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【ファジサポ日誌】67.地上戦の備えは足りていたのか~第29節ファジアーノ岡山vsFC町田ゼルビア~

お盆の週末に入り、曜日感覚を失ってしまいそうな日々が続きます。
夏バテしていましたら、あっという間に次の試合が迫ってしまいました。

夏休みの土曜夜開催、首位町田が相手という動員要素もありましたが、なかなか波に乗れない今シーズンにおいて1万人以上の観客が集まったというのは、まさに岡山のサッカー熱の高まりを現すものだと思います。
ここで勝利して、いよいよ今シーズンの残り1/3に攻勢をかけたかったのですが、結果は今シーズン初の2点差以上での敗戦と悔しいものになりました。

いわゆる「球際」で後手にまわった失点、(18)櫻川ソロモン痛恨のPK失敗など、チームは局面で勝負弱さを見せ、サポーターも様々な感情を露わにしてしまう戦いとなってしまいましたが、冷静に振り返ってみたいと思います。

1.試合結果&スタートメンバー

いつも試合結果の後にお示ししています「時間帯別攻勢・守勢分布図」はこの後のレビューで用いますので、ここでは早速スタメンの確認に移ります。

J2第29節 岡山vs町田 スタートメンバー

岡山の注目はRCBに(23)ヨルディ・バイスに代えて(15)本山遥を起用した点でした。
おそらく役割は、町田LW(11)エリキのスピードを意識したRWB(16)河野諒祐の守備面でのサポート、CB(5)柳育崇が前に出た際の背後のカバーなどが考えられます。高さと強さがある町田に対して、チームとして地上戦で勝負を挑もうとした意図を感じました。これまでも(15)本山のRCBは何度か見ており、概ねデキも良かったので、試合前の期待値は高かったと思います。
一方で、結果的にこの選手起用がこの試合の勝敗に大きく影響したと筆者は考えます。

МF/FW(8)ステファン・ムークは出場停止。前線からの守備も気になるところでした。清水戦試合後の破壊行為により1試合のベンチ入り停止となった木山隆之監督はスタンドから試合を見守ります。ベンチでの指揮は、木山監督の腹心である小坂雄樹コーチが務めます。
前節清水戦でベンチ外となったGK(13)金山隼樹が戻ってきました。
筆者は選手起用方針の変更かと注目しましたが、どうやらお子さんの誕生に立ち会ったための欠場であったようです。

町田は水曜日の天皇杯でフル出場を果たしたCF(15)ミッチェル・デュークがベンチスタート。CFには(25)藤尾翔太が入ります。昨シーズン徳島在籍時に岡山はホーム、アウェイで手痛い2ゴールを献上。相性が悪い選手です。

6分(14)田中の先制弾後の(13)金山へのゆりかごダンス

2.レビュー

(1)町田との対戦にみる岡山の進化と課題

J2第29節 岡山vs町田 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)
J2第14節 町田vs岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

実は試合内容そのものは、今シーズン前半の町田との対戦よりも良かった印象が残ったため、前回の対戦(第14節)の「分布図」と比較してみました。
大きな違いは岡山側の「圧倒的に守勢の時間帯」が減少したことです。
これは岡山が今シーズン途中からボールを繋ぐサッカーに取り組んでいる成果といえます。
ひたすら守りに徹していた時間が長かった前回の対戦よりもゴールの可能性は高かったともいえます。

実際に今回の対戦では先制後、後半のPKも含めて複数回の決定機を迎えることが出来ました。このいずれか一つでも決めていれば、この試合の結果は変わっていたかもしれません。
一方で今回の対戦では、白色(五分)の時間帯に2失点を喫しています。
つまり岡山が決定機をつくる、またボールを持つことが出来た時間帯の隙をきっちり町田に決められて失点してしまったといえます。
前回の対戦では押し込まれながらも1失点で済みましたが、これは自陣深くで守る時間が長く、各選手の守備意識が明確であったからと考えます。
つまり、押し込まれていたのでチーム全体で守ることに集中出来ていたといえるのです。

この論理でいきますと、やはり岡山には町田と比較して攻守切り換えの意識がまだまだ不足しているといえるのですが、いわゆる「お気持ち」だけの問題ではないとも筆者は感じたのです。

(2)バイス不在の影響

この試合に関しては、試合の大勢が決まるまで(23)バイスがピッチ上にいなかったことがマイナスに作用したと考えます。
この試合の3失点、FK、クロス、ロングスローと岡山ボックス内へのボール供給方法は様々でしたが、共通していたのは岡山の選手が町田の選手よりも先に触ることが出来なかったことです。

(23)バイスがいれば、絶対に触れていたかと言われれば、断言は出来ませんが、これまでのレビューでも度々採り上げてきました(23)バイスの予測の良さを踏まえますと、先に触れていたボールもあったと思いますし、(5)柳のみでなく(23)バイスとのツインタワーで守れていれば、町田のボックス内に供給するボールを、よりゴールより遠ざけることも出来たとのではないかと思います。

この試合(15)本山はカバーの速さ、町田(11)エリキとの1対1でも好プレーも披露、攻撃の起点としても機能していたと、その成長は感じるところなのですが、3失点それぞれの局面に目を移すと(23)バイス不在が大きく響いたのでした。

(3)準備不足を感じた地上戦

そもそも(23)バイス不在の戦い、いわゆる「地上戦」を進めるのであれば、チームとして(23)バイス不在の弱みを補わなくてはなりませんが、この点について岡山は準備不足であったと思います。

それは前述しましたボックス内へ放り込まれるボールへの対応という点もありますし、町田に良いボールを入れさせない動き、前線からのプレスやサイドでマイボールにする意識、クロッサーへのプレッシャーのスピード、強度などについても不足を感じました。
全く出来ていない訳ではないのですが、町田と比べますとセカンドボールへの寄せの速さ、攻守切り換えの第一歩のスピードで岡山は劣っていました。
もちろん町田はシーズン当初からこうした部分を磨くサッカーをしていましたので一朝一夕に追いつけるものでもありませんが、もう少しチームとして「地上戦」に持ち込む意識と言いますか、準備が出来なかったものかと物足りなさを感じてしまいました。

(23)バイス不在の影響と言えばPKの場面にもいえるのです。
今シーズンの(18)櫻川の4得点のうちの1点はPKです。
彼が蹴るのが自然なのですが、バイス不在を踏まえてチームとして事前にPKキッカーを決めていたかどうかが気になります。
すぐに(18)櫻川がボールを手にしましたが、これが自分が蹴ると事前に決まっていたからなのか、それとも「エースの責任感」として自主的に蹴ろうとしたのか、気持ちの準備がかなり変わってくるのではないかと素人ながらに思うのです。
筆者は事前に決めておく必要があったと考えます。それがプロとしての在り方なのではないかと思います。真相はどちらであったのでしょうか?

(4)対照的に光った攻撃面

守備に(23)バイス不在の大きな影響を感じた一方で攻撃は光る場面が多い試合でした。58分(44)仙波大志に代えて(17)末吉塁が入り、(22)佐野航大が中央にポジションを移してから、突然岡山は攻勢に転じます。
59分、(22)佐野がここまで攻守に好プレーが続いていた町田CH(33)松井蓮之を剥がしファールを貰ってから流れが変わったと思います。
(17)末吉が高い位置でサイドに張ることでLCB(43)鈴木喜丈に前進スペースが生まれます。ここから60分(48)坂本一彩のシュートチャンスに繋げます。少しずつ岡山が町田に圧力を掛けていきます。

町田が(33)松井と(16)宇野禅斗の両CHを含めた中盤を低めに置く守備ブロックを敷いたことにより、(22)佐野は比較的フリーでボールを持てるようになります。この(22)佐野を起点に63分(14)田中雄大への鋭い縦パスを出すなど、岡山は徐々に縦に速い攻撃を仕掛けます。

J2第29節 岡山vs町田 63分岡山の攻撃

この攻撃は(15)本山がしっかり組み立てに加わったことで(6)輪笠祐士が良い状態でボールを持てたところから始まります。
(6)輪笠から(22)佐野に渡りますが、このターンからの縦パスの鋭さがまず目を惹きました。受けた(14)田中はしっかり町田を引きつけ、更にスペースへ前進した(22)佐野へ。ここで(22)佐野はシュートフェイントを入れ町田DFの体勢を崩して左の(17)末吉へ斜めに通しました。パス、ドリブル、ターン、攻撃的MFとしての魅力を存分に魅せてくれたシーンでした。スタジアムも湧きました。

一連の佐野の動き

3.まとめ

結局はチャンスを決め切った町田、決め切られた岡山、また決め切れなかった岡山との差が如実に出た試合であったと思います。
しかしながら、この強度、スピードであればJ2他クラブとの対戦であればある程度結果は残せるとも思いました。必要以上に悲観はしたくないです。
しかしながら(23)バイス不在の戦いを選択した割には、その準備、特に守備面での準備が不足していると感じた物足りない戦いでもありました。

全体的にみまして、木山ファジは攻撃面での準備は得意に見えますが、守備面での準備は苦手にしていると感じさせるこの2シーズンです。
昨シーズンは(5)柳、(23)バイス、(1)堀田、そしてデュークらの個の力で守備を賄ってきましたが、今シーズンはデュークが抜け、(5)柳は弱点である背後を執拗に突かれ、(23)バイスからはこれまで以上にスピード難が目立つようになってしまいました。
彼らの「個」の弱点を補える全体的な守備強度、スピードが不足していることにより、かつて強固な守備を築いてきた「岡山らしさ」の不足とサポーターには映っているのかもしれません。

岡山がJ2リーグに昇格してから数年、手塚体制や影山体制での岡山は「よく走るチーム」でした。それは真面目で泥臭いクラブカラーを表現する方法の一つであったと思いますし、当時のJ2上位と比べると決して「巧い」選手が多くなかった岡山において、J2を生きていくための手段でもあったとも思います。「走る走る」田所諒などはこの時代の岡山の象徴的な選手でした。

そこからFC東京で指導歴があった長澤監督により、強固な守備という形で「新たな岡山らしさ」が築かれたと筆者は考えています。客観的に見て走力という面ではそれ以前の方が走れていたと思います。
この時代はシーズン前のキャンプから守備に徹底して時間と労力、そしてこだわりをかけていたと筆者は記憶しています。あのプレーオフにいった頃の良い時期のサッカーはその極みでした。
しかし、徐々にJ2のレベルも上がり、堅守だけでは上位にいけなくなっていきます。有馬体制ではボールを前から奪うようになりましたが、長澤体制、有馬体制共に攻撃の引き出しは不足していたと思います。
前線の選手に徹底して守備を求めた、学ばせた成果は上門知樹や石毛秀樹のブレイクに繋がりましたが、全体的にみてチームは得点力不足に陥りました。

様々なサッカー哲学があると思いますし、筆者にはそれを語るだけの実力もまだありませんが、一観戦者としてサッカーは「得点を競う」スポーツであると純粋に思っています。
当たり前かもしれませんが、良い守備は良い攻撃のためにあると思うのです。よって、守備から攻撃への道筋をしっかり描けないチームは良い成績は残せないのです。

筆者は、この時期の「岡山らしさ」はその誠実さを感じる反面、得点を多く奪った方が勝てるというサッカーの競技原理に反していると感じていたのです。

木山体制に代わった昨シーズン、チームは守備ではなく攻撃の練習からキャンプをスタートしました。その理由は故障者を減らすためであったと聞きましたが、非常に大きな変革であったと筆者は理解しています。
実はこの木山体制スタートの段階で、ピッチレベルではかつての「岡山らしさ」は終焉を迎え始めたのかもしれません。前述しましたが、それを個の強さとキャラクターで補ってきたのが昨シーズンであったと思います。

つまり何が言いたいのかというと、木山ファジに対してかつての「岡山らしさ」を求め過ぎるのは酷に感じるという事です。かつてとはチームの構造が違うのです。
筆者が懸念しているのは、この「岡山らしさ」に固執するあまり、今の選手たちの良いプレーを評価できなくなることです。
木山ファジの評価にかつての「岡山らしさ」を求めると、その評価はおそらくマイナスになります。
評価がマイナスになれば体制変更に繋がります。
来シーズンを今のメンバーでやれるとも思っていませんが、過剰に「岡山らしさ」を求めることで、今の「繋ぐ」サッカーが無になる可能性もあります。

とはいえ、リーグ上位を目指すのであれば、良い守備から良い攻撃の土台である守備に綻びがある状況は改善しなくてはなりません。
今後も木山体制が継続するのでしたら、お金をかけてでも守備面で木山体制をサポート出来るコーチを補強する必要はあるのかもしれません。

このようなまとめになってしまいましたが、今シーズンを諦めている訳ではありません。最後の滑り込みをねらいながら来季も見据える、そんなスタンスです。

今回もお読みいただきありがとうございました。

※敬称略

試合前にはクラブユース選手権3位の快挙を成し遂げた
U-18チームの報告セレモニーが行われた

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き社会保険労務士
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
ゆるやかなサポーターが、いつからか火傷しそうなぐらい熱量アップ。
ということで、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

応援、写真、フーズ、レビューとあらゆる角度からサッカーを楽しむ。
すべてが中途半端なのかもしれないと思いつつも、何でもほどよく出来る便利屋もひとつの個性と前向きに捉えている。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。
アウェイ乗り鉄は至福のひととき。多分、ずっとおこさまのまま。









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