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難解・押井守の最新形?「火狩りの王」

今回は、WOWOWアニメ「火狩りの王」について書きたいと思う。
正直、これはリアルタイムに見てる時は「?」という感じだったんだけど、終盤になるにつれてだんだんと盛り上がってきて、シーズン終了後に改めてイッキ見したら「あ、これ結構いいアニメじゃん」と感じたのね。
たまに、こういうことがある。
毎週見てた時は微妙に感じた作品が、イッキ見すると評価が一転したというパターン。
「火狩りの王」は、その典型だった。

「火狩りの王」

この画の質感↑↑には好き嫌いあるだろうね~。
この作品、監督は西村純二、脚本と構成は押井守で、このふたりは「うる星やつら」時代からの盟友。
西村さんの名前はあまり馴染みがないかもしれないけど、P.A.WORKSの名作「truetears」の監督といえばお分かりいただけるかと。
この「火狩りの王」は、妙な止め絵や画面分割など特徴的な演出がされてるものの、別にこういうのが西村流というわけでもない。

本作では、こういう感じの止め絵が時々挿入される特殊な演出が目立った

多分、こういうレトロな止め絵↑↑は原作本の挿絵のタッチなんだろうね。
原作は、児童文学らしい。
いまどきの児童文学って、こんな陰鬱な物語をやってるの?
私の中で、そういうのは「魔女の宅急便」とか「若おかみは小学生」とかのイメージだったんだけど・・。
一応ファンタジーではあるが、思いっきりディストピア系の物語である。
多分舞台は遠い遠い未来の日本で、文明レベルは明治~大正ぐらいのところまで後退している。
というのも、人類の大半が死んだという世界大戦の影響(そこで使用された生物兵器の影響)で、人々は火に近づくと人体発火現象を起こすという特殊な体になってしまい、文明水準を落とさざるを得なかったっぽい。
なぜか今では「神族」という異能力を使う神様みたいなのが人類を支配しており、どうしてそういうことになったのか、作中で詳しく説明されないまま物語は進行していく。

神族のひとり、ヒバリ

なんか日本神話みたいな世界観になっていて、↑↑のこいつなんて式神を使うからね。
「風の氏族」という異能力者らしい。
うん、これは完全なるファンタジーだな、と思って見てたのに、その一方で世界観に不釣り合いなこういう画が出てくる↓↓

えっ、人工衛星?
これ、SFなの?ファンタジーなの?どっち?
そう、この肝心な部分がなかなか見えてこないのよ。
上の画の人工衛星は「千年彗星」、またの名を「揺るる火」と呼ばれ、これが近いうちに地上に降臨する流れになっているらしい。
で、神族のヒバリなどは、なぜか「揺るる火」のことを「姉上」と呼んでるし・・。
ね?
話が見えてこないでしょ?
ようするに、この物語は見えてこない世界観を解き明かしていくミステリーなんだよ。
その全容は2期の最終話まで辿り着いてようやく見えてくるんだが、そこで初めて本作がSFなのかファンタジーなのかが判明する感じ。
<以降ネタバレにつき、ご注意を>
まぁ結論をいうと、これはファンタジーのフリをしたSFだね。
いかにもファンタジーっぽい世界観は、全部巧妙なミスリードだったと解釈すべきだろう。

作中には、こういうバケモノがたくさん出てくる

作中には上の画のようなバケモノが出てくるし、全てがオカルトじみた神話型ファンタジーである。
というミスリード。
実は、これら全て神族の異能力によるものなのよ。
そして、その神族の能力の根源になってるのが「手揺姫」という姫神の存在である。
その手揺姫と揺るる火(千年彗星)は姉妹というから「はぁ?」と思ってたんだが、案の定、最終回で初めて明らかになったその姉妹の姿は極めて異様なものだった。

揺るる火(次期姫神?)
手揺姫(現姫神)は、もう限界っぽい・・

うん、やっぱ機械だね。
つまり、手揺姫も揺るる火も先史文明(ロストテクノロジー)の遺物だったということ。
このテクノロジーは現代よりもず~っと先のもので、つまり姫神というもの自体が、現代の我々の想像を遥かに超えた超科学(AI?)みたいなものなのかも。
そりゃ、神族に異能力も授けられるよね。
どうやら、この姫神の存在を失うと、神族は異能力を失ってしまうようだ。
だから神族は、自身の存続の為に是が非でも姫神を守らなくちゃならんし、仮に手揺姫がもう限界だというなら、新たに揺るる火を次の姫神に据えようというのが彼らの思惑だったわけね。
ちなみに、手揺姫も揺るる火も機械とはいえ自我があり、感情もある。
そして彼女たちは、神族が人間を支配している現状システムに疑問を抱いているっぽい・・。

灯子と煌四

上記のような謎を紐解いていくのが、主人公の灯子&煌四である。
灯子は普段オロオロしてるだけだが、時々神憑り的に強くなる。
そして煌四は頭脳担当で、神族の謎を次々に解き明かしていく。
決して俺Tueee系ではないのでエンタメ度はやや低めにせよ、何かじわじわと面白くなっていくんだよね。
最後は、神族vs元神族vs人間というぐっちゃぐちゃの戦争でカオス状態ですわ。

チートだと思ってた神族が、意外とあっさりやられていく。
灯子&煌四には仲間がいるんだが、それが犬であり、子供であり、女戦士である。

なんか、弱そうなパーティでしょ(笑)。
というか、彼らは別に神族と闘うスタンスじゃないのよ。
ただ戦乱の渦に巻き込まれてオロオロしてるだけで、彼ら自身に神族を倒す意思は特にない。
なかば、傍観者といってもいい。
だから物語としてカタルシスがなく、こういうのを面白いかといわれると、う~ん、どうだろうねぇ・・。
いうなれば、漫画やラノベとは対極に位置する物語性である。
あぁ文学だな、という感じがして、アニメを見るというよりは本を読んでるような感覚に襲われる。
この特殊な感覚、「新世界より」以来かな?

「新世界より」(2012年)

おそらく、文学好きな人は「火狩りの王」を面白いと思うはず。
逆に、漫画・ラノベしか無理という人は、クソつまらんと思うはず。
私はこういうアニメ、個人的にありなんだけどね。
強大な敵がいて、主人公たちがそれと闘って勝つ、みたいなスッキリとしたストーリーではない。
むしろモヤモヤしたストーリーであり、オチもハッピーエンドでもなければバッドエンドでもない、結局最後までモヤモヤした感じ。
こういう良さ、分かります?
多分こういうのはWOWOWだからこそ作れたんだろうし、また押井守だからこそアニメ化にも踏み切れたんだろう。
なんていうか、妙に味のある作品である。
原作は児童文学というけど、逆に思いっきりオトナ向けだと感じたけどなぁ。
作中で語られてない余白がとても多く(先史のことや登場人物の過去など)
想像の余地をたくさん残してる作りも逆にいい。
2度3度見ることで理解が深まる作品ゆえ、「何年後かに再評価」パターンのアニメだと思う。
何より、主演の久野美咲の演技が神懸かっていた!
久野さんといえば「ひそねとまそたん」や「ベルゼブブ嬢のお気に召すまま」などのコミカルなキャラのイメージが強かったんだが、今回は泣かせる演技をしてて、この人なかなか凄いね。
最優秀主演女優賞をあげたい。

「ベルゼブブ」の久野さんはめっちゃ可愛かった

まぁとにかく、「火狩りの王」は見といて損はない作品ですよ。
こういう実直な作品、個人的にはもっと増えてもいいと思うんだけど。


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