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【ファジサポ日誌】109.雨の中の光明~第15節 V・ファーレン長崎 vs ファジアーノ岡山 マッチレビュー~

週末の度に雨が降っているような気がします。
最近はチームに落ち始めた暗い影と合わさり、何となく憂鬱なファジサポライフが続いていました。

諫早のアウェイゲーム、トラスタでの岡山ラストゲームもあいにくの荒天でしたが、チームはよく戦ってくれたと思います。
ドローという結果により順位も後退(6位)しましたが、この先の戦いに向けて少々希望も見えた気がしました。

雨の中の光明、振り返ります。

1.試合結果&メンバー

午前中はJRも止まるのではないかと言われれていたこの悪天候の中で4,905人もの観衆が集まったことから、諫早市にあるスタジアムの立地を踏まえましても、改めて長崎のサッカー熱の高さが伝わってきました。
この高いポテンシャルを背景に抱えるV・ファーレン長崎にとって、秋の長崎スタジアムシティ開業はJ1復帰への大きな起爆剤になるのだろうと筆者は予想しています。
そんな半年後がみえるので、ファジアーノ岡山としては長崎との直接対決で勝点1を獲得できたことはそれなりに価値があったと考えます。更に今季27得点とその攻撃力を魅せつけている長崎に対して無失点で終えられた。
最近、失点が増え始めていた岡山にとって大きな収穫であったといえます。

続きましてメンバーです。

J2第15節 長崎-岡山 メンバー

長崎にはOFM(6)マテウス・ジェズスが戻ってきました。そして(8)増山朝陽がRSBに入る非常に攻撃的な布陣です。
長崎は前節大分戦でスコアレスドローに終わっており、布陣の変更からはより攻撃的に岡山ゴールに迫ろうとする意図がみえてきました。
一方で中盤の構成には変化があり、普段は(17)秋野央樹がワンアンカーを務めるところ、この試合では(24)山田陸とのダブルボランチを構成してきました。この変更にも岡山対策の要素がみてとれたと思いましたので、後ほどレビューで触れます。全体では4-2-1-3であったと思います。

岡山はクラブ配信の練習動画にその姿がなかったGK(49)スベンド・ブローダーセンが変わらずスタメンに入りました。一安心です。
CHには前節の(6)輪笠祐士に代わりキャプテン(7)竹内涼が今季2試合目の出場を果たします。1トップには(99)ルカオに代わって(29)齋藤恵太がスタメンに入りました。
彼の役割も試合前のポイントでした。筆者は(99)ルカオから変更したということで(29)齋藤に収め役としての期待があるのかなと感じていました。
そしてベンチには今週合流したばかり、期待の(39)早川隼平が控えます。

2.レビュー

J2第15節 長崎-岡山 時間帯別攻勢・守勢分布図

試合全体を通じて長崎がその攻撃力を如何なく発揮したといえます。この試合でのシュートは実に26本を数えました。しかし、岡山はボックス内への進入を許しても(49)ブローダーセンやCB(18)田上大地らを中心に長崎のシュート、クロスを粘り強く跳ね返し続けます。
特に「時間帯別攻勢・守勢分布図」内赤色の時間帯を凌いだ点は、驚異的な粘りであったといえます。
そして岡山にも攻勢の時間がありました。54分に(39)早川が投入されて以降、その(39)早川を中心に岡山も長崎ゴールへと迫ります。
岡山が攻勢に転ずることが出来た理由には、(39)早川投入の他に前半の劣勢を踏まえた選手交代があったと考えます。

(1)ハマった長崎の岡山対策

下平監督は戦前から岡山のプレスをいかに剥がすか策を練っていたようです。それが(24)山田と(17)秋野のダブルボランチ導入でした。

岡山のハイプレスはCFとST(セカンドトップ)の3枚で開始、これに対する長崎は4バックの布陣を敷いていますが、保持時(攻撃開始時)に両SBとも高い位置をとる傾向にありますので、2CBで対応しなくてはならない場面も出てきます。この時に(24)山田が最終ラインに下りて3対3の同数でビルドアップをスタートさせる動きを序盤ではみせていました。

長崎の両CBはビルドアップ時にタッチライン近く、非常にワイドにポジションをとる、また岡山と異なりオフェンスの選手がボランチ脇まで下りて受ける動きはほとんど見せなかったので、ビルドアップの出口はサイドに偏る傾向があったようにみえました。

長崎の各選手のパススピード、切り返しの速さは岡山のそれを上回っていましたので、このサイド攻撃も十分効果的でしたが、(24)山田起用の効果をより感じたのは中盤での受け手としての働きの方でした。

10分49秒からのシーンをみてみます。

J2第15節 長崎-岡山 10分~11分にかけてのシーン

岡山RWB(88)柳貴博がタッチライン際で不規則に流れそうになったボールをLST(19)岩渕弘人を目がけて蹴り出します。
(19)岩渕へは通らず、長崎RSB(8)増山がカットしますが、このこぼれ球が中央のスペースへ流れます。
この時にワンアンカーしかいないシステムですと、(17)秋野がマーカーの岡山RST(10)田中雄大を背負いながら、苦しい体勢でセカンドボールを受けることになります。岡山がボールを再奪取する可能性も高まります。

しかし、ダブルボランチにしたことで、この場面では(24)山田がボールを回収、岡山CH(24)藤田息吹や(17)秋野をマークしていた(10)田中を引きつけます。この間に(17)秋野はポジションを取り直し、(24)山田からLSB(23)米田隼也を経たマイボールを、再びフリーで前向きな状態で受け、鋭い縦パスを出したのでした。

下平監督は岡山のプレス回避の他にセカンドボールの回収もテーマに上げていたようでしたが、シンプルに前線にボールを送り込む岡山に対して、セカンドボールの回収に人を割くという策はシンプルに当たっていましたし、何と言ってもゲームメーカー(17)秋野に前向きにボールを持たすことが長崎にとって最大の効果であったと思います。

長崎の(17)秋野は昨シーズン限りで一度契約満了となっていましたが、カリーレ前監督の契約トラブルにより、下平体制に代わったことから再契約に至った経緯があります。元々柏レイソルの下部出身、下平監督にとっても必要不可欠な人材、現在の長崎のキーマンなのです。

その(17)秋野のスタッツを前節大分戦と比較してみました。
SPORTERIAさんのシステム配置では岡山戦がワンアンカーになっていますが、これは(24)山田とのダブルボランチと補正してみてください。

パス本数が大分戦と比べると15本増加、そして前方へのパスが増えていることも強調できると思います。長崎の攻撃はその迫力ある前線にどうしても目を奪われがちですが、この岡山戦の攻勢に関しては、攻撃の起点となる(17)秋野が前向きに良い状態でボールを持つことが出来たことにより、前方へ質の良いパスを出せたことが大きな要因となっています。

DAZN解説の前田さん、実況の佐藤さんが、特にこの前半(17)秋野の前向きな体勢に言及していましたが、まさにここまで述べてきたことを指していたかと思います。

(2)岡山の光明 その①

しかし、岡山は前節大分戦よりも効果的に見えた長崎の攻撃をゼロで抑えることが出来ました。この要因もシンプルで、ボックス内の最終局面を驚異的な粘りで跳ね返すことが出来たからだと思います。
元々今シーズンはシュートブロックなど、最終局面をやらさない守備に重点を置いていた岡山でしたが、前節徳島戦から中5日と試合間隔が約1週間に戻り、選手の心身が回復すれば、強力な長崎の攻撃をもってしても簡単にはゴールを割らせないという「守備の実力」を確認することが出来ました。
この点は非常に今後の戦いに向けて大きな光明になったと思います。

それでも少々クロスを上げさせ過ぎという面はあり、前半の劣勢を全面的に許容できるとまでは思わなかったのですが、それでも岡山の守備陣が諦めずに体を寄せ続けたことで、長崎のクロスの精度を狂わせた面はあったと思います。

守備のもう一つの懸案であったGKと最終ラインの間に落とされるボールへの対応については、明確に克服できたとまでは言えないものの、(49)ブローダーセンが積極的に前へ出るプレーを魅せることが出来た点はチームとしても大きな前進と感じました。

真相はわからないですし、わからなくてもいいのですが、(49)ブローダーセンと最終ラインの間に落とされるボールに対して、最近の岡山がなかなか修正できなかった理由のひとつに、この2022シーズン長崎-横浜FC戦での(49)ブローダーセンの脳震盪事故が影響しているのではないかと憶測していたのです。

つまり、事故の経験、恐怖やフラッシュバックにより前に出られなくなっていたのではないか、対戦クラブも言葉にはしないものの、その(49)ブローダーセンの状況を見抜いていたのではないかと。

全てが憶測なのですが、ミスにより失点した徳島戦後の今週の練習で一部別メニュー(リカバリーとの説もあり)であったことを踏まえると、過去に事故が起こったスタジアムで心機一転(49)ブローダーセンは自身を取り戻そうとしていたのではないかとも思うのでした。

(3)岡山の光明 その②

さて、それではこの試合から浮かび上がった岡山ディフェンス面の光明に続き、今度はオフェンス面の光明について述べてみたいと思います。

前半の岡山はCF(29)齋藤に対して、筆者が予想した収めさせるというよりは、長崎最終ラインの裏を狙う役割を担わせていたと思います。裏を取れればそれで良い訳ですし、長崎最終ラインを下げさせれば、その前方にスペースをつくれます。7分の(19)岩渕の決定機は、まさに(29)齋藤が長崎の最終ラインを下げさせたことによって出来たスペースを突いたものでした。

しかし、岡山として誤算であったのは、やはり(1)で述べました長崎のダブルボランチ導入であったと思います。おそらく(29)齋藤としては「ワンアンカー」の(17)秋野を背中で消すイメージは持っていたのかもしれませんが、ダブルボランチになったことで(17)秋野の立ち位置が想定と合わないといった面はあったのかもしれません。いわゆる背中で消すことが出来ず、長崎の前進を許す一因になっていました。

その前半を踏まえて、岡山は後半開始から(29)齋藤に代えてMF(27)木村太哉を投入します。今までの岡山には無いパターンの交代でした。

前線3枚の立ち位置は右から(27)木村、(19)岩渕、(10)田中の3枚に代わります。前半を踏まえての長崎対策という側面もありましたが、実際の後半のゲームを観ますと、前半よりもハイプレスを強化、後方の選手の連動性もより強化していたように見えました。
この点は前半と比較して長崎陣内に(24)藤田や(18)田上の姿をみられたことからも明らかでした。
長崎のダブルボランチに対しては、長崎の自陣保持時に浮き気味であった(24)山田に対して岡山CH(7)竹内が後方からチェックにいくよう修正されていました。

それにしても相手の良さを消すよりは、自分たちの良さ(コンセプト)をもっと出していくという木山監督らしい修正であったと思います。

山形戦でのFW(9)グレイソンの負傷を受けての筆者の投稿です。
「ゼロトップ」の可能性に言及しています。
徳島戦を挟んで、フォロワーさんとも「ゼロトップ」について少々やり取りもさせていただきましたが、まさにこの後半の形は筆者が個人的にイメージしていた形に近かったと思います。
(99)ルカオがポストプレータイプでない、(29)齋藤がフィットしない現状においては無理に(収め役としての)ワントップを置く必要はなく、3トップが中盤の組み立てに加わりながら、前線に飛び出していくスタイルです。

現状、このスタイルの方が、より「岡山らしさ」、速さと強さを求めながら相手コートで戦うサッカーを体現出来そうな気がするのです。

さて、岡山が自分たちの良さを取り戻し始めた時間帯である54分にいよいよMF(39)早川隼平が投入されます。
ファーストプレーが力強いシュートであったこと、わずか36分の出場で4本のシュートを放ったこと、プレースキックの精度が高かったこと、速くて正確なスルーパスを出したこと、守備のポジションが正確で強い対応が出来たことと、そのインパクトは語り切れないぐらい強烈でしたが、筆者には先ほどの「ゼロトップ」システムの実行においても欠かせない役割を担ってくれるという期待感が強く膨らみました。

J2第15節 長崎-岡山 56分のシーン

(39)早川が入ってまもない56分のシーンです。
前線中央に明確なターゲットがいない「ゼロトップ」を行うにあたって必須となるのがビルドアップによる前進です。
この場面は岡山が最後方からビルドアップを行いましたが、保持の時間を長めにとることに成功。最終的に(39)早川のフィニッシュに繋がりました。CH(7)竹内がボールの受け手になろうとしながら大分LWG(33)笠柳翼を引っ張り、(39)早川へのパスコースを空けているのです。
映像では完全に確認できないのですが、(39)早川は自分にパスが来ることを察知すると長崎(17)秋野を剥がすために動き直し、きっちりボランチ脇でボールを受け、前線の状況をみながらRCB(4)阿部海大に戻していました。
何気ないプレーですが、非常に質の高いポジション取り、受け、落としであったと思います。

今後、岡山のボール保持においても(39)早川は大きな力を発揮してくれるだろうと予感した瞬間でした。そのプレーの一つ一つに筆者もたちまちに魅了されたのですが、やはり目立っていたのは判断の速さであったと思います。これは現在の岡山アタッカー陣に最も欠けている資質であると筆者はみています。

事例で採り上げました56分のシーンはボールの受け方が更に良く、そして(19)岩渕、(27)木村の状況が良ければ裏に出せる可能性もあったと思います。今後、各選手との連携が深まれば更にこうした場面で決定的なパスも出せるようになるでしょう。チームとしてのチャンス増大にも期待が持てます。

(39)早川に関しては前述しましたようにシュートを4本放ちましたが、プレーを完結できる点でも岡山のチームスタイルとの相性の良さを感じました。

FootBALL LABさんから「アクチュアルプレーイングタイム」のランキングをみていきます。
「アクチュアルプレーイングタイム」とは、サッカーの試合内において実際にプレーされていた時間を表します。
よく言われていますのが、強度で勝負するチームスタイルの場合は、90分その強度を維持するのが難しくなるため、このアクチュアルプレーイングタイムを短くするよう時間稼ぎを行う必要性が出てくるという点です。
チームで言えば今の町田がこのスタイルに該当する筈です。

今シーズンのJ2では長崎が圧倒的にトップで1試合あたり56分24秒をマークしています(2位は熊本、54分04秒)。一方、岡山は48分20秒の15位。長崎に流れが途切れないまま気持ちよくプレーさせると、岡山としては不利になる訳です。そこで岡山としては、シュートを撃つ、ファールを受けるなどして、出来るだけセットプレーを獲得するなどの必要が出てくるのです。(そう考えると長崎は強度とスピードを維持したうえでアクチュアルプレーイングタイムが長い訳ですから凄いですね。)

この試合では「時間帯別攻勢・守勢分布図」でもわかりますように、(39)早川投入以降のセットプレーが増加しています。これもやはり(39)早川がシュートを撃ち切ってくれている効果もあったと考えられ、この点からも(39)早川と岡山の戦術的親和性は高いといえるのです。

3.まとめ

以上、大雨の長崎戦から岡山視点による岡山の光明について採り上げてみましたが、対戦相手の長崎と比べますと、個の強さ、スピード、技術は全体的に長崎の方が上ですし、ボール運びも洗練されていると感じました。
しかし、そんな強い長崎でありながらも印象以上に首位清水とは離されていて、かつ岡山とも勝点差は6に止まっています。印象ほどには差がついていないのです。
これは、やはり強度、スピード、保持を兼ね備えるサッカーを90分続けることの難しさを現わしていると考えます。
そうした現実をみた時に、岡山としてはこの試合から見えた光明から、試合の要所を押さえて勝利を目指す力が今後求められます。
やらさない守備を取り戻した、心強い「助っ人」がやってきた、後は決め切る力です。

今回もお読みいただき、ありがとうございました!

※敬称略

【自己紹介】雉球応援人(きじたまおうえんびと)

地元のサッカー好き社会保険労務士日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ。
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。
レビュアー3年目に突入。今年こそ歓喜の場を描きたい。

鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派。




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