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荒俣宏+りんたろう+ガイナックス「帝都物語」という怪作

今回は、アニメ「帝都物語」について書きたい。
1991年制作のOVAで、りんたろう監督作品である。
りんたろう氏といえば個人的に角川映画「幻魔大戦」やCLAMP作品「X」の印象が強く、この人は異能力バトルを描かせるとマジ天下一品だと思う。
このアニメはあまり知名度ないかもしれないけど、私はあまりのクオリティの高さに衝撃を受けたほどである。

これ、悪役の加藤保憲ね。
「帝都物語」はアニメよりも先に実写映画があって、加藤役は嶋田久作氏が演じたんだけど、めっちゃキモかったんだわ↓↓

嶋田久作氏ww

アニメはこの実写版のビジュアルを忠実に再現してるだけでなく、アフレコもまた嶋田氏自らやってくれている。
チカラ入ってるよな~。
キャラクターデザインはガイナックス(当時)の摩砂雪で、彼以外にも庵野秀明、鶴巻和哉、樋口真嗣、前田真宏といったガイナックスメンバーが制作に参加している。
これの正規の制作はマッドハウスなのに、なぜこれほど大量にガイナックスから人員が来てるのか?
多分、彼らはどうしても「帝都物語」を描きたかったんだよ。
なぜって、実写版「帝都物語」は実相寺昭雄の作品であり、それのアニメ化というのは彼らにとって特別な意味をもつ、ということ。
そのぐらいガイナックスメンバーにとって、円谷プロのレジェンド・実昭寺昭雄は憧れの存在なんだろう。

たびたび出てくる夕陽は、いかにも実昭寺オマージュである

今でこそ、陰陽師というのも「呪術廻戦」などでメジャーになったけど、
この「帝都物語」が出版される1985年まで、それほど世間に認知されたものじゃなかったと思うよ。
小説の著者は、あの荒俣宏先生。
この人って、日本のオタクのパイオニアなんじゃないかな?
とにかく、百科事典並みに膨大な知識量を誇る人である。
よく考えれば、昔のオタクはいまどきのオタクと条件が全然違うのよ。
いまどきのオタクは、大体の知識をネット経由で収集するでしょ?
でも荒俣さんの時代って70~80年代だし、その頃はまだパソコンが全然普及してないはずなんだ(あるにはあっただろうが)。
そんな時代の情報収集って、図書館や本屋で文献を漁っていくか、あるいはこまめに現地へ足を運んで取材していくかしか道はなかったと思う。
つまり、今の何十倍もの労力を注ぎ込んで情報を収集してたわけで、それを考えると、パソコン使って楽してる我々ごときが、彼らと同じく「オタク」を名乗るのは少しおこがましい気さえしてしまうなぁ。
「帝都物語」にしても、その圧倒的な情報量、ならびにその密度たるや、
もはや素直に脱帽するしかないわ・・。

この小説は日本SF大賞受賞

じゃ、「帝都物語」のあらすじをざっくりと説明しよう。
まず、加藤保憲という陰陽師が首都を壊滅させようとしてるんだが、こいつがもう完全にチートなんですよ。
彼ひとりに対して、陰陽師エリートの土御門一門が束になってもまるで歯が立たない。
で、土御門が惨敗した結果、東京で関東大震災(1923年)が起きました、と。
やがて加藤は、次に雪子ちゃんというヒロインを狙う展開となるんだけど、この子が妙に可哀相でねぇ・・。。

雪子ちゃん
首を絞められる雪子ちゃん
飲み込まれる雪子ちゃん
生贄にされる雪子ちゃん

その雪子ちゃんを守ろうとするのが叔母の景子さんで、この人は平将門公の末裔という巫女で、結構強い。
この加藤vs景子さんのラストバトル、私の予想を遥かに超える壮絶な内容だった。

隙を突かれてしまい、加藤に拘束された景子さん
でも景子さんは、自力で突破します!
そして決め顔!
戦闘モードの景子さん
決死の覚悟で、加藤に立ち向かっていく景子さん
景子さんは、たとえ悪霊にまとわりつかれても耐えられます
ナウシカモードに入った景子さん
ナウシカな景子さんに、心を開き始める悪霊たち
成仏し始めた悪霊たち
菩薩モードに入った景子さん
予想外の展開に、うろたえる加藤
菩薩モードがおさまらない景子さんは、加藤を優しく抱擁する
なぜかキスをしているふたり
う~む、ワケ分からん・・

私は、荒俣宏+りんたろう+ガイナックスって組み合わせ、意外に悪くないと思った。
とにかくガイナックスの人たちは、「自分が好きなものを描く」を徹底してたと思う。
それって仕事じゃなくて趣味の領域じゃん?とツッコまれそうだけど、元々ここはビジネスとして集まったメンバーじゃなくて、最初の母体はオタクの有志が集った同好会のようなものだったはず。
それがいつの間にか制作会社になってたんだが、その精神性はずっと趣味人の同好会のままだったと思うよ。
元々アニメーターってのはサラリーマンじゃなく、フリーという立場の人が多いもんである。
そして、そういうフリーの人たちも、必ずどこかに拠点は作るもんさ。
学校のクラスじゃあるまいし、ぼっちじゃ仕事にならんし。
で、そうやっていつの間にかできていく「サークル」。
私、そういうサークルって大事にしてもらいたいんだ。
そういうコンセプトの合う者たちの集いは、必ずや作品に明確なブランド性を生むから。
ほら、昔に学校の国語の授業で、文学史の「ロマン主義」とか「自然主義」とか、あるいは「白樺派」とか「耽美派」とかあったじゃん?
ああいうの、私はアニメ界でも欲しいんだよね

現在の日本アニメのブランド性は、全て監督のパーソナリティに依存している

実をいうと、この「帝都物語」のスタッフ表記に「ガイナックス」の社名はクレジットされていない。
つまり、庵野さんらはガイナックスじゃなく、個人個人が有志としてこれの制作に参加したということだろう。
つくづく、オタクだよね~。
おそらく、りんたろう監督もそのへんを理解し、ある程度彼らの裁量を認めたんじゃないだろうか。
実際、これはマッドハウス作品でありつつも、いかにもガイナックスっぽい映像があちこちに見えてくるんだよ。

なんか、巨神兵を彷彿とさせる粘膜系の描写
とにかく、爆発シーンが多かった

私、こういう「描くのが楽しくてタマラン!」という画が大好きでね~。
90年代のガイナックスって、それがあるのよ。
まだ当時彼らは30歳前後、尖ってもいただろうし、妙なパワーが漲っている。
私はこの三十余年前の「帝都物語」を見て、久しぶりにそういう熱いものを感じたな~。
皆さんも、ぜひ一度見てみてください。
なかなかの怪作ですよ。
特にラストは謎(笑)。

加藤保憲のビジュアルのインパクトだけは、実写に及んでなかったね

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