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【読書ノート】 70 『サイコロジカル・ファーストエイド: ジョンズホプキンス・ガイド』ジョージ・S・エヴァリー (著), ジェフリー・M・ラティング (著)

著者のジョージ・S・エヴァリー博士は心理的応急処置(Psychological First Aid : PFA)、心理的トラウマ、災害メンタルヘルスの分野においてアメリカで著名な人物。ジョンズ・ホプキンス大学ブルームバーグ公衆衛生大学院やジョンズ・ホプキンス大学医学部で教えている。本書は日本語で読める貴重な PFAの解説書で、メンタルヘルスケアを包括的に学べる書でもある。ジョージ・S・エヴァリー博士によるCourseraの「Psychological First Aid」 の講座は非常に有名で、実は私もそれでこの本のことを知った次第。この講座の中で使用されているPFA の具体例を解説する小ドラマ(エヴァリー博士主演)がネット上にあったので参考になる(英語)。

<目次>
序文――私たちはどのようにして今に到ったか?
第Ⅰ部 心理的応急処置(PFA)――科学
第1章 心理的応急処置(PFA)――定義と歴史
第2章 外傷体験がもたらす心理的反応――現場で遭遇するもの
第3章 災害のあと――PFAが求められる大規模な背景
第Ⅱ部 PFA――技術の実践
第4章 R ラポールの確立と聞き返し
第5章 A アセスメント――ストーリーに耳を傾ける
第6章 P 心理的トリアージ――優先順位付け
第7章 I 状態を安定させ,急性の苦痛を軽減するための介入戦術
第8章 D 締めくくり――継続的ケアを受けやすくする
第9章 セルフケア――他者のケアは自らのケアに始まり,自らのケアに終わる
補足資料:呼吸法


以下、気になった個所を抜粋

 既存のサービス提供のモデルでは、精神衛生上の問題が急増すると、通常はその対応能力を超えてしまうことが分かっています。心的外傷をストレス症への介入までの時間が長くなれば長くなるほど、症状の緩和や治療が難しくなることも知られています。したがって、介入のための資源と時間は貴重なのです。これは、PFAの大前提であり、効果的なアセスメントと取り味を重視する大前提でもあります。レイカインの指摘によれば、時間の需要は、以下のA、B、Cの3カテゴリーに分類することができます。

A=重要で緊急性の高いもの
B=緊急ではないが重要なもの、または緊急だが重要ではないもの
C=重要でも緊急でもないもの

 レイカインは私たちの生活においてはAの項目にだけ取り組むことを提案しています。ほとんどの人がする間違いは、Bの項目に取り組んでしまうことです。レイカインによるとBは移行段階にあり、ほとんどのBはCになります。BはAになった時に注目すればよいのです。すべてのBに取り組むことは、自分自身を大事にするのに 必要な時間と資源を無駄にすることになります。p117

 災害や逆境で生じる精神的な側面の行動的な側面は、これらの3項目に該当しています。 現場で出会うのは、以下のようなニーズを持つ人々です。

A―――高度に障害があり、機能不全状態で、心理的や身体的に苦しんでい 
    る人々。その多くはPFAもしくは他のサポートが必要である。
B――― 逆境からのレジレースがある人々。苦痛の増大を経験し、急性の機 
    能不全状態に至る可能性もあるが、その状態は一時的な休息や形式
    ばらない簡単な支援で解決する。ほとんどの生存者はこのカテゴリ
    ーに入る。
C―――逆境に強い人々。 勇敢とはいかないまでも、機能は果たせている。

 PFAの観点からは、Aには直ちに対応し、Bは様子を見て、Cはそのままにしておくべきです。深刻な生命の危機に接してない状況であれば、通常は時間の経過とともに、不安定な状況は徐々に緩和され、苦痛に伴う症状は消失していきます。このことは、危機介入者や治療専門家、公衆衛生プランナーが習う学ぶべき重要な教訓です。p117-118

(2024年6月7日)


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