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短編小説

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#親子

【短編小説】食卓

【短編小説】食卓

 ゆっくりと左足を上げる。軸になる右足は、投げる方向につま先が直角になるよう踏み込んでいる。後ろに引いた右手の肘は、これも直角に曲げ、肩より下げない。投げる方向にグラブをはめた左手がまっすぐに伸びている。小指は上を向き、掌は外に向いている。胸を張り、腰を切り、肘からしなるように投げる。右手は、時計の2時の高さから7時の低さに振られていく。同時に左手は体に引きつけ、投げ終わった後、肘が三角に体の後に

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【短編小説】電話

【短編小説】電話

この作品は、拙作「サンドイッチとウィンナー」で、小説内小説として使ったものです。元々は、一つの短編として書いたものなので、それとはラストが違っています。作者としては思い入れがある作品なので、元の形で公開したいと思います。お読みになる方は、そういう事情ですので、ご寛容くださいませ。     
          潮田クロ

 学帽を被った兄はずっと外ばかり見ていた。小学校三年生だった僕は、あの学帽を

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【短編小説】八百青

【短編小説】八百青

 八百青の源さんは今年五十になる。母が言うのだから間違いない。母は子供の頃、八百青によく使いにやらされて、二つ上の源さんに会うのが嫌だったそうだ。
 三年前、商店街の近くに大型スーパーができて、まず魚屋が店を閉めた。次には肉屋が。そして酒屋。花屋。最後に洋服屋。あっ、靴屋も。
 実際言って八百青は、真っ先に潰れてもおかしくなかった。なのに、まだ続いている。それは源さんのお母さんのハルさんのお陰だと

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【短編小説】沙也加

【短編小説】沙也加

 日曜日はよく晴れたが、さほど気温は上がらなかった。私は空色のセーターを着ていくことに決めた。
 喫茶店は空いていた。私ほどの年齢のものは誰もいない。入って沙也加が見渡せば、なんなく私がわかると思った。それでも目につきやすいように、入り口から近い席を選んだ。コーヒーを注文して、沙也加を待つ。11時までには、まだ15分あった。私は何度も冷水を口に運んだ。
「あの、失礼ですが香山さんでしょうか」
 言

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