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「スタジオぬえ」が教えてくれた、設定の大切さ

ロボット系アニメを見てると、結構な頻度で「スタジオぬえ」という名前を見かけるでしょ?
これがどういうものかを正しく説明するのは難しいんだが、まぁデザイナー会社、もしくは企画会社みたいなものとでも捉えればいいのかな。
初期メンバーは
・松崎健一(脚本家)
・高千穂遥(SF作家、代表作「クラッシャージョウ」「ダーティペア」)
・宮武一貴(メカニックデザイナー)
・加藤直之(イラストレーター)
といった顔ぶれ。
もともとは学生たちのサークルみたいなものだったらしく、そういう意味ではガイナックスの成立にやや近いものがあると思う。
東のスタジオぬえ、西のガイナックスという感じ?
ただ、歴史としてはスタジオぬえの方が圧倒的に古く、「宇宙戦艦ヤマト」の時点で既に彼らの名前はクレジットされている。
「機動戦士ガンダム」にもクレジットされている。
彼らの仕事の特徴は、考証を踏まえた上でデザインを作っていくという妙なポリシーがあるところ。
ただカッコよければいい、というものじゃないらしい。
分かりやすくいうなら「映像研には手を出すな!」のヒロイン・浅草みどりみたいなタイプである。

「映像研」浅草氏の考案したデザイン

設定マニアの浅草氏は、ただデザインを描くだけじゃなく、それがちゃんと機能するかどうかを脳内でシミュレーションする癖があるよね。

浅草氏の脳内シミュレーション

パッと見アホっぽく思えるが、やってる本人としては「これこそデザインの醍醐味」とでもいうべきか、むしろ楽しそうである。
機能的に矛盾があれば、そこを修正していく。
いうなれば、スタジオぬえ=映像研、その元祖といったところだね。
でも、彼らの妙なコダワリあるデザインは、それを作画するアニメーターにしてみれば作業負担の増大となるし、それをプラモ化する玩具会社にしてもコスト面で圧迫することになるし、結構彼らはウザい存在だったようだ。
それでもスタッフから降ろされなかったのは、何のかんのいいつつも彼らの考案するデザインがカッコよかったからだろう。

そして「マクロス」の頃には、「スタジオぬえ」にも若い2代目メンバーが加わってくる。
当時まだ20代前半のメンバーだったんだが、顔ぶれは次の通り。
・河森正治(メカデザイナー)
・細野不二彦(漫画家、代表作「ギャラリーフェイク」「GuGuガンモ」)
・佐藤道明(イラストレーター)
・森田繁(脚本家)etc

この頃になると、彼らはアニメの企画そのものに深く関わったらしく、実際「スタジオぬえ」は「マクロス」の原作者としてクレジットされている。
原作者って強いんだよ?
版権あるから。

「マクロス」

これが「マクロス」である。
よく知らない人からすると、↑↑の機体がモビルスーツのごとく戦闘するんだと誤解してたりもするんだが、実はそうではない。
これは機体というより要塞であって、あまりにもデカすぎて滅多に戦えないのよ。
他のアニメのロボットのサイズと比較した画像がある↓↓

一番デカいのがマクロスで、全長1.2kmである

これ、デカすぎると思う。
一般的なモビルスーツの数十倍のサイズだし。
だけど玩具会社にしてみりゃそんなこと関係なくて、玩具の売上の為にも「マクロス」をもっと戦わせろ、という圧力は絶対あったと思うんだよ。
だけど「スタジオぬえ」は設定が専門だから、頑として「戦うのはマクロスじゃなくてヴァルキリー(変型戦闘機)」という方針を貫いたよね。
というか、彼らとしては「そもそも二足歩行の巨大ロボットは兵器としての安定性に欠ける」とさえ考えていたようだ。
うん、確かにね・・。
現代、軍需企業が兵器として巨大ロボットを製作してないことからしてその実用性は全くないんだろうし、二足歩行ロボットはあるにはあるけど、その大きさはせいぜい人間サイズだろ?

現実にある二足歩行ロボット

これでも、安定性を考えれば実用性は怪しいものである。
ある程度のサイズを求めるなら、多脚の方が安定すると思う。

これはNASAが作ったやつ

そう考えると、士郎正宗先生の描いてた「タチコマ」はリアルだったよな?

70年代までは「戦艦大和が空を飛ぶ」「蒸気機関車が空を飛ぶ」というファンタジーも許されてたんだが、さすがに80年代からはそうもいかなくなってきてね。
ハリウッドの「スターウォーズ」の影響もあり、もう少しリアルに寄せた方がいいと誰もが考えるようになったんだ。
それでも玩具会社からは巨大ロボットという絶対動かせないニーズがあり、そこで「なぜモビルスーツが戦争で必要とされたのか?」というところから考案されたのが「機動戦士ガンダム」である。
同じ時代には「銀河英雄伝説」というヒット作もあり、あっちはロボットを出さずに艦隊戦の緻密な戦略駆け引きを描いてウケた。
ホントは「ガンダム」スタッフの多くも、そういうのをやりたかったんじゃないかな?
でも、モビルスーツを出さなきゃいけない。
で、考案されたのが「ミノフスキー粒子」である。

ミノフスキー粒子の役割

「ガンダム」の世界設定では、戦争時この粒子を散布することにより、艦隊は探知レーダー機能が麻痺し、お互いにステルス状態になっちゃうわけよ。
つまり、レーダーで敵の位置を捕捉して波動砲を撃つ、「宇宙戦艦ヤマト」戦術は全く使えないということ。
多分「ヤマト」の世界にミノフスキー粒子があったら、古代進も森雪も全員死んでるね。
・・あ、真田さんだけは生き残りそうだけど。

真田さん

で、「ガンダム」ではレーダー探知に頼らずに戦う、肉眼の目視をベースとした接近戦が勝敗を分けるカギとなり、機動性のあるモビルスーツが極めて重要な兵器になったわけだ。
なぜ【モビルスーツ>戦闘機】なのかは知らんが、きっと戦闘機では防御力と攻撃バリエーションが貧弱ということだろう。
あと、モビルスーツの接近戦では目視のみならず直感力もまた重要なカギとなり、そこで「ニュータイプ」という新概念も出てきた。

ニュータイプ

このキラキラッと光るエフェクトのある人物は、大体ニュータイプと考えていいと思う。

ニュータイプ

とにかく、ミノフスキー粒子の存在が「ガンダム」の緻密な世界設定の基礎になったといっても過言ではない。
実際のところ、「ガンダム」の世界もミノフスキー粒子実用化以前・以後、つまりモビルスーツの登場以前・以後で戦争の質が大きく変わったらしく、そのへんを詳しく描いてる作品が「MSイグルー」という3DCGのスピンオフである。

「MSイグルー」

これは「ガンダム」シリーズの中でもガンダムがほとんど出てこない稀有な作品であり、非モビルスーツ系の兵器(これがほとんど機能しない)開発を描いた、妙に哀愁ある物語なのさ。
これはミリタリー色が強く、私は結構好きでね。
そう、「ガンダム」は設定がしっかりしてるがゆえ、こうやって派生作品をどんどん作っていけるのが最大の強みである。

さて、「ガンダム」や「マクロス」以外にも目を向けてみよう。
まず、「エヴァンゲリオン」。

「エヴァンゲリオン」

上の画で描かれてるのは、「ATフィールド」である。
これこそ「ガンダム」のミノフスキー粒子にも匹敵する、いや、それ以上ともいえる「エヴァ」の超重要設定である。
「エヴァ」においてATフィールドを理解しない限り、物語のキモはさっぱり分からないでしょ。
この物語はシンジをはじめ、登場人物たち個々のATフィールドを描くことにこそ主眼があるわけで。
使徒とか人類補完計画とか、正直そんなディテールはどうでもいいのよ。
むしろ庵野さんが描きたかったのは、あくまでATフィールドの方だったんだろうから(多分だけど・・)。

「パトレイバー」

これは「パトレイバー」。
この機体は、ルーツが土木作業用機械だったという設定で、かなりリアルに考案されたロボットである。
考案はヘッドギア、「スタジオぬえ」にも近いクリエイター集団だね。
メンバーは以下の通り。
・押井守(監督)
・ゆうきまさみ(漫画家、代表作「究極超人あ~る」「鉄腕バーディー」)
・伊藤和典(脚本家)
・出渕裕(メカニックデザイナー)
・高田明美(キャラクターデザイナー)

ここでの設定のキモは、「OS(オペレーティングシステム)」である。
OSの学習機能により、実戦を重ねるほどに強くなるという仕組み。
これを80年代で描いてたのは凄いなぁ・・。

・スタジオぬえ
・ガイナックス
・ヘッドギア

こういうサークルにも近い、ごった煮のクリエイター集団が80~90年代のアニメ界をリードしてたんだね。
彼らは会社というより、いうなれば「映像研」である。
設定マニアの浅草氏、アニメーター志望の水崎氏、ゼニ勘定の天才・金森氏、「映像研」のあの子たちが醸し出してる熱い空気感が、おそらく上記のクリエイター集団にもあったんだろう。
「マクロス」「エヴァンゲリオン」「パトレイバー」
思えば、いずれもが熱い作品だったよね。
できることなら、「設定」を着眼点にして上記3作品を見直してみてくれ。
なんか、凄い熱さを感じ取れると思うよ。

「映像研には手を出すな!」


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