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小説の墓場

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にほんぶんがくの墓標を目指して書き殴ろうぜ。
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記事一覧

自分のことをベケットだと思っているおじいさん(創作)

自分のことをベケットだと思っているおじいさん(創作)

 平日のまっぴるまに東名高速道路を三重県方面に進行している車両の中で、須山もちくさは陽の光で眠たくなっているのを紛らわすためにラジオをつけた。社用車でラジオを流すのはいいのか最初の方は気がかりだったが何度か乗り回すうちに上司が自分の携帯を接続して音楽を聴いていることがわかり、ならラジオも構わんわな!と今は吹っ切れている。
 ラジオでは新しくできたいちご農園の若いオーナーの男への電話インタビューがや

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coe変わり、知echo(-es)抄

coe変わり、知echo(-es)抄

たいへんですよ!せかいがこわれましたー
「歓待を持ったお告げ」より

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 ぱぴぴ市ぷぷ町鏑木病院前の交差点を直進すると合図川の出合頭橋というのがあって飛び込みの名所だった。その右岸から左岸にわたる形で、つまり北進すると、といってももろに真北ではなくやや西寄りの北、北北東なのだが、南進してきた人物とすれ違うとき、もうずいぶん前のことだが、斬り合いがよ

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冒涜のマグロ (中編60枚)

1 わたしたち殺人事件

 マグロは三匹目だ。……またか。いい加減にしろ。受け身ばっかりだしなんなん……反撃の意志すらみせない……立派だと思っているのか……服従が?……きっとこいつは受け身でいてくれれば相手は幸せだと思いこんでいやがるんだ……思いあがりもいいとこだ!……世界ってのはこっぴどく……ぼろぼろになりながら……鞭をびんびんひっぱたかれながら必死こいてまわってるのになんだ……てめえらだけ楽

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イン・ユーテロ [小説]

イン・ユーテロ [小説]

Forever in debt to your priceless advice ―Heart shaped Box/Nirvana
(お前がしてくれるタダの忠告に俺は引き目を永遠に感じなきゃなんねえ
   ―ハートシェイプボックス/ニルヴァーナ)


キルケゴール的ハイパーコミュニケーション
の考察

 市内を南北に横断する有料通路が隣の群地に入りこむか入りこまないか微妙な境あたり、とはいって

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さよなら 女子高生(note版 58枚)

さよなら 女子高生(note版 58枚)

 軒下から失くしていたヘアピンが突び出した。きらりと眩しげな金属の光沢は油取神子の上目遣いのときに露わになる白目のそれに近いもの、するりとその光景がおつゆだく子の目に飛びこんできてセンセーショナルを巻き起こす。目玉と目玉の肉体的接触のような頭のてっぺんの生え際からかかとまでどーんとくる衝撃がだく子の心を骨抜きにして神子のモノになりました。ちょんぱちょんぱが癖なだく子は自他も認める醜さがあると思いこ

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数(アイドル)

数(アイドル)

第一章 永遠の詩           一九八九年九月九日に産まれた窮(キュー)は二十一歳の時に浮かぶ夏空の雲を食べた。
 雨の前日の風に似た舌触りの悪い味わいは、以後の彼の人生に根強く残った。彼の後任にあたる一九九九年生まれの窮はそれを運ばれてきたばかりのスープで舌を火傷して味がいつまでも残るのに似たものなのだ、と彼の話を聞いて感じた。永いあいだあの晩の紫色になった雲の味が染みついた。彼は誰にもこ

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「百鬼姫」

「百鬼姫」

 __姉よ一体全体、どこで眠っているの? もう300回目の「お天とうさんのウェイク」だよ。世にそびえたち大地のシワの群れ、されど真っ赤な糸で縫い合わせる、この山ガールさちこは実家にハメこまれた姉貴のりこの部屋、そこに転がる一台のパイプベッド、その下から広がる〈霊峰いちごみるこ山〉に当の姉を探しにゆき十月が過ぎた。いまだにこの幽霊山でのりこのモノと思われる肉体や分泌液も発言も目にしてないし見つけるこ

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深夜はきっと生ぬるい息、大事にできないまっぷたつ [小説]

深夜はきっと生ぬるい息、大事にできないまっぷたつ [小説]

 落ちかけた頭のせいで画面にうつるタレントの顔面がずりむいて見える。朝を無理矢理に引っ張るその活力に満ちた顔がうまく馴染まない―昨夜の記憶が都合よく抜けてしまって、いやむしろそう振る舞ってしまおうか、そう考えるたびに修次の目にうつる切り替わる容貌の数々が像を結ばなくさせる。暖房の熱がまだ心地のいいほどだ。
 ナツミとの関係に終着駅が見えてきたか、閉塞感の果ては雪崩か、大きな音をたてて。画面は好き勝

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吊

** **―ひやし水来む濡れればぬる雫血水を絡め股も崩れり

** **枯葉が雨粒によって積み重なりを固め、土砂にまじりやがてそれも土になる。似た経緯をもってして、樵は肉膜の渦に呑まれ溺れた。粒さにこれを振り返るたびに樵は頭をぎらつかせ腹を下し発汗してはいくつかの関節を痛める。包帯によって全身をまとめ上げ、かろうじて人の形をとどめているがまたいつか崩れるか知れない。
無垢ほど尋常に恐ろしいものは現

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廃盤

廃盤

第1章
昨夜のことを朝起きれば忘れてしまわないか、懸念があったがいざ起きてしまえばそんなことも忘れて、朝になってようやくメモを取ろうかとか取るべきだったかとかそういえば取ったんだったかとあら探しに出るが、見当たらない。取った気がするのは、夢の中で取った書き置きかもしれない。が、これがうんと、うんとうんと現実味をおびて、思い出されるのだからもはや真実かわからない。
平野のだだっ広いだけの町を川に沿っ

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[習作]炎よ、私とともに歩め

[習作]炎よ、私とともに歩め

**chapter **ここではひとまず、言葉を使わせてもらおう。私の使い勝手の悪い文体では、ワンセンテンスをひどく長ったらしくさせて筋を追えなくさせていく癖がある。それ見たか、まただ。人間とは言語を創造することによって自己を創造した存在である。言葉を介して、人間は自らの隠喩となる。(「弓と竪琴」/オクタビオ・パス)

しばしば私は人間と表象されえない場合がある。ある一定の自我を持ちえた言語の一筋

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業後

業後

雨は、只、降るばかり。梅雨の曇り空はもう二週間も晴れず、硬く渋る夏の兆しを籠らせ続けている。
晴美との下校時の競争は、宏久がいつからか勝手に行っていることで、晴美自身そんな事に巻き込まれていることは知る由も無い。晴美に宏久はいつも追いつけずにいた。彼女よりも早く廊下へ飛び出し、まだ帰宅する生徒の足が少ない空の階段を駆け下り、下駄箱で素早く靴を履き、校庭を抜け、自転車置き場へ向かい、全校生徒で

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羽つきの、きのう

羽つきの、きのう

私はきっとあの手に触れて欲しかったのだ。

そう言えばよかった、なんて言われるかもしれないけど、とてもじゃないけど私には言えなかった、言えない。言わなくても良かったんだ、世の中言わなくて言いようなことをウッカリ言ってしまって酷い目に遭う人なんていっぱいいる。けどもしかすると言っておけば、いい目にあっていた人だってわんさかいる。

君のほうがほどけて、ゆらゆら、ゆるゆる、くたくたになって仕舞えばい

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蒼麗天然美少女金魚ちゃん

蒼麗天然美少女金魚ちゃん

 あれはこんがりな夏のことでした。四方木町の中池のほとりで夏休みに滝沼れる子と待ち合わせていましたの。私いちごみる子は猛暑の極みにヘロヘロで木陰に身を隠していました。けれど滝みたいに流れ続ける汗の止め方がわからなかったし帽子を忘れるというみる子のおてんば属性を発揮してしまったものだから頭はガンガンくらくらでとてもこれじゃ遊戯なんてできっ子ない。いっこうに滝沼れる子ちゃんが集合時間になっても現れない

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