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【ファジサポ日誌】78.トリカゴ~第40節 ファジアーノ岡山vs栃木SC~

今シーズンは全体的にモヤモヤした後味の悪いゲームが多いのですが、このリーグ戦最終盤において、またしてもモヤモヤが残る試合を目の当たりにすることになってしまいました。

ここから5連勝と意気込んだ群馬戦がドロー、まだ間に合う!ここから4連勝とホームジャックで臨んだ山口戦もラストプレーで追いつかれてドロー、それでも「岡アツ」オーラス勝負と10,034人の観衆を集めたこの栃木戦も試合内容にモヤモヤが残るドロー。

この日、プレーオフ争いのライバルたちが勝ち切ったことで、ファジアーノ岡山の逆転プレーオフ進出の可能性は0%ではないものの、限りなく厳しいものになりました。
残念ながら、今シーズンのJ1昇格の夢は潰えたと述べてよいと思います。

この試合で非常に残念でしたのが、上の順位のチームを追いかける立場でありながら、サッカーの内容が追いかけるエネルギーを感じさせないものであったことです。

なぜそうなってしまったのかを紐解くのが今回のレビューのテーマになります。

なお、筆者が座っているバックスタンドでは子どもたち(大人もですが…)のガッカリする声も聴こえてきました。
今シーズンの残り2戦、チームはこうしたサポーターの失望に対して、躍動感のあるサッカーで信頼を回復する必要があります。
この栃木戦をしっかり分析し糧にしてもらいたいものです。

1.試合結果

J2第40節 岡山vs栃木 時間帯別攻勢・守勢分布図(筆者の見解)

3連勝がマストの岡山にとって、勝利の可能性を高めるためにも先制点が必要でした。しかし、一度はゴールネットを揺らすシーンがあったものの(オフサイド判定)、「攻勢・守勢分布図」からもわかるように、前半から攻撃全体が停滞します。

この状況を打開するために、岡山は後半開始の選手交代によって攻勢に出ましたが、小休止したタイミングで栃木に与えたセットプレーを決められ、ビハインドの苦しい展開に陥ります。

70分過ぎから栃木はリードを守ろうと引き気味に。
岡山はこの栃木の「トリカゴ」に効果的に侵入することが出来ず、時間は経過していきますが、80分LWBに移った(17)末吉塁のドリブル突破からPKを獲得、これを途中出場のCB(23)ヨルディ・バイスが決め、その後も栃木ボックスに迫りますが、なかなかフィニッシュには持っていけず、タイムアップとなりました。

岡山としては前半の時間の使い方が非常にもったいなかったと思いました。その原因のひとつに両チームのスタメン構成があったと考えます。そこで、今回はこの後のレビュー本体でスタメンについて触れたいと思います。

24分CKから柳が当て、チアゴが流し込んだように見えたが、
オフサイド判定でノーゴール

2.レビュー

(1)後手を踏んだスタメン

J2第40節 岡山vs栃木 スタートメンバー

栃木の戦法はロングボールを前線に送り、相手最終ラインを低い位置に押し込み、その最終ラインに前線3枚がプレス、相手最終ラインからサイドに展開されたところをWBが前向きに奪うというものです。

この栃木の戦法に対抗する前提で岡山のスタメンをみた時に、MF(8)ステファン・ムークやMF(44)仙波大志がベンチスタートとなった点に注目しました。
そしてLWBには群馬戦、山口戦に引き続き(2)高木友也を起用。MF(42)高橋諒はベンチ外となりました。

一方、栃木もLDHに183cmの(8)高萩洋次郎を起用。これまでボランチに入っていた165cmの(7)西谷優希を一列前のRSHで起用してきたのです。
またRCBにフィードに定評がある(40)高嶋修也も起用してきました。

栃木の選手起用から見えるねらいは非常に明確で、栃木最終ラインから精度の高いロングボールを前線に送り込む、岡山最終ラインに対してボランチとしてのボール奪取力が備わっている(7)西谷を中心にプレスさせる、プレスを受けた岡山最終ラインのクリアボールを中盤で高萩が高さを活かして回収するという画が浮かんできます。
つまり空中戦を挑んできた訳です。

J2第40節 岡山vs栃木 栃木のねらいのモデル
赤破線がサイドへの誘導、黄破線がクリアボールの回収

前半、サイドでのWBの1対1という点では岡山の(17)末吉、(2)高木の個の能力が勝っていたと思うのですが、やはり自陣でクリア後のセカンドボールを回収できないシーンが数多く見られました。
これは岡山の中盤が高さで分が悪かったという点もありますし、栃木の出足の鋭さと「接近戦」での強さにしてやられていたという点も大きかったです。

この傾向は前半終了後のスタッツにも大きく現れていて、栃木の平均ボール奪取位置39.9mに対して、岡山は28.8mに止まりました。100回のボール奪取回数の内、DT(ディフェンシブサード)での奪取回数がなんと76回を超え、AT(アタッキングサード)でのボール奪取回数は0という驚きの数字になったのでした。

スタッツだけを見ると、岡山は前半自陣の「トリカゴに押し込まれた雉」になっていたという訳です。

先に点を獲らなくてはならないのに、ゴールから遠い所でサッカーをしていたということになります。
特に30分以降の約10分間は10月初戦、あの千葉戦の再現をみていたような感覚に陥りました。

それでも岡山が無失点で乗り切り、それなりにチャンスがあったのはやはりWBの頑張り、LCB(43)鈴木喜丈の勇気ある持ち出し、そして栃木の精度不足やファールの多さに助けられたといった要素もあったと思います。

栃木に押し込まれるも要所は厳しく守れていた前半

では岡山はどのように振る舞うべきであったか?
まずは栃木のロングボールの出所を押さえるべきでした。
(48)坂本一彩も積極的には(40)高嶋など栃木最終ラインにプレッシャーはかけていましたが、栃木の前線と比べると「接近戦」に持ち込めない点に若干の弱さを感じました。結果的に良質のロングボールを栃木に供給されていたと思います。

完全な結果論なのですが(8)ムークを先発に起用すべきであったと思います。

この点は木山監督の(48)坂本に対する期待もあったかと思いますが、(48)坂本に求められていた役割のひとつはおそらく「下りて受ける」ことです。
実際、この前半は(48)坂本が下りてくるシーンもあったのですが、それにしても最終ラインとは少々距離があったように感じました。
(48)坂本を擁護するなら、彼には前プレの役割もあったので、さすがに最終ライン近くまで貰いに下りることは出来なかったのだと思います。

そうなれば、最終ラインと(48)坂本を繋ぐリンク役が必要なのですが、この役目をCH(6)輪笠祐士が十分に果たせなかった。この点も痛かったと思います。
39分、岡山最終ラインがボールを持った際に木山監督が「間で受けろ!」と檄を飛ばしているシーンがあったのですが、これはおそらく(6)輪笠に対してです。
この前半、栃木の(99)イスマイラは上手く背中で(6)輪笠へのパスコースを消していました。これに対して、栃木前線の間に移動するといった(6)輪笠の動きの工夫が乏しかったように見えました。

被カウンター時の対応といった守備面、時折見せる前線へのキラーパスと(6)輪笠のプレーぶりは確実に成長しているのですが、この1年で浮かび上がった明確な課題として、ボールを受ける動きの不足が挙げられると思います。
プレーをみる限り、受けた後の展開に若干自信が無いのかなとも見受けられます。
岡山最終ラインとしては、中盤に十分に差し込めないので、低い位置からの(7)チアゴの裏一辺倒を狙う単調な攻撃になってしまっていたのです。
質が悪いのは、この(7)チアゴを栃木がファールで止めるので岡山にそれなりにチャンスが生まれてしまっていた点です。岡山としてはこの悪癖を止めるきっかけを失っていた前半といえます。

この点についても先ほどの(48)坂本の話と同様で、完全な結果論なのですが、(44)仙波をスタメン起用した方が良かったのかなと思うのです。
山口戦は低い位置から上手く自身で持ち運びチャンスをつくっていました。
後半からはアンカーのポジションに移りましたが、一時逆転の流れをつくった一人でもありました。
コンディションの問題もあるので、一概には言えないのですが、山口戦と同じスタメンで臨むべきであったのかなと思います。

コンディション以外の理由で(44)仙波を控えに回した理由があるとするなら、プレースキッカーとして(41)田部井涼をピッチに置いておきたかったという理由以外には無いような気がします。
シーズンの振り返りは後日別に行おうと思うのですが、キッカー(16)河野諒祐の不振、故障離脱は今シーズンのチームに大きな影響を与えてしまったのだなと思います。

栃木と比べますと、完全に後手を回ったスタメンでした。

ことごとく岡山ボールを回収していた高萩
前線でなかなか収められない
坂本は苦戦
高木はサイドだけではなく、中にも進出
違いを作ろうとする意思を感じた

(2)崩しきれない栃木の「トリカゴ」

前半が栃木に押し込まれた「トリカゴの雉」であったなら、後半は栃木の「トリカゴ」のカギを探し続けていたと表現できるのかもしれません。

後半開始当初でのメンバー交代は大いに有り得ると思いました。
しかし、ここで(23)バイスを入れてくるというのは予想外でした。
しかし、これまで(23)バイスがベンチ入りを続けてきた理由には、木山監督の中でこうした起用法が頭にあったからだと思います。
試合後のインタビューでも木山監督が述べていましたが、まずは栃木の圧力を跳ね返す意図があったのかと思います。

しかし、前半で見えた最終ラインを上げられないという課題に対しては決して有効であったとは思えませんでした。
(23)バイスをセンターに置くことで、(5)柳育崇がRCBに回ったのですが、これはシーズン序盤戦で上手くいってなかった組み合わせです。(5)柳自身も久々のポジションでしたし、迫力ある攻め上がりは見せていましたが、やはり最終ライン自体が重たくなってしまいました。

筆者は山口戦同様に(44)仙波をアンカーに入れて最終ラインと前線のリンクマンにさせるのかなと予想していましたが、アンカーにRCB(15)本山遥を移してきたのも予想外でした。前線に(8)ムークを入れましたから、ここまで代えてしまうと3枚代えにはなってしまいます。

同点PKや直後の煽りをみても、気持ちの部分での火力を起こす効果はあったと思うのですが、(23)バイス投入は順番としては後でも良かったのかなと筆者は思います。

バイス投入でスタジアムは盛り上がったが、
果たして策としては適切であったか
83分PKを決めるバイス
得意なコースへ自信を持って決めた

それでも(8)ムークの投入により、相手陣内での圧を高めた岡山は主導権を握ることに成功するのですが、このタイミングでセットプレーで獲られたのは痛恨でした。栃木の(40)高嶋の折り返しを称えるべきかとは思いますが、(99)イスマイラは(41)田部井を思い切りプッシングしてますね。岡山の同点PKはその(40)高嶋にとっては厳しい判定であったので、相殺のような格好にはなりましたが、少々モヤモヤしますね。

ついに均衡を破る栃木
柳はニア狙いによく反応したが、
折り返しが見事であった

結局、前半から火力を上げられなかった岡山にツケが回ってきたということだと思います。

その後、岡山は切り札(99)ルカオも投入しますが、自陣低い位置から長い距離を持ち運ばなくてはならないという構図を解消出来ず、更には栃木が70分過ぎから選手交代も含めて守備を堅めてきたことから、岡山は前半の「トリカゴからの脱出」から今度は「トリカゴの鍵を開ける」という真逆の作業に着手することになったのです。

チアゴも田中も低い位置からの持ち上がりが目立つ

ここでようやく投入されたのが(44)仙波でした。

この投稿に筆者の述べたいことが凝縮されているのですが、PKを獲って同点に追いつけたのは、相手が密集する狭いところを通そうとする、突破しようとする(44)仙波や(17)末吉、(41)田部井にもその意欲があったと思いますが、「地上戦」で勝負する覚悟なのだと筆者は思いました。

同点後も栃木の「トリカゴ」に迫りながらも、勝ち越せなかったのは「トリカゴ」の周りでずっとボールを回していたからです。誰かが責任を持って中へ侵入する、シュートを撃つ、全く無い訳ではありませんが、もっとその意欲を高めていかないとなかなか勝つのは難しいのかなと思います。

後半開始から仙波でも良かったと思ったが、
結果論かもしれない
チアゴの決定機は藤田の真正面へ
ルカオの強さをもってしても複数でマークされると厳しい
いわゆる接近戦で分が悪かったのも苦戦の原因
勝ち越しゴールが近いようで遠かった

3.まとめ

2年間木山監督のサッカーを観てきましたので、おそらくこの栃木戦のスタメンや選手交代にもしっかりした意図はあったと思います。
そこは理解出来るのですが、結果的に悪手になってしまったのではないか?というのが率直な感想です。
しかし、特に前半の火力不足は采配によるものだけではなく、今の選手たちのひ弱さも物語っていたと思います。

先月のジュビロ磐田戦を終え、筆者は「岡山スタイル」に一応の完成をみたと書きました。今もその考えに変わりはありません。チームの今後目指していく道は十分示されていると思います。
しかし、その道を進むには「勇気」や「連携」、レベルアップももっと必要なのでしょう。そんなことを感じたこの栃木戦でした。

しかし、これを全て来シーズンへの課題にするには残り2戦がもったいないです。この栃木とも少々異なりますが、今週末の秋田も似たようなサッカーをしてきます。チームのパフォーマンスから一定の回答をみたいと願ってやみません。

今回もお読みいただき、ありがとうございました。

※敬称略

秋田戦は笑顔で選手を迎えたい

【自己紹介】
麓一茂(ふもとかずしげ)
地元のサッカー好き零細社会保険労務士
日常に追われる日々を送っている。
JFL時代2008シーズンからのファジアーノ岡山サポ
得点で喜び、失点で悲しむ、単純明快なサポーターであったが、
ある日「ボランチが落ちてくる」の意味が分からなかったことをきっかけに
戦術に興味を持ちだす。
2018シーズン後半戦の得点力不足は自身にとっても「修行」であったが、この頃の観戦経験が現在のサッカー観に繋がっている。

アウトプットの場が欲しくなり、サッカー経験者でもないのに昨シーズンから無謀にもレビューに挑戦。
持論を述べる以上、自信があること以外は述べたくないとの考えから本名でレビューする。
レビューやTwitterを始めてから、岡山サポには優秀なレビュアー、戦術家が多いことに今さらながら気づきおののくも、選手だけではなく、サポーターへの戦術浸透度はひょっとしたら日本屈指ではないかと妙な自信が芽生える。

岡山出身ではないので、岡山との繋がりをファジアーノ岡山という「装置」を媒介して求めているフシがある。

一方で鉄道旅(独り乗り鉄)をこよなく愛する叙情派でもある。




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