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【ファジサポ日誌】119.自分たちのサッカー ~第24節 栃木SC vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー~

視点をどこに置くのかで評価が分かれる一戦であったと思います。

今節は長崎、横浜FCの上位陣がドロー、またプレーオフを争う山口、仙台、千葉が揃って敗戦という結果に終わりました。

岡山としては上位との差を縮め、プレーオフ圏のライバルとの差を広げる絶好のチャンスでしたが、降格圏栃木を相手に勝点1を得るに止まった点を勝負弱さとして捉える見方も理解はできます。

一方で、出場選手、試合コンディション、試合内容を踏まえますと、勝てる可能性もありましたが、負ける可能性も十分にあったことが予見できた試合でした。勝点1の獲得、前回の対戦と合わせて、毎シーズン決して得意とは言えない栃木から年間で勝点4を獲得した点は一定の評価は出来ると筆者は考えています。

振り返ります。

1.試合結果&メンバー

降りしきる雨、見た目にも状態がよくないピッチ、そしてこの蒸し暑さ、栃木ホームの試合はいつも渋い条件、渋い試合内容になります。
先制点必須のゲームでしたが、その先制点を奪われた点は岡山のゲーム運びとして痛かったことは確かです。しかし、その直後に左サイドの有効な崩しからRSH(39)早川隼平の豪快な同点弾が生まれます。試合の流れを簡単に栃木に渡さない岡山の逞しさがみてとれました。
その後に関しては、双方何度か決定機を迎えますが、お互いに決め切れずドローに終わりました。岡山、栃木、現在の立場は異なりますが、共に勝点3を奪えるチャンスはあっただけに、まさに「痛み分け」となりました。
終盤、岡山CF(29)齋藤恵太が頭部の接触により負傷退場しましたが、本人のSNSによると大丈夫とのこと、現地組のサポーターさんから歩いていたとの情報もあり、大事に至らなかった点については一安心といえます。

J2第24節 栃木-岡山 メンバー

続きましてメンバーです。
岡山では前節をコンディション不良により欠場したCH(24)藤田息吹が復帰しました。その前節で前半途中で負傷退場したFW(99)ルカオはやはりメンバー外でした。ベンチにはいわきから移籍加入したばかりのMF(23)嵯峨理久が早速ベンチ入りしました。

栃木も岡山同様3-4-2-1、つまりこのゲーム(のスタート)はいわゆる「ミラーゲーム」になったのです。

こんな感じですね

細部では両WB(18)川名連介と(10)森俊貴の位置(左右)を入れ換えています。CHの一角では(22)青島太一が先発しました。LCH(15)奥田晃也とLST(19)大島康樹は度々ポジションを入れ替えていたと思います。小林伸二監督が就任してからはシステムも変わりましたし、起用選手にも変更が加えられました。岡山が対戦した開幕戦とは別のチームといっても過言ではなかったでしょう。

2.レビュー

J2第24節 栃木-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

厳しい気象コンディションの中で、お互いに前半からハードワークしていましたから、試合終盤はかなりオープンな展開になっていたと思います。アバウトな展開の中では栃木のボール運びの方が有利であり、岡山は前線のコマ不足から後半パワーを出せなくなり、勝ち越しの目はほぼ絶たれました。
この意味では岡山はまず負けなくて良かったといえます。

(1)ミラーゲームにズレをつくる栃木

このゲームにおける両チームの試合設計は大まかには大きく異なるものであったと思います。
それはミラーゲームに用意した仕組みで積極的にズレをつくろうとしていたのが栃木、自分たちの形で臨もうとしていたのが岡山であったといえます。

J2第24節 栃木-岡山 6分~

6分の栃木、自陣からのスローインの場面です。
RWB(10)森からのスローインをCF(32)宮崎鴻が競り勝ち、落としを(19)大島が右サイドへ大きく展開します。このボールを受けた(18)川名がドリブルで独走、最終的にフィニッシュに至ったのですが、スライドして(18)川名を見ていた岡山LWB(42)髙橋諒は、大外をオーバーラップしてきた栃木RCB(23)福島隼斗の双方を見なくてはならず、ボールの奪い所を設定できなかったという場面でした。

ボールサイドにしっかり寄せてくる岡山の特徴を逆手にとったシンプルながらもズレをつくり、フィニッシュに持ち込める有効な栃木の攻撃であったと思います。この試合の栃木は、まず(32)宮崎のポストプレーで優位に立ち、マイボールの持ち運びに後方の選手が関与することで、岡山との間にズレをつくるという基本設計がしっかりなされていたと思います。
岡山がこうした栃木の設計(特に攻撃)に苦戦した大きな要因のひとつには、その「うったて」であった(32)宮崎に終始空中戦で勝てなかったことがありました。

この場面には、栃木の共通の約束もみてとれました。
それは、味方がドリブルを開始したら、ポジションに関わらず近くを誰かが走るということです。こうした(おそらく)約束事の徹底がなされていたのが、栃木の先制点の場面でした。

岡山(39)早川のボールロストから、栃木CH(22)青島が一気に縦にドリブル、すぐにRST(42)南野拓海が側を走っています。
この場面岡山のダブルボランチ(7)竹内涼と(24)藤田(息)はズルズルと下がるばかりで、いずれかがもう少し高い位置で奪いにいけばと思われた方もいらしゃったかもしれませんが、結局この(42)南野が走ったことで岡山の守備陣と数的同数が生まれており、岡山の両ボランチは安易に突っ込むことが出来なかったのです。
しかし、岡山守備陣としては最終局面、自陣ボックス手前で奪い切る計算は出来ており、上手くドリブルのコース、シュートコースを絞れていたとは思いました。(42)南野のシュートも跳ね返しています。ただそのこぼれ球が運悪く(22)青島の目の前に落ちてきたということでしょう。

この直後に岡山(39)早川の強烈な同点ゴールが生まれ、すぐ試合を振り出しに戻せたのは、今の岡山の地力といえるのですが、2点目を獲りに行く勢いは終盤が近づくにつれ、栃木の方に増していったこともまた事実です。

象徴的であったのが、67分の(42)南野からDF(13)坂圭祐への交代でした。この(13)坂がRCBに入り、(23)福島がRWB、そして(18)川名がRSTとこの試合で岡山がその対応に手こずっていた(18)川名を前線に出してきたのです。そして前線に出た直後に(18)川名自らがシュート、その後交代出場の(13)坂もクロスを2本上げるなど、栃木の後方の選手が湧き出るように絡んでいく攻撃姿勢は、終始ミラーゲームにズレをつくり、一貫してマイボールを攻撃完結に繋げるねらいがあったと思います。

小林監督、やはりまだまだ衰えていないという強い印象が残りました。

(2)対照的な岡山のねらいを憶測する

対照的であったのが岡山です。試合中、何度か解説でも指摘されていましたが、(7)竹内が若干ポジションニングでズレをつくる以外は、左サイドLSB(43)鈴木喜丈の持ち出しを含んだ左サイドからの組み立ても、いつもどおりの岡山であったと思います。ズレをつくるというよりは、自分たちのスタイルを貫き、個で勝り、その積み重ねでボールを前線に運んでいくサッカーであったと思います。
比較的自分たちのサッカーを表現出来た仙台戦どおりのスタメンで臨んだことにより、ミラーゲームをそのまま受けることになりました。DF(5)柳育崇不在のラインナップでは、空中戦の強さに定評がある栃木(32)宮崎を抑えられなくなるのは必然であったと思います。それにしても、少々やらせ過ぎではありました。

木山監督は、最近の栃木の傾向から地上戦の想定もしており、栃木が以前のようにCFをターゲットに空中戦を挑んできたことの意外性を語っていましたが、それについては理由は非常に単純と筆者は考えており、栃木がCB(18)田上大地とCF(32)宮崎とのマッチアップに優位性を感じていたからであると思います。つまり、栃木は岡山の出方を見ながらサッカーをしているのです。

こうした論調で語り続けていると、相手のやり方をあまり考えていないように見える岡山のサッカーへの不満という話に集約されてしまいそうになるのですが、話はそんなに単純ではないとも思うのです。

岡山のコンセプトである「速い・巧い・強い」を表現した(39)早川の豪快な同点ゴールですが、注目していただきたいのはその起点が(18)田上からの正確なフィードであった点です。(32)宮崎との空中戦ではほぼ完敗といえた(18)田上でしたが、この場面ではその(32)宮崎の寄せをもろともせずに、左サイド奥の(42)髙橋へ正確なフィードを成功させています。まさに(18)田上の真骨頂のひとつといえます。
では、この試合で(18)田上ではなく、(5)柳育崇を先発させていた場合、(32)宮崎の高さはある程度抑えられていても、こうしたゴールが生まれていたかといえば、可能性は低かったといえます。

総合的にみて、岡山はミラーゲームという側面では苦労を強いられましたが、相手の対策を重視せずとも、自分たちのサッカーという点においては、それなりの表現は出来ていたといえるのです。

試合後の木山監督のコメントにあった「不思議なゲーム」というのも、おそらく自分たちのサッカーをやれていたという感覚から発せられたものと考えます。

前項で終盤の栃木の勢いに言及しましたが、一方で試合全体のゴール期待値をみた場合、岡山に勝ち越しゴールが生まれていた可能性は高かったといえます。これは、おそらくあとは決めるだけであった42分CF(19)岩渕弘人、62分LST(10)田中雄大の決定機が反映されているものといえます。こうしたチャンスを決め切ることにより、ゴール期待値との差分を少ないものへと変えていくことができれば、岡山の勝点積み上げペースが更に上昇することは間違いなく、おそらく木山監督のこれまでのコメントを踏まえましても、岡山がフォーカスしているのはこの「決め切る力」の強化にあるといえます。
裏を返せば、それまでのプロセスについてはそこまで問題視していないのかもしれません。

(3)そこで一美和成

という訳で、岡山が補強したのが(22)一美和成です。
ストライカーとして結果を残していたのが、随分以前になってしまいましたが、この間J1に挑戦したことで出番を失ったり、移籍が繰り返されたり、CF以外のポジションで使われたりと、本人としてもなかなか腰を落ち着けて、点取り屋として勝負できなかったという側面はあったのかもしれません。

(22)一美のプレーで筆者の印象に残っているのが、2019シーズンの最終節柏戦です。そうですプレーオフ進出に向けて勝負に出た京都が、大敗を喫した試合での京都唯一の得点、小屋松知哉のゴールに繋がったシュートです。

ボックス内での反応、シュートへの積極性、そしてシャドーとの関係性という点では岡山でのプレーにも期待を抱かせてくれます。

3.まとめ

簡単に栃木戦を振り返りましたが、今シーズンの岡山の傾向である「自分たちのサッカー」への頑固なまでのこだわりが強調された一戦であったと思います。
サッカーの戦法に関する考えは様々で、筆者個人としてはもう少し相手をみながらサッカーをしてほしいと思うことがある反面、今シーズンの岡山は「絶対的な強さ」を身につけようとしているように見えます。
そしてそうした強さを身につけないと、J1には上がれないという覚悟、更には自分たちにフォーカスを当てたマネジメントが選手たちから首脳陣に対しての求心力に繋がっているという側面もあるのかもしれません。
そうしたマネジメントは「速くて強くて少し巧い」という岡山のサッカーのブランディングとも関連していると、これはユースの戦いぶりを踏まえながら感じる点でもあります。
ならば、故障者も徐々に戦列に戻ってきた今、チームが極めるべきは、決め切る部分、ゴール期待値どおりのゴールを奪う点にあるのかもしれません。
高知キャンプが実り多きものになることを願っています。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

※敬称略

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)
地元のサッカー好き社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。

JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。
鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。





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