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【ファジサポ日誌】96.ジャブからのストレート~第3節 ファジアーノ岡山vsレノファ山口 マッチレビュー~

前節アウェイいわき戦では強烈な風下に立った後半のラストプレーで失点、早くも今シーズン初ドローを喫し、一部では早くも19ドローをマークした昨シーズンの「勝ち切れない」ファジアーノ岡山が顔を覗かせたとみる向きもありました。

そんな少しばかりの不安を払拭するためにも、今節は勝ち切ることが重要でした。チームは水曜日にルヴァンカップ1回戦の宮崎戦を快勝、カテゴリーが下の相手であったとはいえ、今のファジアーノにとって勝利は最高の良薬です。この良い流れをリーグ戦に繋げたいところでした。

相手はここまで横浜FC、秋田相手に1勝1分のレノファ山口、今シーズンから志垣良監督を迎えました。
志垣監督といえば、昨シーズンはJ3FC大阪を指揮、ハイプレス戦術を定着させ、一時はJ2昇格圏も狙える位置にまでチームを上昇させました。
残念ながらクラブがJ2ライセンスを取得出来ず、最後は息切れしましたが、その戦術は今シーズンも継続され、現在FC大阪はJ3開幕3連勝を飾っています。
まさに新進気鋭の監督といえます。そんな山口はハイプレスも含めて守備全体の再構築からチーム再建をスタートさせたようです。前2試合をチェックしましてもその成果は如実に現れているようにみえました。

前節いわき戦でチャンス数の割に得点が生まれなかったファジアーノにとって、簡単に勝てる相手ではないことが予想されました。

試合前、素足でピッチの感触を確かめる木村

1.試合結果&スタートメンバー

交代出場RFW(10)田中雄大のゴールが試合終盤84分に生まれたことからも、やはり簡単な試合ではなかったと振り返ることができます。
しかしながら、シュート12本、CK8本というスタッツ面を含んでも実はこの試合は内容面では全体的に岡山優勢であったというのが筆者の感想です。
この点については、後ほどレビューで触れます。

J2第3節 岡山-山口 スタートメンバー

続いてメンバーです。
岡山はDF(18)田上大地がいわき戦の退場により出場停止、CBには大方の予想どおり(5)柳育崇が入ります。ルヴァン杯宮崎戦からの連戦となります。それ以外のスタメンに変更はありませんが、サブにルヴァン杯で活躍しましたMF(16)河野諒祐、МF(44)仙波大志が入ってきました。
山口もスタメンは前節秋田戦からの変更はありませんでした。しかし、前節でゴールを決めたMF(28)小林成豪は脳震盪による離脱のためベンチ外、ベンチメンバーに若干の変更が加えられました。

補足させていただきたいのが両チームの矢印についてです。
岡山は守備時の動きを示していますが、後半途中まではWBの両方ではなく片方が最終ラインに入る4-4-2または4-3-3のような形になっていました。これはいわき戦や栃木戦も同様であったと思います。
これは相手前線の枚数や状況によって流動的です。最終盤1点を争う場面ではプレスの連動性を捨ててでも、両WBがしっかり下がって5バックで守備をしていました。

一方、山口の矢印は攻撃時の動きです。ビルドアップの際には両SB、特にLSB(48)新保海鈴が一列前に上がり、そこにCH(37)田邉光平や(8)佐藤謙介が最終ラインまで下りてきていました。

2.レビュー

J2第3節 岡山-山口 時間帯別攻勢・守勢分布図

「時間帯別攻勢・守勢分布図」においても全体的に岡山攻勢の図が浮かび上がってきます。この試合については全体像から把握した方がよいと感じました。

(1)試合の全体像

試合前の両監督のインタビューでは、志垣監督は「ワントップに当てる、(その後の)2シャドーに警戒」と、岡山のCF(9)グレイソンへのロングボール及び縦パスとそこからの2シャドー(27)木村太哉と(19)岩渕弘人への展開を警戒していました。岡山の開幕2戦を踏まえれば妥当な警戒であったと思います。
一方で木山監督は山口を「相手の嫌なことをやるチーム」と評しており、まさにこの両者のコメントが符号する一戦となったのです。

岡山自陣保持時での山口の守り方は、(9)グレイソンに対して山口の2CB(40)平瀬大と(66)キム・ボムヨンの2人が近い距離でマーク。
(9)グレイソンへプレッシャーをかけながら、彼へのロングボールを規制する、そして(9)グレイソンに収まってもその脇を抜ける(27)木村や(19)岩渕の動きを封じる策でした。
まさに「岡山が嫌がること」をやっていたということです。

序盤、岡山陣内から(9)グレイソンへ縦に出されたボールは山口のこの守備網にしっかり引っ掛かり、ボールを奪った山口が岡山陣内に度々侵入します。この流れを受けて岡山は攻撃の組み立てに変化を加えたように見えました。岡山としては(9)グレイソンを警戒する山口の動きはある程度織り込み済みであったようにも思えます。

グレイソンやシャドーの岩渕には序盤から厳しいマークがついた

(9)グレイソンへの対策がなされているとみるや否や、前半15分も経たないうちに、中央からサイドへと攻撃の起点をずらしていくのです。
この動きの変化は岡山が意図した面もありますが、山口が攻撃の起点をサイドにつくろうとしていたことからも、ごく自然な流れであったともいえます。

この点は山口の自陣からのボールの動かし方も関係しています。
過去2戦では相手前線からのプレスをサイドに蹴ることで回避し攻撃に繋げる傾向がみられ、またこの岡山戦では岡山陣内中央に空中戦で無類の強さを誇る(5)柳(育)が控えていた事からも、よりサイドへの(まさに)方向性は強まったものと考えます。

このサイドの攻防で岡山は優位に立つことが出来ました。
その主な要因は①岡山サイドプレーヤーの空中戦の強さ②その空中戦のセカンドを確実に引き取るCH(24)藤田息吹や(41)田部井涼の存在③LCB(43)鈴木喜丈の攻め上がり、そして④山口陣内にサイドを攻略するスペースが存在したことであったと考えます。

①については岡山右サイドの場合、RWB(88)柳貴博が大柄、長身であること、そして左サイドの場合、LCB(43)鈴木喜丈が明らかに空中戦で強くなっている点が代表例といえます。
彼らの他にも(41)田部井や(17)末吉も昨シーズンより空中戦が強くなっているとの印象をここまで持っています。

柳(貴)からにスペースへ出すよう指示する木村

振り返れば昨シーズンの岡山の弱点の一つが中盤での空中戦の弱さでした。
1月の新チーム始動から急に空中戦が強くなる訳でもありませんので、憶測にはなりますが、昨シーズン終了時から意識的に各選手フィジカルの強化に取り組んでいたのかもしれません。仮にそうだとしましたら、この点は岡山の継続性の強みともいえるのではないでしょうか?

山口梅木と競る田部井
感覚的ではあるが、去年は多分頭部が切れてなかった。
それだけ跳躍力が増した証か

そして②については、特に(24)藤田のポジショニングが光ります。この試合でのこぼれ球の奪取数はなんと7回。彼の予測の鋭さが光ります。
そして、こぼれ球だけではなく、サイドプレーヤ―が奪ったボールの預け先としても(24)藤田は機能しています。いったんボールを預けると素早くシャドーが走り込む前方スペースへボールを送る、状況によっては最終ラインに返す動きが光っていました。
山形でのパスワークの経験が新天地岡山でも活かされています。

山口吉岡の前進を防ぐ藤田

③についてはお馴染み「喜丈ロール」なのですが、発動の前提となるのが扇の要である(5)柳(育)の高い位置取りです。この点は昨年からの積み上げの成果が発揮されていたと思います。自身で、また(24)藤田ら、周囲とのパス交換を交えながらハーフウェイ付近まで持ち上がった上で(43)鈴木を押し出していました。(43)鈴木ほどではないにせよ、右についても(4)阿部も同様に押し出せていました。
これも昨シーズンからの積み上げの成果といえます。

今シーズンは力強さが増した鈴木

④については、前述しました(9)グレイソンの動きが影響していたと思います。つまり彼が山口の2CBを引きつけることで山口のライン間が空くのです。ここを岡山はシャドーやWBを中心に上手く突けていたと思います。

この試合で(9)グレイソンが下りてボールを受ける回数は過去2戦と比べると少なかったと思います。では不調であったのかというと、そうではなく、おそらく前線にポジションをキープして山口の最終ラインを下げさせていたのではないかと思います。そうすることで山口が自陣でボールを回収しても低い位置からの攻撃開始となり、サイドに展開しても浅い位置にしか運べないという現象も発生していたように見えました。そして、岡山のサイドでの優位性が更に高まるという、岡山にとっての好循環が生まれていたのです。

岡山はこの両サイドで保持したボールに両シャドーも絡み縦に推進したり、横に運んでサイドチェンジ、ピッチを広く使いながら山口の幅を広げようと終始試みていました。

ボクシングに例えるならジャブを撃ち続けているような状態であったといえます。

SPORTERIAさんのデータをいくつか引用していますが、時間帯別パスネットワーク図では、試合序盤を過ぎると早い段階で岡山がサイドにボールを集めている様子が伝わってきます。筆者作成の「時間帯別攻勢・守勢分布図」でもサイドにボールが集まる時間帯から、岡山の攻勢時間が続いていますので、この点からも岡山のボールの動かし方が有効であったことが証明されると思います。

下図ではRWB(88)柳(貴)から最終ラインそしてLWB(17)末吉への展開が想像されます。つまり岡山がピッチを広く使っていたことが窺い知れます。

後半はこの状況に岡山風上の強い風が吹いてきました
いわき戦とは逆に順風を得られたのです。

対する山口は、改めて中央に活路を見出そうとしていました。
中央突破にあたっては(5)柳(育)の壁が難関となるのですが、この(5)柳(育)との1対1で光っていたのがFW(9)若月大和でした。

湘南で試合に出ていたのは見たことがありましたが、170cmながらしっかりボールを収めている点は印象的でしたし、この日唯一(5)柳(育)の裏を突けていました。

それだけに両チームの選手交代が大きく勝敗を分けた一戦となったのです。

(2)分水嶺となった選手交代

まず山口が58分(9)若月を下げてFW(19)山本駿亮を投入します。
(19)山本も鹿児島に在籍していました昨シーズンJ2昇格を決定づけるゴールを決めるなど良いFWなのですが、(9)若月が効いていただけに岡山としては助かったのではないでしょうか。
一方、岡山は76分に(19)岩渕に代えて(99)ルカオを投入。
(9)グレイソンとの「スリーナイン」2トップにシフトします。

999ツートップ
山口は少し前にヘナンを入れて対抗

これで山口としては迂闊にラインを上げられなくなりました。岡山も守備時に両WBを最終ラインに下げて5-3-2のブロックをつくります。プレスの連動性は捨てても後ろで構えて回収、2トップのパワーにかける戦法、昨シーズンの後半バージョン+αというイメージでした。

しかし、山口のボックス内でのシュートブロックは強固でした。岡山の攻勢、前進できない程の逆風、そしてCF(24)梅木翼の退場が却って山口ゴールを堅くさせたのかもしれません。

しかし、決勝ゴールを生んだCKはボックス内に(9)グレイソン、(99)ルカオがいたことにより、ファーの(5)柳の折り返しもこの2人に合わせるイメージが山口側にあったのかもしれません。
その間隙に飛び込んできた(10)田中で勝負ありでした。

(10)田中はルヴァン杯でも少々空回り気味にも映る気合が画像越しに伝わってきていました。しかし、その前進気勢が「山口の壁」を破ったともいえます。(5)柳(育)があくまでも自身で決める前提でボールを叩きつけたのも功を奏しました。

前半からの岡山の試合運びが「ジャブ」なら、このゴールは「ストレート」といえるのではないでしょうか?

ベンチには血気盛んな若武者達が控えている
そして全力で歓ぶ!

(3)やらさない、隙あらば獲る

しかし、岡山の最大の課題、クロージングはここからです。
91分RCB(4)阿部海大が山口(40)平瀬大に振り切られましたが、よく手を掛けずに我慢しながら追いかけたと思います。
この試合での(4)阿部は若干ミスが目立つリズムに乗れていない状態でしたが、このシーン、ミス後のリカバーとしては最良のプレーであったと思います。
(17)末吉もよく戻りましたし、ボックス内全員でプレッシャーをかけた分、山口MF(17)石川啓人のシュートは逸れたのではないでしょうか。

そしてその後、山口陣内右サイドでのボールキープもGATE10前での攻防ということもあり、まさにサポーターの応援が乗っかったキープであったと思います。

一瞬の隙から途中交代MF(44)仙波大志がゴールを狙ったシーンも痺れました。短い時間ながらもアピールしたいという気持ち、そしてリスク管理の面も踏まえて攻める以上はフィニッシュで完結するという気迫が伝わってきました。

ヒヤリとさせられたが全員でプレッシャーを掛け続けた点が良かった
ビジョンでGATE10を映す演出
一体感が増す
オレを忘れるな!
仙波が猛攻を仕掛ける

(4)ジャッジについて考える

山下良美主審のジャッジについてはその傾向も知られてきたところで、厳格な傾向のジャッジになるのだろうと予想はしていました。
しかし、岡山の選手の前半の反応をみていますと若干想定を超えた不平感はあったようにみえました。
筆者としては、この投稿の言葉どおりで「とる」ところと「とらない」ところの差がよくわかりませんでした。この点は試合後フォロワーさんからヒントをいただき自己解決はしています。
問題は2点あるのかなと思っています。
厳格なジャッジは試合が止まり、その都度主審が目立ってしまうということです。観客目線ではサッカーを観に来ているのであって、審判を観ている訳ではありません。
そして厳格なジャッジがJリーグでも標準的になるのであれば、それはそれでいいとも思うのですが、現状「属人的」なジャッジになり過ぎているという側面は否定できないと思います。つまり審判ごとにとる、とらないの振れ幅が大きすぎるように感じるのです。
いわゆる「審判ガチャ」という言葉もこうした背景から出てくるものと思われます。
いくら人間が行うこととはいえ、もう少し基準を統一化することは出来ないのだろうか?と思ってしまいます。それがVARなのかもしれませんが…。

岡山としては、この試合、後半からしっかり判定に対してアジャストすることが出来ていたと思います。早速、昨シーズンからの課題克服がみてとれました。

グレイソンは前半から冷静

3.まとめ

以上、山口戦を振り返ってきました。セットプレーの1点を苦労してもぎ取りましたが、その背景には前半から岡山がボールを動かしながら山口にジャブを見舞っていたという試合全体の流れ、そしてその細部については昨シーズンからの継続性が光ったという2点が伝わりましたら幸いです。

山口に関してはフィニッシュの精度が向上すれば1-0、2-0で勝つ試合が増えてくるという印象を持ちました。早くも3戦にして全勝がなくなったJ2ですが、開幕で対戦した栃木、いわき、そしてこの山口、おそらく次の対戦では更なる進化がみられると思います。
ファジアーノ岡山としては彼らを更に上回る進化が求められます。

未知の新加入選手たち、プレー精度の向上に更に期待したいと思います。

今回もお読みいただきありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】
雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。

2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。


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