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「銀河英雄伝説」結局ラインハルトとヤンは、どっちが優れてたの?

今回は、「銀河英雄伝説」について書いてみたい。
近年はProduction I.Gがリメイク(?)っぽいのを制作してるが、これの原典といえるものは80~90年代に作られたOVA版だろう。
本伝110話、外伝52話という大長編シリーズである。
監督は、「宇宙戦艦ヤマト」や「超時空要塞マクロス」で知られる石黒昇
そもそも、これは何でOVAなのか?
どうやら本音はテレビアニメとしてやりたかったらしいんだが、残念ながら企画が通らなかったようなんだ。
当時、似た系統の話で「機動戦士ガンダム」があり、「銀河英雄伝説」は「モビルスーツが出てこない版のガンダム」という消極的な解釈をされたのかもしれん。
モビルスーツが出てこないから玩具メーカーがスポンサーにつくこともないだろうし、やむにやまれずのOVA化だったんじゃないだろうか。

OVA「銀河英雄伝説」(1988年~)

とはいえ、このOVAはめっちゃ売れたらしい。
うん、売れたのも納得である。
だってこれ、80~90年代制作と思えないほど作画が綺麗で、とにかく完成度が高いから。
内容はオトナ向けの戦記物として徹底できてるし、むしろOVAという形態は逆に良かったかも。
多分この時代のアニメって、

テレビアニメ⇒子供向け(ファミリー層)
OVA⇒オトナ向け(マニア層)

という分類だったと思うのよ。

「銀河英雄伝説」は、SFマニア層にばっちりハマったといえるだろう。
製作は、「アニメージュ」を発刊してた徳間書店。
当時として、角川書店のライバルだったところだね。
ライバル角川書店が主に「映画」を切り口にしてたのに対して、徳間書店は「ビデオ」を主な切り口にしていた。
当時の徳間はジブリの版権も持ってたし、ビデオ販売では結構儲けたんじゃないだろうか。

よく「ガンダム」との類似性を指摘される本作だが、艦隊戦の軍略・戦術については、こっちの方が遥かに本格的である。
モビルスーツ同士の一騎打ちバトルがない分、軍師vs軍師の頭脳戦に特化したスタイルだね。
「三国志」の兵法とか好きな人にはタマらん内容かと。
本当は、富野由悠季もこういうのを作りたかったんじゃないだろうか?
というのも、富野由悠季のインタビュー記事を読んでると、彼は意外なほど巨大ロボットに対してビジネスライクに割り切ってるし、スポンサーが玩具メーカーである以上ロボットを出さざるを得なかった、とかドライな言い方をしてるんだよね。
意外なほど、ロボット愛が熱くないことに驚いたわ。
富野さんが描きたかったのは「戦争」の方であり、決して「モビルスーツ」の方ではなかったんだ。

「ガンダム」

でもさ、モビルスーツがあるからこそ、↑↑のような一騎打ちバトルも描けるわけで、対して「銀河英雄伝説」の方はほぼそういうのがないんだよ。
ゆえに両作は同じ戦争を描くにしても、野球(一騎打ち)とサッカー(組織戦術)ほどの違いがあるんだよね。

「銀河英雄伝説」

映像的には、「銀河英雄伝説」の方はかなり地味。
まぁ、これは原作が「小説」である以上、いちいち映像としての見栄えなど考慮して書いてないから、しようがないんだけど。
原作者の田中芳樹先生は、巨大ロボットとか興味ないの?
・・いや、実は田中先生って、ロボットアニメ好きなのよ。
ただし、それは「ガンダム」じゃなく、「戦国魔神ゴーショーグン」という少しマイナーなやつである。

「戦国魔神ゴーショーグン」(1981年)

これ、知ってる?
ちょっとしたカルト系アニメなんだ。
悪役が、やたら濃いんだよな~。

敵キャラ・ブンドル(cv塩沢兼人)
なぜか、メインヒロイン・レミー(cv小山茉美)とカップリングされるブンドル

一輪のバラを持って登場って、池田理代子先生の世界観かよ・・。


とにかく、田中芳樹先生は「ゴーショーグン」の熱烈ファンらしくて、これの原作者である首藤剛志さんをわざわざ「銀河英雄伝説」の脚本スタッフに招聘してるほどである。
ミーハーなことに、その時サインまで貰ってたらしい(笑)。
多分、このブンドルの美麗なキャラ造形は「銀河英雄伝説」ラインハルトの造形に繋がってるんだろう。

「銀河英雄伝説」主人公・ラインハルト

ラインハルトは、別に悪役というわけじゃないさ。
ただ親友と姉を失ってからは闇落ちし、歯止めのきかない専制君主となっていく・・。
そして、もう一人の主人公は、ラインハルトの宿敵・ヤンウェンリー提督である。

ヤンウェンリー提督

ヤン提督はラインハルトと真逆の地味系、もっさり系で、偉ぶらない気さくなキャラ設定である。
そのくせ、めっちゃキレ者。
視聴者はこういうギャップ系に弱いので、どっちかというと人気はヤンの方が上だろう。
・・あ、でも女子にはラインハルト支持派って多いかも。
ちなみに、田中先生の思想性が投影されてるのはヤン提督の方だと思うよ。
とてもリベラルだからね。

ラインハルト陣営(銀河帝国)
・貴族を軸としたエリート主義国家(ただし旧タイプの貴族は次々と粛清)
・皇帝に権力を集中した完全独裁体制

【ヤンウェンリー陣営(自由惑星連合)】
・議会制民主主義をベースとしたリベラル国家
・文民統制ゆえ、軍部の裁量にも制限がある

こういうのを見た感じ、普通にヤン陣営の方がいいと思えるでしょ?
ところが、田中先生の描写は「必ずしもヤン陣営がいいとは言い切れない」としてる気がするんだわ。
事実、自由惑星連合は賄賂(政治献金?)が横行して政治が腐敗し、それを見かねた軍部が226事件っぽいクーデターを起こしたりしてるんだから。
基本、軍は「近いうち選挙があるから」という理由で政府に派兵させられてきたりとか、ちょっと同情すべき部分もあるんだけどね。
しかし、そのクーデターの顛末も市民の言論統制、および市民の虐殺にまで発展したりなど、もう救いようのないところまでの事態となっていた。
そういや、ナチスを生んだドイツも、その当時はワイマール共和国という「世界で最も民主的な国家」だったっけ・・。
結局、騙されやすい大衆に主権を預けていては、最終的には騙すことが得意な悪者が国家を牛耳ることになる、ということだと思う。
ぶっちゃけ大衆は、そこまで賢明ではない。
じゃ、エリート主義のラインハルト陣営がいいのかといえば、これはこれで主権のない大衆が憂き目にあうわけよ。
私は「銀河英雄伝説」を見てて、どっちがいいという結論を出せなかったわ。
しいていうなら、あくまで次善という意味での自由惑星連合だけどさ・・。

結局、このふたりの天才はどちらが優れていたのか、その結論は出なかったと思う。
しいていうなら、引き分け?
まぁ、個人的にはリベラル国家ゆえ色々制限のあったヤン提督の方が負荷は大きかったと思うし、その中で互角に戦えたヤンの方が軍師の資質としては僅かに上だったと思うけど。

それにしても、ヤンの最期の演出が凄いね。

完壁「あしたのジョー」のパクリじゃん(笑)。


Production I.G版はまだここまで話が進行してないけど、どんな感じの演出をするんだろう?
今から楽しみである。
やはり最新版は3DCG活用してる分、映像がさらにレベルアップしてるし、めっちゃ凄い作品になってる。
その映像の一部、こちらをご覧ください↓↓

ラインハルト宮野真守、ヤンウェンリー鈴村健一(坂本真綾の旦那)。
その他人気声優がずらり勢ぞろいで、これは声優博覧会的なアニメとしても楽しめる。
オトコノコ的には「兵法」「戦術」の面白さ、オンナノコ的には美形男子の様々なバリエーション、オッサン的にはドロドロ権謀術数の政治劇として、オタク的には3DCGの迫力ある艦隊戦として、とにかく、色々な楽しみ方のできるアニメである。
これを今まで一度も見たことない人って、マジで人生損してますって!
一度、見といた方がいい。
一応Production I.G版の方をお薦めするが、でもこれはまだ完結してないし、結局は先を見たい誘惑にかられてOVA版に手を出しちゃうことになると思うよ。
だとすりゃ、最初からOVA版にいくのもありだね。
かなり長くてしんどいが、ぜひ頑張ってチャレンジしてみてほしい。
頑張るだけの価値ある作品である。

「銀河英雄伝説」第4期は今秋TV初放送


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