見出し画像

【読書ノート】38「タラント」角田光代

著名な途上国支援のNGOが推奨していたので読んでみた。角田光代の小説は初めて読んだ。

内容は既婚の中年女性が主人公で、現在・10年前・20年前の三期のタイムスパン+祖父の過去で物語が交互に進行する形式。割と分量のある長い話で、主に  (1)開発途上国の支援、途上国の子供たちの苦境などの話  (2) 戦争で足を失った祖父と彼と交流のある若い障害者のアスリートの話
により構成されている。

しかし、この2つの話にほとんど接点はなく(主人公の関わった難民の子供の1人が片足であることくらい)、並行して話が進んでいるので、それぞれ独立した物語にした方がわかりやすく面白かった感じがした。(例えば同じ主人公の2部作など。)

どちらの話も有意義で大切な内容であるので(貧しい途上国の不条理、チャレンジすることの大切さや戦争の愚かさ)、長い1つの小説にするよりも2つ独立した話であっても問題がないような気がする。筆者ほどの筆力のある方であれば、可能ではないだろうか。(例えばルース・オゼキの「あるときの物語」(2013) は戦時中の祖父の過去の話を入れ子にして物語が展開する。)

ここで思い出したのが以前読んだ黒木亮の「エネルギー」(2008)という経済小説で、長い物語の中で3つの話が平行して進んで行くが、予想に反して最後までこの3つの話が交わらなかった。3つの話はどれもそれぞれ面白かったので少し不思議な感じがした。

また、題名の「タラント」も聖書のエピソードから取ったものだが、やはりとってつけたような感が否めない。(登場人物にクリスチャンがいない。)
しかしながら、話の内容そのものはとても面白く有意義なので一読の価値はある。このような開発途上国に関わる若者の姿を描いた小説が増えることを望む。

※ 作者の角田氏は貧困や途上国の女性の問題などに関心があるようで、途上国支援を行うNGOを通じて様々な活動を行っているそうです。途上国支援に興味がある方はこの小説はとても参考になると思います。




この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?