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seayuriko short story

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日常で出逢った子たちから派生したショートストーリー集です
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がそ(3)

がそ(3)

葉の絵を描いた



「葉の実態そのものの境界を正確に沿うと不自然に見えるので、もっと自然に見える境界線を描いてください」

とのことだったので、
葉の”自然な”ラインの境界線を描くことに。

果たして葉や花のありのままの形を無視し、
滑らか過ぎる曲線/直線の境界線を描くことは
自然だと言えるのだろうか

いやこれはもちろん“絵として”の自然さ
を必要とされているのであり、
ホンモノを追

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がそ

がそ

がそ
と書くと、なんだか悪役(頭も悪い)のような感じがするけど
最近私はこいつと幾分か仲良くなった

毎日”がそ”をみつめていると
全ては原子であること、
そして色の集まりであることを実感する
ちいさな ちいさな色が
ぴったりと集まって
私になったり バナナになったりする

私の仕事は言わば
何かと何かの境界線を描く、境界線引師

だけど、私とバナナはある部分では同じであると言え

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素晴らしい恋?

素晴らしい恋?

君の画面の汚れかそれとも星か

どんなに素晴らしいものも
状況によっては取るに足らないものになる

息をのむ絶景も
美しく聡明な彼女も

稚拙なパイプを通って届いたそれは

デフォルトのデスクトップ画像や
昨今の写真加工技術が産んだ架空の人物になり得る

日々誰もが莫大な量の情報に触れる事ができ
正否に関わらず
得たい情報だけを吸いとり
アウトプットする
その中で価値を忘れられ

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剥き出しの宝石

剥き出しの宝石

剥き出しの宝石は幹にもある

台風の名前が140しかないように
僕らの世界は巡りめぐる
君と会えた雪も
次はもう他の誰かの為にある

人が決めたことも
原種である偶然も
また巡る

悲しみはとっくに過ぎて
またいずれ顔を出すけれど
それはあの雪の悲しみとはまた違った装いで
僕を脅かしてくる

剥き出しの宝石はどこにでもある

だから僕は何度でも解放される

想われ税

想われ税

ものすごく迷惑な話だけど
恋が終わる直前、
“こんなに好きなのに◯◯”
という
怒りや悲しみが爆発する瞬間ってあると思う

なので“こんなに好かれた”人は
想われ税なるものを国に納めるとして。
そして
“こんなに好きになってしまった”人は
片想い手当てが貰えることにして。

世にも奇妙な物語で、
美人税って話、あったなあ
あれと同じだけど

想われ税を凄く払わなきゃいけない人は
ヘタに想わ

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言葉よりも早いコミュニケーションツールがあっても

言葉よりも早いコミュニケーションツールがあっても

もしも振動が伝わるのなら
どこへいても振動であなたを愛せたのなら
骨に響いて
どこまでも響かせるなら

もしも言葉よりも早く考えや思いを伝えられるツールがあるのなら
それを使って僕は
君が結婚してしまう前にメッセージを送るかもしれない。
君の子供はこの世界を見ることさえもできずに
だけど僕はその信号を送ってしまうだろう
卑怯にも送って

それでいて
また僕らはうまくいかないだろう

もっと早く君を

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努力=?

努力=?

昨夜、ザ・シークレットという、いわゆる“引き寄せの法則”を提唱している映像をYouTubeで見ていたら(これがなんとも面白い。某日本のバラエティにそっくり)

“草も努力などせず、らくらくと伸びる”

と言っているのを聞いた。

植物は努力して今の形になっている
種を残せるように、
陽を受けられるように、風に乗るために
環境や性質を踏まえて色や形を変えていく
(大体、動物より先に生まれたのに散々な

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物に命をみるのなら

物に命をみるのなら

男性 女性 中性 食性
言葉に性を持たせる
それは魅力的なメッセージを言葉に乗せる事となる
恋人がスパイだった、とかね

何かを信じ生きた大昔の隣人は
無機物にも生命を見た

幼い頃は、物を落とすと
“ごめんなさい”と言っていた

親や持ち主ではなく
物そのものに謝るのだ
それも心から

これがアニミズムというものなのかは
分からないが
定規や鉛筆に
命を見ていたのだ

あの頃の私のように
この麦

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僕らは代わり映えのしない生き物

僕らは代わり映えのしない生き物

世の中には
なんと不思議な色形をした生き物がいることだろう

母はよく、
“人間にも、感情で動く耳や尻尾があればいいのに”
とか、
“運動会は人間だけじゃなくってさ、チーターやカエルやタコも一緒にやる、いろーんな生き物が出る大運動会があったら楽しいと思わない?”
と、申しておられる

人は”代わり映え”しなくて、つまらないらしい
目は2つだし、足も2つ。
からだはふわふわしていないし
誰も水の中で

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履き違えの世界(5)

履き違えの世界(5)

まえのおはなし

この世界に来て、僕が決定的に履き違えていることが
二つほどわかった(この世界からするとそれも履き違えているのだろうね)
一つは、君はここに居ないということ
もう一つは、君をすきにならないという方法はなかったということ

君は確かにいま目の前にいるのだけれど、
実は君も他の世界の住人で
風が吹けばこの世界から出ていってしまう、
ということに気がついたのは
ブラウスからのぞく その

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履き違えの世界(4)

履き違えの世界(4)

まえのおはなし

そのあやとりのような遊びは
元の世界にもありそうな遊びだったが
僕はそれを思い出すことはできなかった

君はいつも人伝てに僕に話しかけるような感じで
隣でひょいと座っている腕の細い君を
なんとなくも知ることはできないのだった

それなのに君は”ほんとうのようなこと”を
当たり前のように僕に話すもんだから
僕はうっかりこの世界に慣れてしまって
身体の水玉も とうに見失っていた

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履き違えの世界(3)

履き違えの世界(3)

まえのおはなし

君は僕を見てもなにも言わなかった
正確にいうと すこしも動いてないらしかった

だから僕は 、まさか君が
僕をこの世界に連れてきた人物だとは
これっぽっちも思わなくて
すれ違う人の群れの中に 君を見たことを
特別な事だと思わなかった

その樹海の生き物を思わせる目に再び出会ったのは
そう先の話ではなかった

君は僕を訪ねて
なんでか あやとりのような遊びを
ふたりきりで するこ

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履き違えの世界(2)

履き違えの世界(2)

まえのおはなし

履き違えの世界に住む魚は 香ばしい
彼らは僕に話しかける

「その様子じゃあ 最近きたんだろう
からだがまだ馴染んでないね」

僕はこの世界での生き方が
まだうまくはなれなくて
肌が水玉模様になるのだった

君に初めて会ったのは
ここへきて1日もたたないころだった
僕をここへ連れてきた張本人だったが、
つまらない所に居るような雰囲気で
無表情だった

しかし君の

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履き違えの世界(1)

履き違えの世界(1)

靴は対だ
みぎあし ひだりあし
ふたりでひとつ

だけど片方だけ道端に転がって居ても
わたしたちはそれを”靴”と呼ぶ
く だとか つ ではない

不完全なその靴は
誰かの履き違えで生まれた

わたしは靴を履き違えてはいないだろうか
M1400は答える
「今日はちゃんと黒と黒ですよ」

間違いに気付くスピードは
秒速 2cm ミュートで近づく

ふわりと包まれた頃には
僕はもう履き違えの世界の住人だ

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