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「進撃の巨人」の元ネタ?今こそ「巨神ゴーグ」を再評価したい

今回は、「巨神ゴーグ」を取り上げたいと思う。
サンライズ系アニメの中では、割と陽の当たらないところにいる作品だよね。
制作は1984年、ちょうど「風の谷のナウシカ」が公開されてた頃だね。
原作・監督は安彦良和
安彦さんといえば「ガンダム」や「クラッシャージョウ」で知名度を上げた人だし、そんな彼のテレビシリーズ初監督作となればそれなりに注目されたと思うんだが、現実はそう甘くなかったっぽい・・。

「巨神ゴーグ」(1984年)

まず、この作品は全26話である。
80年代のサンライズ系にしては異様といえる短さであり(通常なら50話前後ある)、視聴率が悪くて打ち切りになったのかと思いきや、そういうのではないみたい。
というか、実はこの作品、放送される前に全話完成してたらしいんだよね。
なぜなのか?
どうやらこれ、「お蔵入り」になってた作品らしいのよ。
少し前のことだが、作った後、スポンサーから「売れる要素が見つからないので、少し待って」と言われたらしく、しばらく寝かされてたっぽい(笑)。
・・そんなに酷い作品だったのか?
いやいや、断じてそんなことはない。
ただ、79年の「ガンダム」以降、サンライズは「リアルロボット」路線が主流だったのに、「巨神ゴーグ」は明確な「スーパーロボット」路線だったのよ。
それも、横山光輝風のレトロなやつ。

見ての通り、色彩は地味で、武器も上の画のバズーカをたまに使う程度。
基本の戦闘スタイルは、「殴る」専門である。
そしてコイツ、飛べません。
いや、飛べないどころか、走ってるところも見たことがない。
いつもゆっくり歩いてるし、きっと敏捷な動きはできないんだと思う。
こんなモッサリ系のロボ、子供に人気出るわけないよね・・。
子供はカッコいい系を(プラモに)求めるものである。
ゴーグはどちらかというならば、女子いうところのカワイイ系に分類されるような気がする。
人間でいうと、ジャイアント馬場に近い。
見てるとだんだん愛着が湧いてくるタイプだが、バンダイが求めるロボ像とは少しかけ離れてたのは事実だろう。

で、主人公のユウはゴーグの頭の上に乗ってます。
というのもゴーグには内部に操縦席が設置されておらず、ユウが口頭で指示すると動くという謎システムである。
自律思考タイプなので、たとえユウの指示がなくても勝手に動けたりもするんだけど。
あと、動力源も謎で、作中一度もバッテリー切れは起こさなかった。
そして、このゴーグの最大の強みは何かというと、それは打たれ強いところである。
ミサイル食らってもビーム食らっても壊れないし、煮えたぎるマグマの中に漬かっても大丈夫だった。
多分、作中一度もメンテナンスを受けてないと思う。
でも、最大の強みが「打たれ強さ」というロボって、きっと子供たちの琴線には触れないだろうなぁ・・。

物語の舞台、オウストラル島

この物語は「ガンダム」みたいに宇宙を駆け巡る話ではなく、ただ島の中を右往左往するだけの話なんだよ。
島の東端から西端まで移動するのが大まかな流れで、もしゴーグに飛行機能があれば、全26話も必要なかったと思う。
12話ほどで済んだはず。
だけどゴーグは徒歩だし、しかも走れず、歩くのがめっちゃ遅い(笑)。
こういうテンポの悪さが、この作品の特徴ともいえよう。
話は遅々として進まず、ようやく物語の全貌が見えてきたのが物語も中盤を過ぎた第16話でのこと。
ここでようやく、ゴーグを作った張本人というべき、異星人が登場。

3万年前から地球にいたらしい異星人

ここまで長かった・・。
うん、確かにストーリーのテンポ悪いのは認める。
でもその分、安彦監督はホント丁寧に人物描写とかしてくれるのよ。
人間ドラマとして見ると、とてもいい。
そして異星人との出会いの中で、島の中にはゴーグ以外にも巨神が何百体もいるという驚愕の事実が発覚する。
でもって、異星人は「地球人を攻撃すべきか、仲良くすべきか、どうしようかな~」という曖昧な精神状態にあるっぽい。
仮にこれらの巨神が全部起動したら、世界は滅ぼされるのでは?」とユウはビビるんだけど、実際、あることがキッカケで異星人を怒らせてしまい、その何百体もの巨神が一斉に起動してしまうんだわ。
大量の巨神たちが、ザッ、ザッ、とこっちに向かって行列で迫ってくる光景は、まさに「進撃の巨人」、地ならしそのものだった。

このシーン、めっちゃ怖かった・・

ひょっとしたらコレ、「進撃」の元ネタかもしれないね。
巨神=巨人
オウストラル島=パラディ島

「進撃の巨人」

さしずめ、これは80年代版「進撃の巨人」といったところか?
そしてラスト、世界首脳はこの事態の全てをリセットしようと、数十発もの核ミサイルを島に向けて発射する。
・・さあ、島にいるユウたちはどうなる?
といったところが「巨神ゴーグ」の大まかなあらすじで、物語としては割と綺麗にまとまってるんだよね。
あの大御所・大友克洋は、

「私は『ガンダム』より、『巨神ゴーグ』や『ヴイナス戦記』の方が好き」


と語っているらしく、やはり分かる人にはこの良さが理解できるんだろう。いやマジで、「ガンダム」というよりはスピルバーグの「グーニーズ」や「インディジョーンズ」に近いアドベンチャーになっていて、私はめっちゃ面白いと思うよ?
・・あ、大友さんが「ガンダム」より好きと言ったもうひとつのアニメ、
「ヴイナス戦記」の方についても触れておこうか。

「ヴイナス戦記」(1989年)

これもまた、面白いんだよな~。
物語の舞台はテラフォーミングされた金星で、そこでの領土争いによる戦争描写がメインとなっている。
だけどこれ、ぶっちゃけロボとか出てこないのよ。
ロボの代替となるのがバイクで、主に重戦車vsバイク軍団という戦いとなっている。
まるで「マッドマックス」みたいなノリ。
バイクで戦車に勝てるわけねーじゃん、とか言わないで、そこは本編を見てください。

安彦さんの作品は「巨神ゴーグ」もそうだったけど、これ作画が異様なほどいいんだよなぁ。
もっと評価されていいはずなのに、なぜか映画は大コケし、安彦さんはこれをもってしばらくアニメ業界から足を洗うこととなる。
「才能の限界」を感じたという。
こんなに才能ある人が、それを言っちゃいかんて。
一説には、「風の谷のナウシカ」と「ビューティフルドリーマー」を見て、自分にはこんなの無理、と限界を悟ったというんだが・・。

なんていうかさ、安彦監督作品の描く戦争って、妙にリアルなんだ。
富野由悠季みたく宇宙空間でビームサーベル使ったりするカッコいい系じゃなく、常に銃弾と焼夷弾が飛び交う、泥臭いやつ。
特に「巨神ゴーグ」の頃は巷で「マクロス」が流行ってて、スピードに特化したカッコいい戦闘スタイルがウケてたと思う。
そういう時代に安彦さんはそっち系じゃなく、敢えて泥臭い普遍的な戦争を描くスタイルだったんだよね。
そりゃウケないのも分からんでもないが、私は戦争の描き方として誠実だと思う。
安彦さんは自身が全共闘で逮捕歴あるバリバリの元闘士なんだし、戦うってことの普遍性を誰よりも知ってる人なのよ。
そりゃ、そこだけはリアリズムにこだわるよね。
あと、ヘタに戦闘の舞台を大きく広げないのよ。
「巨神ゴーグ」はオウストラル島の中の話だし、「ヴイナス戦記」も金星の局地戦の話だし、最新作「ククルスドアンの島」でも島内の局地戦の話である。
敢えて空中にまではスペースを広げず、地ベタに足をつけた場所での壮絶なドツキ合いを描いている。
これこそが闘士・安彦良和の真骨頂だろう。

いやホント、安彦さんはもっと高く評価されていい人物さ。
作画屋としてのみならず、アニメ監督としてね。
誠実な作りをするから地味にも感じてしまう作風だが、かなり骨太でオトナ向けの演出スタイルである。
子供にはウケんだろうなぁ、と思うよ。
とにかく「巨神ゴーグ」は全26話と短めの作品だし、ハードルは高くないと思う。
ぜひ一度、ご覧頂きたい。
ユウ⇔ゴーグの関係が、だんだんのび太⇔ドラえもんの関係に見えてきて、そのうちユウが「何とかしてよ~、ドラえも~ん」とか言い出すんじゃないかと思ったが、果たしてそのへんはどうなのか、本編を見てお確かめください。


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