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わかおの日記番外編3

大学の友だちと旅行をする計画がずうっと先延ばしになっていたのだが、春休みも終わろうとしている4月になってようやくその計画が実行に移された。

和歌山に行こうとか、いやさすがに遠すぎるから熱海に行こうとか、2転3転したのちに、ぼくらは静岡県にあるサウナの聖地、「サウナしきじ」を目指して旅立つことになった。サウナを愛する者であれば1回は名前を聞いたことがあるだろう聖地だ。天然水の水風呂が至高だという。なんと「サウナしきじ」は、2300円で宿泊できるのである。これは学生には非常にやさしい。

さらに駿河湾での釣りもぼくにとっては魅力的だった。これを言ってしまうとおしまいだが、結局釣れそうな場所に行くことが釣りのコツである。その点でいえば、駿河湾は申し分のない釣り場だ。

東急大井町線の尾山台駅で、友人たちが借りてくれたレンタカーを待った。待つ間に朝食を済まそうと思い、松屋に入った。朝から牛丼なんか食うもんじゃなかった。そのせいで、しつこいほどの満腹にその日の昼すぎまで居座られた。

サウナしきじに行くことと釣りをすること以外は全くのノープランであったため、なにか策を考えなくてはいけなかった。特に、免許を持たないぼくはここで何かしら貢献しておかないと本当に申し訳ない感じがしたので、かなり頭をひねって考えた。

すると、「静岡」という単語が脳を刺激し、ほぼ反射的に「さわやか」という形容動詞を導き出した。

この文脈での「さわやか」は、決して「シーブリーズ」とか「竹内涼真」とかではなく、「静岡県を中心に展開するハンバーグが有名なファミリーレストラン」である。

「さわやか」でハンバーグを食べるという完璧な旅の目的を考えついたぼくは、即座に友人に提案した。もちろん提案は二つ返事で受け入れられ、とりあえずぼくの首の皮が1枚つながった感じがした。

そこからおしゃべりしたりしなかったりしながら結構な時間車に揺られて、「さわやか」が出店している静岡の商業施設に着いた。

平日の昼過ぎということもあってか、「さわやか」には割とすんなり入れた。

ところでぼくは、ハンバーグというものを、幼いころから下に見ているきらいがあった。所詮ステーキの代用品。豚肉をこねくりまわしただけのものが、分厚い牛肉を焼いたものに勝てるわけがないだろうと思っていた。いやいやハンバーグってさあ(笑)子どもじゃないんだから(笑)早く赤身のステーキのおいしさが分かるようになるといいですね(笑)

すいませんでした。とてもおいしかったです。あとこのボリュームで、ジュースも頼んで1400円くらいだったので本当にすごいと思います。

しきじに行くまでに時間があったので、駿府城を見に行った。まあ普通の城だった。「徳川家康が植えたミカンの木」なるものがあり、一応見に行ったがとくに盛り上がらなかった。

さらに時間が余ったので、登呂遺跡にも寄った。日本史選択だったぼくにとっては懐かしい響きのする場所である。公園全体が田んぼのようになっていて、その一角にかの有名な竪穴住居などの弥生みあふれる建築物がならんでいた。

こういうふざけた写真を撮った。

満を持して、「サウナしきじ」へと足をふみいれた。会計を済ますとロッカーキーを与えられ、暖簾の先の男性専用エリアに通される。下の階は脱衣場と浴場になっていて、上の階は休憩室だった。

さっそく一糸まとわぬ姿になり、浴場へ突入した。まず体を洗うわけだが、体を洗うスペースに大量の使い捨て歯ブラシと歯磨き粉が備え付けられていた。都内ではまずない光景なので新鮮だった。

サウナに入る前に、通常の浴槽に入ってみた。湯に入るときの水の抵抗が心なしか弱く、するんと入るような感じがした。これが‘’天然水’’の実力っ……という気持ちになった。

サウナは、普通のサウナと薬草サウナの2種類あった。こういうときはだいたい薬草サウナのほうが弱いと相場が決まっているので、お手並み拝見のつもりで薬草サウナのほうに入った。

いやいやいや、熱いじゃないっスかセンパイ。マジ勘弁してくださいよ。

熱すぎて思わず後輩の喋り方になってしまった。薬草の香りのする蒸気が、刺すような熱さで顔面に襲いかかってくる。サウナマットに保護されていない足裏が悲鳴を上げている。話が違う。野球中継も全く頭に入らず、五分くらいで部屋から出た。

急いで体を流し、水風呂に入った。水風呂はそれほどキンキンというわけではなく、ちょうどいいくらいだった。しかし他の水風呂に比べて、明らかに肌触りが違う。なんだかなめらかだ。ずーっと入っていられる。蛇口から新鮮な水が出ていて、天然水が飲めるようになっていた。試しに飲んでみたが、まあ普通にうまかった。サウナから出た後に飲む水なんかうまいに決まっているからこれにはさほど感動しなかった。

そのあと普通のサウナ(これは本当に普通のサウナだった)に入り、やっぱりあの高火力が恋しくなってまた薬草のサウナに入った。サウナと水風呂を三往復し終えたころには、もう幸せになっていた。

休憩室にはリクライニングチェアがたくさん並んでいて、漫画の品ぞろえも豊富だった。普段漫画をケチって買わないので、こういう時に大量に読むことにしている。今回は「ストッパー毒島」という漫画を読破した。「毒島」と書いて「ぶすじま」と読むらしい。かなり好きなタイプの野球漫画だった。高校野球ものとか、野球漫画の皮を被った恋愛漫画などには心がしめつけられてしまうので……

夜は、休憩所内の食事処で唐揚げ定食を食べた。鶏肉に下味がしっかりついていておいしかった。

リクライニングチェアを倒して寝ようとしたが、倒し方がわからなかった。友人にでも聞けばよかったのだが、もうカンペキに寝る姿勢を整えていたのでなんだか申し訳なくてずっと一人で試行錯誤して結局倒し方がわからず、微妙に不快な角度のまま寝た。ぼくの人生にはこういうことが多すぎる。

リクライニングチェアのせいで眠れないということはなく、翌朝すこし早くに目を覚ました。朝風呂ならぬ朝サウナをすべく浴場に赴いたものの、昨日のクソ熱い薬草サウナに朝から入るのはなんだかとても寿命を縮める行為のような気がして結局普通のサウナに一回だけ入った。日和ってしまった。

この日は釣りをすると決めていたのだが、もう昼前だったので腹ごしらえから済ますことにした。沼津港で海鮮丼を食べようという話になった。どこの店も大して値段は変わらず、美味しい店の見分けかたがぼくたちにはさっぱり分からなかったので、とりあえず、すごく呼び込みをしていたおばちゃんの店に入った。2000円くらいの海鮮丼を食べた。普通においしかったが、そこまで新鮮な感じもせず、米の量が少なかったので少し騙された気分になった。友人たちはおいしそうにしていたので、黙っておいた。

空気が読めるようになってきた。

昨日とは打って変わって快晴だったので、移動中富士山がよく見えた。

でかかった。

よく釣れるという堤防で釣りをした。


確かによく釣れた。確かによく釣れたが、よく釣れたのは、釣り人たちの間ではフグなどと並んで雑魚扱いされているネンブツダイだった。しかし雑魚と言えど釣れたら嬉しいもので、結局リリースせず持ち帰った。

帰りに海老名SAに寄った。SA内の成城石井に、「黒トリュフポテトチップス」なるものが高値で売っていて、かなり迷った末に買って食べたが、そもそもトリュフの匂いがあまり好きではなかったので、あまりおいしいと思えずに深く後悔した。ぼくのせいでレンタカーのなかがうっすらとトリュフの匂いになった。

無事東京に帰還し、釣った魚の処遇について話し合った結果、そこらへんの公園で素揚げして食べようということになった。

夜の公園で、スマートフォンのライトを頼りに魚をさばいた。時折通行人に怪訝な目で見られたが、かまわずさばいた。その時思いだしたが、その公園は野球部のときに練習試合をしに行った公園だった。その試合は珍しく勝利したので覚えていた。数年前はいちおう高校球児として訪れた場所に、今は釣ったしょぼい魚を食べに来ている……こういうことをすぐ考えるから幸せになれないんだと思う。

ガスコンロを用意していた友人が、油を注ぐための鍋を忘れて、危うく素揚げ計画は頓挫しかけたが、友人がたぐいまれなる責任感を発揮し、レンタサイクルまで借りてファミマに赴きお母さん食堂の鍋焼きうどんを入手、そのアルミ皿を代用することでなんとか素揚げができた。

慎重に揚げすぎたせいでもはや身はホロホロを通り過ぎてぐじゅぐじゅになっていたが、釣った魚なのでどうしたって美味かった。

なんとか終電に滑り込み、風呂にも入らず寝た。


















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