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【ショートショート】問いかけ定食

「へい、定食お待ち」
カウンター席で店主からお盆を受け取る。
店主は定食のご飯を指差しながら
「一杯目から『おかわり』にするにはどうすればいいと思う?」
とっさのことに言葉が出ない。メニューに目を移す。
単に定食とだけで伝えた注文は、日替わり定食のつもりだったのだが
実は『問いかけ定食』だった。
「えっと、その…ちゃんと正解はあるんですか?」
何となくご飯は避けて、とりあえず味噌汁から手を付ける。
「適当言ってるんだから俺が納得すれば正解よ」
目線はまな板で返事が返ってきた。
まいったな。気にせず食べるのが正解な気もするがなんか悔しい。
一杯を二分割するか。今日の昼ご飯の続きだと言い張るか。
考え込み動きが止まってしまった。『降参』の文字が脳裏に浮かぶ。
微かな笑い息が鼻息となって出た。…いやいや冷める前に食うのが正解だ。
茶碗を持ち、何気に顔を上げるとある光景が目に止まる。思わず声を掛けていた。
「あ、大将。これならどう?」

顔を上げる店主。
隣席の丁度食べ終わった男性に新しい割り箸を渡し、突然の失礼を詫びつつ
お願いをして、一口だけご飯を食べてもらう。
「『誰の』おかわりかは指定無かったので」
恐らくはドヤ顔かもしれない。
「気にくわねぇなぁ」
すぐに顔をおとし作業に戻ってしまった店主の表情は見えない。
しばらくして、小皿に乗った唐揚げが遅れてやってきた。

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