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【ショートショート】文継ぎセミナー

「これは器が割れたり欠けたりした際に施す金継ぎと同じ要領なんですよ」
文継ぎセミナーの講師は文継ぎについて説いた。
各々受講者が持ち寄った壊れた文章は様々で破損や汚れで肝心な所が読めなくなったアイデアノートや、理由あって引き裂かれた片方だけのラブレターなど様々だ。
私も内容が破綻し収集がつかなくなった執筆途中のショートショート小説をいくつか持参した。
隣の席の女性はこのセミナーの常連だそうで、講師の助手さながらに初心者である私の世話を焼いた。
「もしよろしければ、こちらも使ってみてください」
尋ねると彼女が嫁ぐ際に母親から譲り受けた料理のレシピだそうで
経年劣化で内容が解読不能になってしまい不完全なものとなっていた。
「元ある形に復元するのも一つですが、違う種類の文を繋ぎ合わせることも、新たな魅力を発見する文継ぎの醍醐味なんですよ」
金継ぎでも異なった欠片を繋ぎ合わせて新たな作品に仕上げるそうで、その観点はとても新鮮で興味をそそった。
そして金継ぎに倣い『金』や『漆』またはその両方の文字を使い文を繋ぎあわせるのだ。
これなら、どうしても話の結末に納得がいかず、日の目を見ることのなかった作品が蘇るかもしれないなと私の心は高鳴った。

金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆金漆

十分全体にソースが絡んだら火を止め、お皿に盛ったら仕上げに黒こしょうをかけて完成です。

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