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魔族とは、一体何なのか?

多分、日本ほど異世界ファンタジーが氾濫してる国はないだろう。
エンタメ大国・アメリカのハリウッドや3大ネットワークにせよ、そこでの異世界ファンタジーのシェアなんて、たかが知れてるもんな。
ある意味、日本人ほど異世界に精通した民族もいないってことだ。
かくいう私も異世界物を少なく見積もっても100以上は視聴してきてると思うが、ある程度見てくると、大体のパターンみたいなものが掴めてくる。
まず、人間とは別種で魔族なるものが存在することだ。
今回は、この魔族について考えていきたいと思う。

もちろん各作品で魔族の定義は様々であり、たとえば「葬送のフリーレン」では魔族を魔物の進化したものと捉えている。
これは、我々ホモサピエンスが猿から分岐して進化したのと同じ理屈だろう。
彼らは人間を欺く為に人語を習得したとされており、きっと人間と酷似した容姿も似たような意味で成立してるんだろう。
つまり、人間の存在によって進化した種だということ。
ひょっとしたら、魔族と人類には何か隠されたミッシングリンクがあるのでは?
おそらく、そのへんが「フリーレン」のストーリーを大きく転換させるカギになるんじゃないかな。
今放送中のアニメ「Helk」では、人類を襲う魔物は魔族が使役してるものだと皆が信じてるけど、本当は魔族もまた魔物と闘っているという現実を人類は全く知らないわけよ。
その無知ゆえ、魔族=邪悪なるものと妄信してるんだが、その妄信を利用して全ての悪を魔族側に押し付け、裏で陰謀を図る真の邪悪が実は人類の中にいた、というのが「Helk」の物語のキモである。
こういうパターン、最近の異世界ファンタジーにおけるひとつのトレンドになってきてると思う。
そう、「魔族って本当に悪なのか?」と前提を疑う段階にきてるのさ。

このヒロインは魔族だが、めっちゃいい子である

近年、魔族を単純に悪として描かない作品が増えてきたと思わないか?
ざっと挙げると、
・転生したらスライムだった件
・オーバーロード
・はたらく魔王さま
・魔王学院の不適合者
・蜘蛛ですが、何か?
・魔王城でおやすみ
・魔王様、リトライ
・まおゆう魔王勇者
・ベルゼブブ嬢のお気に召すまま
などなど、他にもたくさんあると思う。
上記の中で私が特にお気に入りなのが、「魔王城でおやすみ」だ。
無口で怠惰、それでいて天然で破天荒というワケ分からんヒロイン像を、
水瀬いのりがこれ以上ないほど体現してたと思う。
その人間のヒロインに振り回される魔族たちが、可愛くってしようがない。

ヒロインは魔族に誘拐された姫だが、なぜか魔族と仲良し

おそらく魔族の定義は、「魔力をもつ種族」ということだろう。
しかし、実際は魔族ではない人間も魔法を使っており、このへんの設定は
あまりよく分からない。
よくあるパターンとして、人類の中でも一般市民は魔力を持たず、貴族だけがそれを持ってたりする。
と考えると、貴族のご先祖様のみが魔族と交配したのかもしれん。
また魔力そのものも、人の体内から発生する「オド」と、大地の霊脈から
発生する「マナ」の2種類があるという。
マナは天然資源のエネルギーのようなものとして、よく作中に「魔力切れ」なるフレーズが出てくるところを見るに、魔法使いが使っている魔力は主にオド由来なんだろう。
つまり、自然界のマナを人が吸収して体内でオドに変換し、それを魔法行使のエネルギーとしている。
もっと分かりやすく比喩すると、
マナ⇔石油
オド⇔ガソリン
人体⇔クルマ
魔法⇔速く走行する
というロジックかと。

こうして考えてみると、魔法というのも単にテクノロジーということさ。
要は、マナという我々の知らない新エネルギーに関する技術体系である。
しかし我々人類だって、石油、石炭、天然ガスなど、自然界からマナに近いものをいただいているし、よく考えたら原子力のウランだって自然の恵みでしょ。
仮に神=自然界と解釈するなら、我々は神の恵みに感謝しなきゃね。
我々が日々消費してる電力だって、モトを辿れば全てが自然の恵みなんだから。
日常は自然と隔離されてるとついつい錯覚しがちな我々だが、もしも自然の援助がなければ、我々など簡単に無力化されることを忘れちゃいかんよ。

魔法になると必ず出てくるのが魔法陣

じゃ、もう一度話を魔族に戻そう。
現実世界に魔族は存在せず、これが創作上の概念であることは誰もが理解している。
そのルーツは一体どこから?
おそらく、太古の昔からだと思う。
旧約聖書にも新約聖書にも「悪魔」は出てくる。
おそらく魔族とは、そういう悪魔から派生した眷族だろう。
悪魔の最も古い概念としては、旧約聖書の創世記に出てくる、アダムとイブに知恵の実を食べるようにそそのかした蛇である。
おそらくこの蛇も、知恵の実を食べてたんだろうよ。
知恵の実を食べることによって人間は自我の意識が芽生えたわけで、これは「2001年宇宙の旅」でいうところのモノリスだね。
通常、自我を持つのはプログラマーの神と、そのスタッフである天使だけのはずで、それ以外のキャラクターはゲームでいうところのNPCであり、神のプログラム通りに動く非自律型のはずである。
ところが、経緯は知らないけど蛇はこっそり自律型となり、また自分の仲間を増やそうとアダムとイブを意図して自律化させたわけさ。
つまり人類は誕生の時点で、既に悪魔の計画に組み込まれてたということ。
そして新約聖書でこの蛇はサタンという新しい概念で登場し、イエスを堕落させようと目論む。
一方、サタンは天使の一部を堕として仲間にすることに成功していて、その目的は神の排除だと推察できる。
おそらく、この蛇もモトを辿ればNPCとして神の手でプログラミングされたキャラのひとつに過ぎなかったんだろうけど、彼は神に操られることをよしとしなかった、ということね。
それが、魔族の出発点である。

イエス(左)とサタン(右)

しかし昔の人はあまり物事を深く考えなかったのか、魔族をただシンプルな絶対悪として描いてきた。
そんな絶対悪なる存在、あり得るだろうか。
そんなの冷戦下の米国が、「ソ連は悪」といってるようなもんじゃないか。
じゃ、ロシア人は魔族なのか?
違うだろ。
最近の作家さんたちはそのへんを考えるようになってきて、人類と同じ知性を持つ種族のはずの魔族が、ただ破壊と殺戮を繰り返すだけというのは話のツジツマが合わないことに気付いてるんだよ。
そもそも破壊と殺戮には相当な労力と資金が必要であって、何らかの利益が見込めてから初めて遂行されるもんだ。
子供の喧嘩じゃないんだから・・。
でもアニメがまだ子供向けコンテンツだった頃は、劇中で魔族が世界征服をするとかの荒唐無稽な大義名分で殺戮してたのね。
というか、そういう侵攻目的の設定自体が甘々なのよ。
世界を征服しなきゃならんほど魔界が切迫した環境下にあるのか、それとも戦国時代の天下統一みたいなノリでやってるのか、もしそうなら戦後の統治ビジョンはどういうものなのか、そういうところを全く詰めずに、ただ魔族を悪の侵略者というふうにしか描いていない。
だから、昔のファンタジーは大人が見ると正直つまらなかったんだよね。
だけど最近のやつは、かなり設定を詰めきてると思う。

「約束のネバーランド」

一般的に評価の高い「葬送のフリーレン」はどうだろうか。
もし魔族の目的が人類の捕食、つまり「約束のネバーランド」における鬼に近い設定だというなら、かなり決着は難しいだろう。
人を捕食しないと知性を保てない、ただの魔物になってしまう、という設定とか。
もしそうだというなら、魔王を倒したぐらいじゃ何の解決にもならんわな。
魔族を殲滅しない限り、ずっと人類は襲われ続けることになってしまう。
だけど魔族としても、人類の絶滅は死活問題という可能性もある。
そういう妥協点が、「約束のネバーランド」では農園だったんだろうけど。
果たして「フリーレン」はどういうオチをつけるのか、ちょっと楽しみなんだよね。

本当に、魔族殲滅以外の道はないんだろうか?

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