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【ファジサポ日誌】80.涙雨と空~第42節(最終節) ツエーゲン金沢vsファジアーノ岡山~

※カバー写真は、のと鉄道の車窓から、穏やかな里海、能登湾です。

以前にも書いたことがあるかもしれませんが、金沢には筆者が個人的に尊敬しているサポーターさんがいます。

なぜ尊敬しているのか?
どんな時もチーム、選手に対する「まなざし」に変化がないのです。
勝っても負けても、応援している選手の調子が良くても悪くても、応援している選手が試合に出られても、出られなくても変化がないのです。

金沢は来シーズンからJ3に戦う舞台を移します。
おそらく本音の部分では様々な「想い」、「想い」と表現するには詰め切れない感情があると思います。
しかし、このサポさんのSNSには一切そんな複雑な「想い」は出てこないのです。
このサポさんの投稿には、いつも選手が躍動し、精一杯戦った後の表情が刻まれ、感謝が述べられています。

厳しい気候の中において、サッカーの存在が当たり前ではなかった金沢の街にプロサッカークラブができた。現状や内情はともかく、それ自体がこのサポさんにとって大きな「価値」になっているのではないかと、筆者は推察しています。

一方、筆者は勝敗に一喜一憂し、ああでもない、こうでもないと素人目線で論じる無粋なサポーターであり、多分これからもそうなのだと思いますが、クラブの「価値」という点で、退団が決まっている(4)濱田水輝のインタビューには惹きつけられました。

残しておくべきインタビューであると思いました。
筆者が特に印象に残った部分を要約しますと、

・サッカーの勝敗を決める要素は多様
・よって、勝利にこだわっても勝てないこともある
・岡山が長年大切にしてきた「価値」が近年薄れている
・だから勝てない、「価値」もないクラブになった時が最も危ない

となります。

下に今シーズンの新体制発表会の映像を貼ったのですが、振り返ってみますと、この中で述べられている岡山の方針に「勝利文化の構築」が新たにあげられていました。筆者としては、まるでこの点の裏面を語ってくれているように聴こえ、(4)濱田本人が述べていますように言いづらいことであったと思います。

100年続くクラブを目指す時、苦しい時代を支えるサポーターがどれぐらいいるのか、岡山にも当然既にいらっしゃると思いますが、前述しました金沢サポさんのようにクラブに不変の「価値」を感じて、クラブを支え続ける、熱量を保ち続けることが出来るのか?

シーズン移行(秋春制)や分配金などJリーグの環境が劇的に変化しようとしている今、岡山にも金沢にも問われているのは、クラブの「価値」の本質なのだろうと改めて思います。

今シーズンの岡山の選手にとって、このクラブの「価値」はどのようなものであったのでしょうか?

実は今シーズンの新体制発表会見を聴いた時、ひとつ筆者は疑問を感じた点がありました。フロントの上げ足を取るような意図はありませんが、シーズンが終わる今だからこそ、「答え合わせ」の意味も込めて振り返りたいと思います。

57~58分、服部GMが新加入選手について語っている場面で、新加入選手がこのチーム(岡山)でJ1に昇格したいと述べていたという点です。

そういう言葉が新加入選手からあったことを嘘とは思わないですが、レンタル加入の選手も含めて、これまで岡山に由来や繋がりがない選手も多い中、「岡山」で昇格したいという気持ちの根拠は何なのだろうか?純粋に疑問を感じたのです。

何となくその答えは「リップサービス」であったという結論に辿り着きそうです。
この金沢戦に臨む各選手、特に(41)田部井涼のインタビューから見つかったような気がしました。

ファジゲートの記事ですので、引用は避けますが、若いレンタルの選手が1年通して、心身共に成長していく様子が伝わってきます。
そのような経験を積んで、初めて岡山というチームに対する愛着や感謝が生まれ、昇格の重みに気づくのだということです。
選手個々の能力面とは別に、このような経験を積んだ選手を来シーズンに残して、初めてJ1昇格体制が整うのかもしれませんが、その点ではレンタル選手の多さは泣き所かといえます。

そんな選手たちも数多く出場した最終節金沢戦を振り返ってみましょう。
すみません、今回も長い書き出しになってしまいました。

1.試合結果&スタートメンバー

J2第42節 金沢vs岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

試合前から金沢入りするサポーターのTL、中継映像からもわかる激しい雨中での一戦となりました。
5戦未勝利11位の岡山、12戦未勝利、最下位が確定している金沢の対戦ということで低調な試合内容も予想していましたが、この試合を単体として(他の試合と比べずに)観た限りは、全体的にそこまで悪い印象はありませんでした。
しかし、書き出しで述べました(4)濱田の指摘を感じる部分もありましたし、インタビューでこの試合への意欲をみせていた(41)田部井のプレーから皮肉にも岡山全体の課題を感じる場面もありました。こうした点についても触れてみたいと思います。

ではメンバーです。

J2第42節 金沢vs岡山 スタートメンバー

週中の様々な記事により大幅なメンバー変更が予想されていた岡山でした。
故障者、コンディション不良者が相次ぐ中、今戦える選手がメンバー入りしたのではないでしょうか?

試合後に(4)濱田と一緒にFW(32)福元友哉がサポーターに個人として挨拶に来てくれた、泣いていたとの情報もあり、現段階で発表されている以外に今シーズンでお別れとなる選手も含まれていたと思います。
※11/13(32)福元の契約満了が発表されました。

退団が発表されている(38)永井龍が2トップの一角でスタメン、そして度重なる怪我を克服したMF(20)井川空が初のベンチ入りを果たしました。

金沢はCB(38)山本義道が出場停止、代役に(35)孫大河が入ります。中盤はフラットに示しましたが、攻撃時には(8)藤村慶太がアンカーとなるダイヤモンド型に移行するシーンもみられました。
これはいつもの金沢の形といえます。

2.レビュー

(1)両チームの「個」と課題

岡山と金沢、やり方は異なりますが、目指していたものはお互いに「個」の追究であったと感じました。
これまでのレビューでも、岡山の目指しているものは選手個人の能力の最大限発揮にあるとお伝えしてきました。その光輝く個性が噛み合えば、チームは最大限の強みを発揮できますし、噛み合わなければバラバラになります。
岡山が最後に勝利したホーム磐田戦は噛み合った一戦といえますし、前節秋田戦などは噛み合ってなかった一戦と区別できます。

今シーズン全体を振り返りますと、岡山の左サイド、特にLWB(42)高橋諒、LIH(41)田部井涼、LCB(43)鈴木喜丈、更に中盤に下りてくるFW(48)坂本一彩の連携は素晴らしかったと思います。
実は移籍した(22)佐野航大がLWBを務めていた時よりも連携面は格段に良かったと感じています。

ではメンバーが変わった時にどうなるのか?
この試合ではこの点が問われていたように感じました。
岡山の攻撃はLWBで先発した(19)木村太哉が持ち前の推進力とキープ力を武器に左サイドで起点をつくります。サイドに張った(19)木村の1レーン内を(41)田部井や(43)鈴木が追い越す、また(19)木村が中を推進する時はサイドに(41)田部井が顔を出すなど全体的に連携はスムーズであったと感じました。
(42)高橋が入っている時よりも綺麗に流れる訳ではないのですが、詰まった時は(19)木村が我慢してキープしていました。

この(19)木村の我慢が身を結んだのが、28分CF(35)永井龍の同点ゴールで、左サイドでキープする(19)木村へのサポートが遅れる中、ここで我慢してキープしたことにより、CH(6)輪笠祐士が遅ればせながらも金沢LSB(2)長峰祐斗のマークを外し(19)木村からのパスを受けます。
そしてボックス内で待つ(35)永井の動き出しをみて、金沢(35)孫の裏へピンポイントのパスを出しました。
今シーズンも数度得点に直結した(6)輪笠のラストパスを感じた(35)永井の動き、今シーズン2試合目の出場であった(35)永井の動きの特長を感じていた(6)輪笠の好プレーであったといえます。

これまでの2年間を振り返っても、試合中の細かい連携について、木山監督は基本的に選手個々の判断に任せているようにみえます。
おそらくピッチ上で発生する無数のシチュエーションに一つずつ約束事は作れないという発想かと筆者は推察していますし、また選手に任すことによって選手個々の判断力を磨き、成長を促してきたといえます。

そうなりますと重要になるのが、選手間での互いのプレーの特長、意図の理解、ピッチ上でのコミュニケーションということになりますが、これが上手に出来ていたのがこの得点シーンであったと筆者は捉えています。

一方で課題と感じましたのが、皮肉にもこの試合に懸ける意欲を見せていたLIH(41)田部井涼のプレーでした。
(41)田部井個人の成長したプレーを魅せようとする意欲は画面越しにもよく伝わってきたのですが、金沢の先制に繋がった12分のバックパスは、慌てて距離のあるバックパスを選択するシーンであったのか?という疑問もありますし、それまで前向きであったベクトルが突然後ろを向いたことで、CB(23)ヨルディ・バイスもGK(21)山田大樹も全く予期していなかった様子が伝わってきました。
タイミング的に難しかったかもしれませんが、後ろ向きの(41)田部井に対して誰か声をかけることが出来なかったのかな?とも思います。
シーズン前半の仙台戦や栃木戦でのO・Gを思い出させるものがあり、非常に苦々しい失点シーンとなってしまいました。

(41)田部井は自身のストロングである左足のキックも存分に披露。金沢最終ラインとGKの間に触ればゴールかというクロスを度々供給します。
しかし、残念ながらここに飛び込む選手がいないというシーンが散見されました。金沢のデキがこれまでとおそらく同様であったことを考えますと、ドローに終わった要因はこうした岡山の攻撃ロスにあったといえます。

(41)田部井がクロスを上げるタイミング、シチュエーションが2トップや右サイドの選手たちと共有出来ていない、感じられていない面であったと思います。

個の連携の成熟、未成熟の両面をみせた岡山に対して、金沢の「個」の徹底にも越えられない壁があることを感じました。

金沢の守り方はマンマークで、おそらく近年は基本的にずっと同じ守り方をしていると思います。
金沢、柳下監督のこれまでのインタビューやコメントを要約すると、最も重視している点は、ピッチ内の個人が自分の責任を全うすることの重要性であったと考えられます。
おそらくそれが柳下サッカーの哲学であり、それをピッチ上で体現する戦法がマンマークであったのだと思います。

しかし、このマンマーク戦法を体現するには全体の陣形がコンパクトでないといけません。コンパクトでないと各選手が相手選手についていく距離が長くなり、いたずらに体力を消耗しますし、攻撃への移行もスムーズに行えなくなります。金沢の陣形は決してコンパクトではありませんし、金沢の攻撃が比較的ロングボール頼みになるのは、マイボールになった際に選手の位置がバラバラで攻撃体勢が整っていないからです。
後半、金沢の攻撃が活性化したのは、このロングボールの収め先としてFW(26)木村勇太が機能したからといえます。

この最終戦、岡山、金沢お互いの「個」に1シーズンを越える課題が出ていたといえます。

(2)涙雨の空

そんなどこか物悲しさをも感じさせる一戦で今シーズン公式戦初出場を果たしたのが、度重なる怪我に苦しんできたMF(20)井川空でした。
好プレーをみせていた(6)輪笠に代わってCHに入りましたが、悪天候が続く中、今シーズン初出場とは思えない落ち着いたボール捌き、前向きなベクトル、密集を恐れない姿勢をみせてくれました。
(20)井川に関してはサッカー選手としてピッチ上に戻ってこれたことをまず歓迎したいです。
来シーズンの動向はわかりませんが、今後の未来に繋がるプレーが出来たのではないかと思います。(気持ちの上で)この日の天候に明るい陽射しをもたらしてくれたといえます。

(3)柳下監督のコメントから

--セレモニーで感極まっていた。一番は申し訳ないというのはずっと、1カ月以上はその思いはある。終わってフラッシュインタビューをするときに米沢(寛)社長の顔を見たら、どうしても涙が止まらなくて。そこからですね。あと、自分が考えていたことが起こらなかったので、正直ビックリしたのと、申し訳ない気持ちが倍増した。あそこでブーイングをしてくれたほうが、自分としてはみんなのそういう気持ちを受け止めて謝ることができた。そういうことがなかったので、ちょっと耐えられなかった。

試合後の金沢・柳下監督のコメント Jリーグ公式HPより

試合後も金沢の最終戦セレモニーを観ていましたが、柳下監督がコメントを発した後、しばらく間がありました。誰も何も声を発さない異様な間でした。おそらくこの時に柳下監督はサポーターからのブーイングを待っていたのかもしれません。
しかし、ブーイングは起こりませんでした。

その理由には、早々に降格が決まってしまったことで気持ちの整理が既についていた、7年もの長い間監督を務めてくれたことへの感謝、そんな監督とこのような形で別れなければならない辛さ、強い雨風に晒され続けた体力・気力の消耗、監督ではない別の人への怒りなど、様々な気持ち、要素があったと思いましたが、ごく自然にブーイングは起こらなかったということなのでしょう。

その是非について、部外者が口を挟む権限は何もありませんが、岡山でも賛否両論あるブーイングについては、主体的にする、しない以前に、自然発生的性質のものであるという理解を改めて深めました。

3.まとめ

岡山としては、やはり今シーズンの課題が浮き彫りになった試合になってしまいました。
ファジゲートのコメントでは(4)濱田は一体感の無さをチームの課題に挙げてくれましたが、この一体感の醸成については勝敗の結果で変化してくるという考え方も多くあり、その点は筆者も理解するところではあります。

勝敗とリンクするのでしたら、昨シーズンのチームには一定の一体感があったと振り返るのが自然です。
では、昨シーズンのチームの一体感はどこから作り上げられてきたのかと振り返りますと、筆者は再開試合山形戦の間接FKの準備にあったのではないかと思います。
ユースの選手にも協力してもらって、監督、コーチ、選手たちが試行錯誤しながら練りに練った策。そして再び現地に赴いたサポーター、PVを実施してくださったクラブ、スポンサー、会場を盛り上げた熱意が、それまでに強さの片鱗は見せながらも、どこか「烏合の集団」であった岡山に一体感をもたらしました。
ですので、一体感はある程度は意図して作れるものではないかと思います。
再開試合の間接FKは特別なものではありましたが、来シーズンに向けてこのチームが行うべきこと、それは1点を獲りに行くため、1点を守るための「共同作業」なのかもしれません。

最後にもう一度、(4)濱田のコメントを貼って今シーズンのレビューを終えたいと思います。

自分の個人的な感情なんかも入って、思った以上にバタバタしてしまった。でもそれも含めて自分。セットプレーでどうにか点を取りたかったけど、先に触れていたけど点につながらなかったので悔しい。絶対に勝ち切ると思って入ったけど、最後ちょっとやり切れなかった。でも自分の力は出し切った。

--個人的な感情とは?やっぱりこのクラブを離れる寂しさ。それはどうしても感じる。先週、ホームの最終戦でも退団する実感がないと話させてもらったけど、まだこれが続くんじゃないかと思っている自分がいる。でも実際はそうじゃないというのも分かっている。素晴らしいサポーターの皆さんに応援してもらうことが二度とないんだなという寂しさと、本当にありがたいなという感情があった。これが終わってしまう寂しさがある。

--どんな6シーズンだった?人として成長できた6シーズンだった。いろんな経験をここでさせてもらった。ケガで苦しんだ年もあったし、コロナでそもそもサッカーは社会に必要とされるのかと考える時期もあった。純粋にサッカーができる喜び、サッカー選手としての幸せを感じることもできた。サッカーの奥深さ、組織の奥深さ、チームのあり方なども感じることができた。ピッチ内外で学びの多い6年間だった。

試合後の(4)濱田のコメント Jリーグ公式HPより

4.惜別

FW(32)福元友哉

とにかく怪我が多かった。これがまず第一印象です。
それでもリーグ戦に出場すると決定機を迎えたこともあり、このうちの1本でも決まっていれば、早い段階で序列も変わっていたのかなと思えます。
公式戦(天皇杯)フクアリ初勝利に貢献するゴールを決めた時には明るい未来が見えた気もしたのですが…。
でも、よく気持ちを折らず、いや折れた時期もあったのかもしれませんが、プロ生活を続けていたと思います。
彼にとっての幸運はホームグロウンであったことではないでしょうか。
ようやく傷が癒えた今シーズン、本職のFWのみならずWBに挑戦するなど、プレーの幅を広げ続けた努力の結果が熊本戦の勝ち越しゴールであったと思います。
契約満了は決して喜ばしいことではないと思いますが、傷が癒え、プレーの幅も広がり、J2に爪痕を残した今、前向きに新天地で戦ってほしいと思います。まだ24歳、これからです。

さて、最終戦が終了しました。
拙いレビュー続きであったと思いますが、今シーズンもお読みいただきありがとうございました。お読みいただきました皆様の反応やコメントが支えとなり、レビュー挑戦2年目で初めて42試合(天皇杯含めて44試合)を完走することが出来ました。
書くことで、筆者自身のサッカー観も多少は成長出来たのではないかと思っています。
来シーズンのファジアーノ岡山の成功を心から願います。
ありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。






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