モビルスーツ好きなら必見!「ドラえもん のび太と鉄人兵団」
今回は、劇場版「ドラえもん」シリーズを取り上げてみたい。
この「ドラえもん」については、世代によって評価の温度差があるんだよね。
小さなお子さんをもつ若いお父さんお母さん(30~40代?)は、いまどきの「ドラえもん」の凄さをよく分かってると思う。
ここ最近はTVシリーズがなく、【ドラえもん=劇場版】という構図になっているので、これを見てる人は
・劇場に行く子供
・劇場で子供に同伴している親
に限られてるわけよ。
それ以外の人たちは、かつて自分が子供の頃に見てたTV版「ドラえもん」をうっすらと覚えてる程度じゃないの?
いわゆる「大山のぶよ版」ってやつか。
これまでに劇場版「ドラえもん」は50本以上(短編含む)もあるとされており、それらを全て見てくれ、なんて言うつもりはさらさらない。
私が思うに、本当に見るべきものは数本に絞られるんじゃないかと。
私の劇場版「ドラえもん」お薦めポイントは次の2つ。
・藤子F不二雄先生が描いた「大長編ドラえもん」をアニメ化した作品
・いまどきのクオリティ高い作画水準でアニメ化した作品(リメイク作品)
上記ふたつの条件をクリアした作品は、次の通りである。
・のび太の恐竜2006(監督・渡辺歩)2006年
・のび太の新魔界大冒険(監督・寺本幸代)2007年
・新・のび太の宇宙開拓史(監督・腰繁雄)2009年
・新・のび太と鉄人兵団(監督・寺本幸代)2011年
・新・のび太の大魔境(監督・八鍬新之介)2014年
・新・のび太の日本誕生(監督・八鍬新之介)2016年
・のび太の宇宙小戦争2021(監督・山口晋)2021年
【劇場版=アニメオリジナル企画】というイメージが我々にはあるが、この「ドラえもん」に限ってはそうじゃなく、もともとは藤子F先生が描いてた「大長編」シリーズを映画化したものだったのよ。
主に、80年代のことだけど。
それが06年キャストが一新されたのを契機に、そこから「大長編」過去作リメイク企画が始動したんだ。
「のび太の恐竜2006」がその第一弾で、これが渡辺歩監督(「海獣の子」や「漁港の肉子ちゃん」の人ね)ということもあり、めっちゃ凄い作品に仕上がっていた。
映像美が凄いし、ラストは超泣けるんだわ・・。
きっと近年の「ドラえもん」フィーバーは、ここからの流れだね。
で、この新シリーズの中でも私が特にお薦めしたいのが「新・のび太と鉄人兵団」である。
監督は寺本幸代さんという「ドラえもん」では珍しい女性監督で、あるいは現時点彼女が「ドラえもん」NO1監督では?と思っている。
特に、この「鉄人兵団」は鳥肌が立つほどだったわ。
そのシリアス度はハンパじゃなく、特に終盤なんて
「あれ?
今、自分が見てるのはガンダムだっけ?
あるいはマクロスだっけ?
・・いや、違う!
これ、ドラえもんだった!」
と一瞬錯覚してしまう感じなのよ。
これの元ネタとなってるのは1986年制作の同名タイトル劇場版であり、この作品自体が「歴代ドラえもん最高傑作」の呼び声高いものだった。
この映像、もはや「ドラえもん」の世界観じゃないよね・・。
ぶっちゃけ、鬱展開である。
2011年版は、この鬱展開をさらに迫力で増幅した演出。
戦闘の描写では、あの「板野サーカス」まで挿入されてたわ(笑)。
「ドラえもん」は世界観的に「死」をあまり描かないんだが、これまで2度ほど例外的に描いたことがあり、なぜか、その2度ともが寺本監督。
あるいは寺本さんって、特殊な立ち位置の監督なのかも・・。
この作品のヒロインはリルルというロボットであり、メカトピア星が地球を侵略する為に、下準備として送り込んだ諜報工作員である。
この彼女としずかちゃんの交流が実は物語最大のカギを握ってて、おそらくそこが藤子F先生のメッセージでもあるだろう。
しずかちゃんは、リルルが地球侵略を企む勢力のスパイだということを理解しつつ、それでも人情として、重傷を負った彼女をつい看病しちゃうわけだ。
その結果、案の定というべきか、しずかちゃんは少し回復したリルルからの攻撃を食らったりもしている。
それでも、引き続きリルルの看病を継続する、しずかちゃん・・。
こういう展開、実はこれまでの「大長編ドラえもん」シリーズの中では何度か繰り返されてることなのよ。
いつもは、のび太がお人好しっぷりを発揮する展開なんだけどね。
のび太にせよ、しずかちゃんにせよ、ようはメンタルが「ゆとり」だということ。
ずっとヌルい環境でヌクヌクと育ってきた彼らゆえ、リルルのようなシビアな環境で育ってきた子には全く理解不能な行動原理である。
ここで考えてみてほしいんだけど、藤子F先生は1933年生まれ、つまり日本のシビアなファシズム政権下で育った人である。
そんな藤子F先生が、ここで敢えて
ファシズム/リルル⇔ゆとり/しずかちゃん
この両者を対峙させてるのさ。
これ、先生が子供の頃にずっと見てきたものを考えると、シチュエーションが重いよね・・。
おそらく、しずかちゃんみたいな子は1930~1940年代の日本にも実際いたと思うけど、おそらくその優しさの多くは報われず、報われるどころかそれが死に直結したことだって多かったはず。
だけど先生は「ドラえもん」で繰り返し、この平和ボケともいえる現代っ子の「ゆとり」を描いている。
しかも、これを好意的に描いているといっていい。
この「鉄人兵団」の中で、のび太らは最後、銃を手にして遂にロボットたちと戦う。
だけど、敵の圧倒的な物量の前に劣勢を強いられ、そのへんの絶望的な描写がかなりエグい。
まぁ、先生は太平洋戦争を実体験してる人だからね。
・・で、オチを言っちゃうと、実は「最後まで戦わなかった」しずかちゃんの粘りが、のび太らの窮地を最後の最後で救うことになる。
この最大のクライマックス、クロスカットを多用した寺本監督の演出は実にお見事!
86年版もそうだが、実質「鉄人兵団」はしずかちゃん主役の物語だったといってもいいだろう。
ところで、皆さんはのび太のことをどう思う?
ホント、こいつは人として良いところがほとんどない。
怠惰で、無能で、反省もしないから同じ失敗を何度も繰り返し、成長が全くない。
富野由悠季が描いたアムロ、庵野秀明が描いたシンジ、彼らも「現代っ子」という位置づけだったにせよ、さすがにのび太ほどには酷くなかったよ。
ただ、1つだけのび太がアムロやシンジより優ってる点があるとするなら、それは「どんな辛いことがあっても闇落ちしない」メンタルである。
これ、めちゃくちゃ救いになってるんだよね。
とにかく彼はバカだから、今日泣いててもひと晩明けたらケロッとしてたりして。
カースト最下層民だけど陰キャではなくて、性格はむしろ、明るいといっていい。
多分ジャイアンやスネ夫も、そういうのび太のメンタルを知ってるからこそ信頼してイジメてるんだと思う。
そこには、一種の信頼関係がある。
こういうのがTVシリーズだけを見てても分からない部分だけど、実はのび太とジャイアン&スネ夫の関係性は、単純な【イジメられっ子⇔イジメっ子】じゃなく、ちゃんと藤子F先生はそこを「大長編」、つまり劇場版で描いてくれてるんだよね。
そうそう、「鉄人兵団」が仮に「しずかちゃん回」だとして、ジャイアンやスネ夫にもそういう回が劇場版にあることを付け加えておこう。
ジャイアン回⇒新・のび太の大魔境
スネ夫回⇒のび太の宇宙小戦争2021
特に「宇宙小戦争」は、脚本を「エウレカセブン」の佐藤大が手掛けてたりして、スペースオペラとしてなかなかのクオリティである。
もちろん、この他にもクオリティ高い作品は多数あるわけで、私もそのうち劇場版「ドラえもん」全制覇を目指したいと思う。
皆さんには、基本として
・のび太の恐竜2006
・新・のび太と鉄人兵団
せめて、このふたつだけでもクリアしておいてもらいたいなぁ。
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