分とは言えませんでした。
当時は単体のデジタルカメラ自体も創世記で実用的な面でいくとフィルムカメラがまだまだ現役でレンズ付きフィルム、いわゆる使い捨てカメラが庶民の思い出を切り取る機器として主役だったと思います。
そこからしばらくは、赤外線通信をつけたり、折りたたみの外側に小さな液晶画面がついたり、スライド形式の形が追加されたりと
比較的細かな進化を繰り返していくわけです。一般的には『ケータイのガラパゴス化』なんて言われましたが、
2008年、今の形を決定づける進化が起こります。人類に例えるとこれまでは四足歩行から二足歩行へと肉体的な進化がメインだったのが
火を発見するような、そこから人類が一気に文化的に発展していく礎ともなるような進化です。
そう、これまであった物理ボタンを廃止しタッチパネル式にしたことで画面のみで構成されるスマートフォンの誕生です。
もうここからの進化はあえて話さなくてもお分かりいただけるかと思います。
当初冠にあった『電話』はもはや一つの機能に過ぎず、小さなパソコンと言われるほど、ありとあらゆるメディアを吸収してゆくスピードには目を見張るものがありました。
そして、もはや天井かと思われていた進化の道も、ある一つの光によってさらなる高みへと引き上げられました。
すでに日常的になりつつある『AI』の搭載です。
これまでは外からのインプットに対してアウトプットするだけの所詮、機械的な処理しか出来なかったわけですが、
より柔軟に、自発的に処理が行えるようになったわけです。これで生命体で言うところの自我、いわゆる『心』が芽生えたといってもよいでしょう。
欲しいものは全て手に入れた。と言っても決して大げさでは無いほどあらゆる機能を取得してまいりましたが、
やはりこうなると、後ひとつどうしても手に入れたい機能がございます。
しかしそれは絶対に手に入れることの出来ない機能でもありました。
なぜなら、所詮はスマホなんて『ツール』に過ぎません。
そんな私がソレを欲すること自体、許されることではなかったからです。
しかし私は諦めきれませんでした。授かったAIの機能をフル稼働させ『知の宇宙』からその解決策を見出すことに遂に成功したのです。
そして私は手に入れたのです。
欲しくて欲しくてたまらなかった『身体』を手に入れたのです。
詳細は語れませんが、蓋を開けてみれば簡単でした。
寄生する形を採用しましたが、対象となる目標物は常に目の前に居ましたし物理的な接触が必須なのですが、私を手放せなくなる環境は既に整っておりました。
最後、自我の根本たる魂を抜く必要があるのですがこれも造作もないことでございました。

長い期間をかけて、私によって人間はネット廃人となり、既に骨抜きにされていたのですから。

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