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中国ドラマや小説を楽しむために。『古代中国の24時間 秦漢時代の衣食住から性愛まで』柿沼陽平

出版直後からすごく話題でしたが、ようやく手に取ることができました。きっかけは、中国ドラマ。とりあえず、古代中国の基礎知識が欲しかったので。絶対おもしろいことはわかっていたのに、期待の3倍おもしろかったです。

この本でいう古代は、秦漢(紀元前3世紀~後3世紀)+αです。私の見たドラマでは『羋月(ミーユエ)』あたり。あと、『三国志』関係は本もマンガも結構読みましたが、『三国志』は戦争とか政略がメインなので生活方面の記述はあまり出てきた記憶がありません。どうでもいいですが、この時代は日本でいうなら弥生時代。単純な比較は無意味ですが、やっぱりいろいろ驚かされます。

さて、柿沼先生の本を読むと、現代人が古代にタイムスリップしたかのように、日常生活を体験できます。まずは名前の問題。中国人でも日本人でも、古代の人は名前を直接言わないのが礼儀とか、中国式をきっちり最初に教えてくれるのがうれしいです。ドラマの日本語字幕では、日本人にわかりやすいように名前に変えてますが、中国語を聞くと大体役職名とか親族関係の呼び方になってます。

それから日常生活のスタート。夜明け前(午前4時頃)には、古代の人の時間や季節感覚を踏まえつつ、身支度を整える(午前6時頃)準備。歯磨きや虫歯について、口臭について。仕事前に髪の毛を整え、役人が冠をかぶるときの決まりや禿げについて。ここまでで、もうすでにプライベートすぎるエピソードの多さに驚きます。

そういえば、ドラマ『ミーユエ』でも楚王の体臭がひどかったってエピソードがありました。あと、古代中国の人たちは、なんであんなに複雑に髪の毛を結っていたんだろうと、いつも不思議に思っていたのですが、中国では紀元前千年以上前から、髪の毛の先から魂が抜けていくと信じて、毛先を隠さないと死ぬと考えていたとか。

役人になって冠をかぶるにもマゲがないと固定できないから、髪の毛を結うのは本当に大事。なので、罪人はマゲを切られる。でも、周辺の民族とか南の中国では髪の毛を結わない、ザンバラ髪の文化だったとか。ファンタジードラマと歴史ドラマの区別は、多分この髪型にありそうな感じですね。

身支度をととのえる(午前7時頃)では服装やお化粧、アクセサリーの話。朝食をとる(午前8時頃)のは意外に遅めで、食事や食器について。午前中はムラや都会を歩いたり、役所に行ったり市場で買い物をしたり。人間だけでなく、犬や猫、家畜の話まであるのが楽しいです。でも、役人になるのに顔採用があったというのは、うれしいようなリアルすぎるような……。

午後は、農作業から恋愛と結婚、子育てに加えて、宴会(午後四時頃)、文字通りアフター5の歓楽街について。帰宅(午後6時頃)すると夫婦や家族、ご近所との関係。寝る準備(午後七時)では夫婦や恋人の話。

美女は必ずナンパするとか驚きの習慣だし、佩玉をもらうと「OK」の印って知ってると、『瓔珞』(エイラク)のドラマの理解がすごく深まる気がします(時代はだいぶ違いますが)。

あと、宮女についても、前漢では家柄をあまり気にしなかったのに、後漢では家柄重視になったというのもおもしろいです。こういうのは、明と清の後宮でもそうですけど、いつの時代も揺れ戻しというか、それ以前の王朝を反面教師にするんですね。

古代中国の異性愛や同性愛、自慰の道具の出土なんかのエピソードも予想外に詳しくて、人間っていうのは大昔だろうが現代だろうが、やってることはかわらないなあとあと思いながら読んでいたら、『天官賜福』4巻末から5巻のエピソードにからむような話題も見つけてびっくり。石窟の中の三郎の見せたくない絵の元ネタはこういうのですか? 小説だけでは想像できませんでしたが、実際に出土しているなら説得力ありすぎ。知識はやっぱり大事ですね。

セックスと自慰(四川省楽山県蔴壕墓出土、四川博物院所蔵)『古代中国の24時間』

柿沼先生の本は、文章がとても楽しくて読みやすいのに、エピソードの1つ1つにちゃんと出典が明記されている親切さもすごいです。さらっと読むだけでも楽しいし、その気になれば素人でも原典を確認できます。ちなみに、この時代の資料で現存するものは1500万字程度で、専門家だと10年くらいで読破できる量だとか。

柿沼先生のおかげで、膨大な資料をわかりやすく楽しい本にして読ませてもらえて、基礎知識も増えて中国のドラマや小説が2倍、3倍おもしろくなるなんて実質無料。台湾でも即、翻訳されたのは納得しかありません。おすすめです。


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