見出し画像

【読書ノート】29「超限戦 21世紀の「新しい戦争」」 喬良・王湘穂

本書は現役中国人民解放軍空軍大佐である喬良と王湘穂の共著で、1999年に中国で出版されベストセラーになり、その後9.11テロが起きて注目を浴びて、2001年には日本語にも翻訳されたものを、2020年に新書で復刊したもの。
 
超限戦とは簡単に言えば「戦争と非戦争」「軍事と非軍事」の境界線を取り払い、言わば何でも活用して総力で戦う概念で、第一次世界大戦がそれ以前の戦争と異なった「総力戦」(軍事力だけの戦争でなく、国家全体の人員、物質、イデオロギーを用いて行う戦争)になったことを彷彿とするもの。
 
本書を読んで真っ先に感じたのはロシアの「ハイブリッド戦争」であるが、本書の説明によると、この本が出版された遥に後の2014年にロシアの新軍事ドクトリンにこの概念が現れて、それが「ハイブリッド戦」と呼ばれるようになったとのこと。つまりロシアが活用する「ハイブリッド戦争」の大本は「超限戦」であると言える。
 
本書では未来の戦争では、今までのルールに縛られない方法で非軍事的、超軍事的手段である貿易戦、金融戦、新テロ戦、生態戦、密輸戦、メディア戦、麻薬戦、ハッカー戦、技術戦、資源戦、経済援助戦、文化戦など、国家に多大な損失を与えることが出来るあらゆる方法の戦いが繰り広げられると述べている。
 
著者によると「軍事」と「超軍事」と「非軍事」のカテゴリーはそれぞれ以下のようになり、これを組み合わせて使用することで相乗効果をもたらすという。

「 同様の要因は戦争手段の運用にも影響している。戦争において軍事行動を当然の如く 主要手段とし、他のすべての手段を補助手段と見なす観念が現在、時代遅れになりつつある。」No.3097-3098

「戦争の空間がすでに陸、海、空、宇宙、電子から社会の政治、経済、外交、文化ないし心理などの諸領域に広がっている今日では、各種要因が交差して相互作用しているため、軍事領域だけが当然のように戦争の主導 的 領域 に なる こと は 難しく なっ ている。戦争は非戦争の領域で展開されるだろ う という 観点 は、 一見 奇妙で、人々にとっては受け入れがたいが、これこそが( 時代 の) 趨勢 で あることを、ますます多くの兆候が示している。」No.3112-3116

「未来の戦争で勝利をしっかりと手中に収めたいならば、われわれはそのために十分な思想的準備をしておかなければならない。すなわち、恐らく軍事行動を主導としないような領域 において、当事国のすべての領域に波及する可能性のある戦争を行うことである。このような戦争がいったいどのような 兵器、どのような手段、どのような要員を用いて、どのような方向、どのような領域で行われるかについては、目下のところ依然として未知数である。」No.3125-3127

「今日または明日の戦争に勝ち、勝利を手にしたいならば、把握しているすべての戦争資源、すなわち戦争を行う手段を組み合わせなければならない。これだけでは 足りず、さらに「勝利の法則」の要求に基づいて組み合わせなければならない。これでもやはり足りない。なぜなら、勝利の法則は、勝利の熟したウリがひとりでに籠の中に落ちることなど必ずしも 保証できず、やはりウリをもぎ取る要領を得た手を必要としているからだ。」
No.3350-3354

「すなわち、国と国との戦争によって勝負を決める時代は終わりつつあり、超国家的手段を用いて、国家よりもっと大きな舞台で問題を解決し目標を実現する時代が、静かに幕を開けようとしている。」No.3386-3388

「まさにこの原因によって、現代国家が直面する脅威は、一つ二つの具体的な国家からくるのではなく、多くの場合、超国家の力からくるのである。このような脅威に対処するためには、超国家的組み合わせの手段を用いる以外、よりよい他の方法は存在しない。」No.3414-3416

「だが今日に至るまで、大多数の戦争に従事する人たちの間では、すべての非軍事領域が戦争において軍事上の必要に服従する付属品と見なされてきた。」No.3492-3494

「戦争は血まみれの殺戮の世界から抜け出し、少ない死傷者、ひいては死傷者ゼロでありながら熾烈度がかえって高いという趨勢を示しつつある。これは情報戦、金融戦、 貿易戦などなど全く新しい戦争様式が、戦争の領域で新たに切り開いた空間である。この意味では、もう戦争に利用されない領域などなく、戦争の攻撃的な形態を備えない領域もほとんどなくなっている。」No.3505-3507

「経済封鎖がイラクにもたらした大きな非軍事的損壊は別として、バトラーが率いる国連兵器査察特別委員会が、数年の間に大規模殺傷兵器の査察や廃棄を通して、イラクの軍事上の潜在力形成に与えた打撃だけでも、湾岸戦争における空爆戦果の合計をはるかに超えている。」No.3522-3525

「一方、経済援助、貿易制裁、外交斡旋、文化の浸透、メディアによる宣伝、国際ルールの制定と利用、国連決議の利用などといった手段は、それぞれ政治、経済、外交など異なる領域に属すると同時に、政治家たちによって、準軍事手段としてますます運用されている。」No.3556-3558

「国家と超国家を主体とする戦争と非軍事戦争の間には、超えることのできない領域など何もないし、相互に組み合わせることのできない領域や手段も存在しない。グローバル化時代に対する戦争行動の対応は、「超」というただ一つの文字に表現される。この「超」という字は一をもって十分、万の変化に対応できる。われわれが言う「すべてはただ一つに帰する」とは、まさしくこの「超」という文字に帰結することなのである。」No.3680-3683

「超限戦にとって、戦場と非戦場の区別は存在しない。陸、海、空、宇宙などの自然空間も戦場であるし、軍事、政治、経済、文化、心理などの社会的空間も戦場である。こうした二大空間をつなぐ技術の空間は、なおさら敵対する双方が激しく奪い合う戦場である。」No.3821-3823

「目標を確立するときは、大いに手柄を立てたい心理を抑えて、意識的に有限の目標を追求し、たとえそれが正しくとも、力の及ばない目標を排除することだ。なぜなら、実現できる目標はいずれも有限なものだからである。どんな原因であれ、目標が手段の許す範囲を超えれば、災難な結果をもたらすだけである。」No.3862-3864

「その作戦方向の多くは、相手が全く予測できない領域と戦線を選び、打撃の重心はいつも相手に大きな心理的動揺をもたらす部位を選ぶことにある。このように非均衡手段を利用して、自分の勢いを助長し、事態を自分の願望通りに発展させていくやり方は、往々にして効果が非常に大きい。」No.3914-3916

「非軍事、非戦争の要素を間接的にではなく、直接的に戦争の領域に導入したことである。言い換えれば、いかなる領域も戦場になりうるし、いかなる力も戦争に使われる可能性がある状況の下で、それは一つの具体的な目標をめぐって、軍事的な次元とその他の次元間の協力と理解すべきであって、全ての戦争が軍事行動をもとしなければならないことではない。戦争の前では、各次元はすべて平等であり、このことは未来戦争の課題を理解する上での一つの公式となろう。 」p3947

「この他、動員できる力、特に非軍事力についての認識において、我々は視野を広げる必要がある。 通常の、 物質的な力に対し今まで通りの注目を払う他、無形の戦略資源------例えば、地縁的要素、歴史的地位、文化的伝統、民族的アイデンティティ、および国際組織の影響力の支配や利用など---------の運用に特に注目を払うべきである。
しかしこれだけではまだ足りない。我々はこの原則の運用においても超限行動を取り、多次元協力を平面の作業に変えてしまうような平凡なやり方を避けて、戦策から戦術までの各レベルの段階まで立体交差式に組み合わせる方向へ、 持っていく必要がある。」p3961

本文より引用

(2022年8月6日)




この記事が参加している募集

読書感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?