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【ショートショート】結果屋

「兄ちゃん。結果いるかい?」
男は前方からそう声をかけられたが競馬新聞から視線は外さずに答えた。
「結果?予想の間違いだろ」
「おいおい、そんじょそこらの予想屋と一緒にするな。俺は結果屋だ」
顔をあげる。タバコを咥えた背の低い老人が立っていた。男の競馬新聞を指差しながら言った。
「そう簡単に信じないのは当然なこった。初回は無料でいいぜ、次のレース4-8だ」「ハハハ、大穴じゃないか。100円が10万になるぞ。嘘つくならせめてそれっぽい予想してくれよ。適当言いやがって」はいこの話は終わりと手を振り、馬券売り場へと向かった。

「おい。どんな手法なんだ」鼻息荒く男が戻ってきた。
「兄ちゃんの言う通り適当に言ってるだけさ」
「俺が悪かった。次も万馬券の結果を出してくれ」男は一万円を差し出す。結果屋は首を傾げる。「万馬券の意味分かってるか?」
「頼む、取り分を増やしてもいい」「…じゃあ100万出せばすごい結果を出してやる。どうせさっきのは10万以上の配当金があるんだろう」
「流石に100は無い。さっき勝った分でどうか頼む」見透かされたと男は渋々札束を渡した。

最終レースが終わり、無一文で立ち竦む男に一部始終を見ていた予想屋が近づく。
「ハハハ。まんまとあの男にヤラれたな。一言でも『レースの結果』って言ったか。適当に自分の『予想の結果』を言ってただけさ。それが万馬券みたく万に一つ当たっちまうんだからお前みたいなのが騙されるんだよ」

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