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小説『横浜の夜に決めたこと』2097文字

仕事を辞めた。後悔は微塵もない。
このままこの会社にいても日々、やりがいを感じて仕事をすることなんて到底できないと思った。
それに4年も働いて恩義を感じる人間はほとんどいないのだから。

課長から訳のわからない長文メールが送られてきたが付き合いきれないと無視した。部下から信頼をなくしているのはあなた自身の問題のせいだ。

会議室で「辞めます」と伝えたら、ホワイトボードマーカーを投げつけられた。まともじゃない。学歴はあるはずなのにどうしてそうなった?
こんな大人になりたくないと思った。



就職活動はすぐに始めた。
いくつもの企業へ面接に出かけ、幸いにも1社から内定をもらえた。

就職日までの時間ができて、旅行をしようと思った。目的地は横浜。
小・中学校で同じクラスになったこともあるチカちゃんが横浜で働いていて連絡先を知っていたからだ。

連絡先を知ることができたのは同窓会を開きたいと思う人が集まるサイトに僕も彼女も登録していたから。
登録しているからといって必ず同窓会が開けるわけじゃない。そのほとんどがいつ登録したのかも分からずメッセージを送っても返事は返ってこない。

しかし、彼女の名前を見つけた僕は
『ひさしぶりだね。今、何してるの?どこに住んでるの?』
とわずかな期待を込めてメッセージを送った。

数日して
『ひさしぶり!今は横浜だよ、看護師をしているよ』
と返事があった。

彼女に久しぶりにあってみたいと思った。
わざわざ会いにいくって・・・どう思われるのか、怖いけど。

僕はドキドキしながら彼女に連絡を取り、日にちを決めて会う段取りをつけた。



夏の終わり、僕は青春18きっぷを使って横浜まで出かけた。

せっかくだからと彼女に横浜を案内してもらえることになった。
みなとみらいと呼ばれるエリアで待ち合わせをした。
公園ではたくさんの親子連れが夜に行われる花火を見るために青空の下、レジャーシートを敷いて場所取りをしていた。

看護師の仕事を夜勤で終えて少し休んでからきてくれた彼女は少し疲れた顔をしていたが、僕を見つけて手を振っている。

高瀬くん、久しぶりだね!元気してた?」

彼女は小学校の時から相変わらず小さくて、可愛らしかった。

海が見える公園を散歩して、ビルの中に長い赤い階段がある場所に着いた。
彼女が選んだお店はとてもオシャレで、今まで聞いたことのない料理。
戸惑う自分を察して、彼女は料理をよそってくれた。

お互いに小学校や中学校の頃の思い出を話した。
仲が良かった男女グループで親に内緒で名古屋で行われる博覧会に出かけたこと、体育祭で踊ったダンスのこと、文化祭でやった合唱の思い出などなど。

その後、港にある大きな観覧車に乗り込み、ネオン輝く街と、遠くに見えるライトアップされた横浜ベイブリッジを見た。
海では花火が打ち上げられていた。

「綺麗だよねー」

そうつぶやく彼女の横顔を見て

「すっげぇ綺麗だよね」

彼女は大人の顔となり、僕の知っている彼女とは違うと感じた。

すぐ近くにいるのにすごく遠くにいる。そんな気がした。

「今、横浜で友達にもなかなか会えないから、みんなに会えたらいいなって思ってあのサイトに登録してみたんだ」

きっと彼女には元気が必要なんじゃないか。
カッコつけよう。頭にそうよぎった。

「あのさ、同窓会開くよ!」

「本当に?みんなと会えたらうれしいな」

「大丈夫!任せて」



さっそく連絡が取れそうな人間がいないか、根気よくメッセージを送る。

すると、野球部でクラスの人気者だったアツシとつながった。
『同窓会?いいね。やろうぜ!』
自分だけでは無理だと思ったことが動き始める。

中学校の住所録を引っ張り出して、往復ハガキで参加・不参加の意思確認する文章を書いて送りつけた。

アツシから
『違うクラスの連中も参加したいらしいんだが、いいよな?』
と確認がきた。
『もちろん、大丈夫だよ!みんなと会いたいよね』
やはり人気者は違うな、僕との違いだ。

そうこうしているうちに仕事の内容が決まり、東京で暮らすことになった。

チカちゃんに会いに行きたかったが看護師だから予定が合わないと思った。
いや、違う。本当は僕が大人になりきれていないと勝手に臆病になっていただけだ。

何人かから返事があり、総勢で10数名ほどになった。
みんなの希望を募り調整を重ねた結果、開催できたのは年が明けてからだった。
僕は夜行列車大垣駅行きに乗り、アツシが予約してくれたお店で開催する同窓会に参加した。

同窓会はとても賑やかになった。呼んでもいないやつが次から次へと現れた。様子を見に来ただけのやつもいた。

担任の佐藤先生が来てくれたことに驚いた。これはアツシのサプライズだ。してやられたと思ったが、さすが。おかげで盛り上がったし先生には感謝を伝えることもできた。彼がいたから盛り上がることができた。

チカちゃんは仲良しだったアキちゃんと会えて、2人ともとてもうれしそうだった。

チカちゃんから
高瀬くんのおかげでみんなと会えたよ!本当にありがとう」
というお礼の言葉をもらった。

もっと踏み込みたいと思ったが、踏み出す勇気は持てなかった。

僕も大人にならなきゃいけない。
そう。だって東京に来たのだから。

#2000字のドラマ #創作

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