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壮大なシスターフッドの物語。中国ドラマ『ミーユエ』(羋月伝)

『家族の名において』で唐燦(タンツァン)がスタントをさせられそうになった孫梨(スンリー)という架空の女優さん。有名な実力派女優の孫儷(スンリー)の名前を借りたのだと思います。

私が初めてスンリーの名前を聞いたのは、中国残留婦人として苦労した日本人女性のドラマ。ベストセラー小説のドラマ化で、日本と中国が今ほどギクシャクしていなかった頃のお話。以来、スンリーってどんな女優さんか気になっていました。

今回、スンリーが主役のドラマは、なんと紀元前(!?)の中国の後宮が舞台のドラマ『ミーユエ』。日本だと弥生時代!? 卑弥呼よりも昔の中国の女性の物語ってどんなん? 清朝の『瓔珞』とどう違うんだろうと思って見始めたら、もうノンストップ。いつものパターンです。

主人公の初恋の人役で、黄軒さんも出ていました。才能ある新進気鋭の青年で有名な屈原の弟子役。最初の頃は、つい『歓迎光臨』の三枚目なドアマン役を思い出して、このドラマとの落差を2倍楽しめた気がします。

さて、ドラマ『ミーユエ』の舞台は、中国の戦国時代。実在した女性羋月(ミーユエ)が主人公。始皇帝の高祖母ですが、出自は不明。ドラマでは楚王と侍妾向氏の子供という設定になっていて、異母姉の侍妾として一緒に秦に嫁ぎ、次第に才覚を認められ、秦王の寵愛を受けて、最後は皇太后になるというストーリーです。

普通なら、宮廷の女性たちの愛憎をめぐるだけの戦いになりそうですが、このドラマがすごいところは、主人公と異母姉羋姝(ミーシュー)のシスターフッドにかなりの割合が割かれていることです。ミーシュー役の劉涛さんは、琅琊榜で穆霓凰役がすごくハマっていてファンになりました。

母親の身分が低いミーユエは、小さい頃から後宮でいじめられる存在だったのですが、正妻の娘のミーシューはミーユエが大好きで、いつも彼女をかばってきました。ミーユエもミーシューが好きで、彼女の力になり、彼女の望む結婚に尽力します。そして、いろんな事情はあったにせよ、一緒に秦にやってきて、ライバルの多い秦の後宮でミーシューを守ろうとします。

ところが、ミーユエが秦王の寵愛を受けるようになるとミーシューとの関係はギクシャクしだします。ミーシューの女官は、元母親付の女官でミーユエを目の敵にしていました。彼女がミーユエの出産を阻止しようと暴走して処刑されたことがきっかけで、ミーシューは母親同様、ミーユエをかわいい妹とはみなせなくなるのです。

このあたり、ものすごく脚本が良くできています。ミーシューはいくら闇落ちしても育ちがいいので、悪巧みや立ち回りが下手で失敗します。でも、ミーユエは小さい頃から自分の味方だったミーシューが敵に回るとは考えられないし、騙されたと知っても、傷ついても、彼女の悪意を信じたくありません。

ミーユエが生まれたときから女官として生きてきた葵姑が、たびたびミーユエを諫めるセリフが深いです。後宮という地獄を知る葵姑は、ミーシューがミーユエに向ける愛情は、自分より立場が下の場合だけということ理解しています。だから、ミーユエのように状況を楽観できず、何度もミーユエに考え直すようアドバイスします。

返せない恩が積もると、恨みになるんですよ。

今回彼女(ミーシュー)を許したことを、後日後悔しないといいですね。

私の人生にも葵姑みたいな人がいてくれたら、人間関係で苦労しなくて済んだかもと思うくらいに、彼女のセリフはニンゲンってものをよく理解しています。でも、やっぱりミーユエみたいに昔仲良かった人の悪意に気づけず、同じ苦労していたでしょうね。ニンゲン、痛い目にあわないと理解できないから。

もとい。後宮で正妻の長女として、何不自由なく暮らしてきたミーシューは、後宮以外の価値観を知りません。でも、義母や義姉妹たちにいじめられ、後宮の外での生活も長く、外の世界の価値観を知っているミーユエ。彼女は後宮での立場にしがみつく意志がなかったおかげで、夫の秦王嬴駟(恵文王)がなくなると、一気に弱い立場に追い込まれます。

劉涛さん演じるミーシューは、生まれたときから全てを持っていた女性。だからこそ、妻になり母になって、夫の愛を失うと、彼女に残っていたものは、嫌っていたはずの母や女官たちの後宮的思考だけ。今まで自分を守ってきてくれたミーユエを敵としかみれなくなります。その哀れさ、悲劇性がすばらしかったです。最初から悪役の魏夫人とは対象的で、見応えありました。

ただ、48話以降は実際の歴史とかなり違う方向にドラマが展開するのが気になって、とりあえず一旦休止です。私の中では第一部完ってところでしょうか。実際のミーユエ(宣太后、羋八子)は恵文王との間に子供が3人いるし、義渠の戎王との間にも子供が2人います。そして、子供も戎王も彼女が殺したと史実では伝わっていますが、ドラマのストーリーはその後の展開が……

ミーユエの人生は、現代的な倫理観からは外れるかもしれないけど、当時はありだったのだから、可能な限り事実とされている話に近い、もう少し剛腕なミーユエを見たかったです。後宮でのいじめは49話までで十分。

このドラマは戦国時代だけあって、実在の屈原とか張儀とか出てきて、諸国を遊説したり、喧々諤々の議論や駆け引きをするところも見応えありました。それから、各国から来るお嫁さんはスパイだったり、人質だったりする事情もおもしろくて、衛良人とか後宮の女性たちと出身国との関係、その人ならではの立ち回りとかも興味深かったです。十分堪能しました。

あと、ざっくりとした個人の感想ですが、清朝舞台の『瓔珞』よりも、登場人物たちのセリフが漢文調だった気がしました。そういう意味でもおもしろかった。もちろん、実際に紀元前の楚とか秦の人たちがどんな風に話していたかはわからないのですけれど。台本でも多少差をつけているんですね。

古代史の発掘がものすごく進んでいる中国では、服飾方面もわかってきたことが多いと聞いたことがあるので、試しに入門書を購入。中国書を翻訳したものですが、おもしろかったです。これをみると、ドラマほど豪華ではないにしろ、ちゃんと紀元前に絹の服が着られていたんですね。すごい。


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