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“ノイズ”にならない広告とは。“シグナル”を送るためにすべきこと。〜店舗の広告活用(後編)〜

前回に引き続き、店舗のメディア活用/広告活用について、近年の動向や考慮すべきポイントを深掘りすべく、小売業DXの有識者である郡司昇氏に話をお聞きしました。

テクノロジー活用の前に、カテゴリーマスタの整理が必要

――前回、お客さんにアプリを使ってもらうためには、パーソナライズの設計をよく考えるべきだというお話がありました。他に気を付けるべきポイントはありますか?

郡司氏:はい。パーソナライズもそうですし、お客さんが望む商品であったり、お客さんに新しい商品との出会いを提供するような、価値のあるタイアップを実現するためのメーカーとの交渉も大切です。そこが抜けてしまうと、単純に在庫が余っている商品が大量にクーポンに並んでしまい、生活者にとって魅力的でないサービスになってしまいます。

――昨今はコンビニ各社のクーポンサービスも充実していますが、何か共通する傾向はありますか?

郡司氏:大きく二つの方向性があると思います。一つは自分たちが売りたい商品をクーポンで販促してLTVを高めようとするケース。例えばPB商品ですね。これはパーソナライズされていて、そのシリーズの中でまだ買ったことがない商品や、以前購入したけど最近買っていない商品がクーポンに出てくることがあります。

もう一つは、単純に新商品キャンペーンのパターンです。コンビニの棚に置ける商品数は大体3,000SKUと言われていて、約10,000SKUの中から各店舗がセレクトして発注しています。新商品はまず棚に置いてもらわないと勝負にならないので、メーカーがクーポンを出して3,000SKUの中に選んでもらうんですね。

新商品が出たからといって必ずしも売れる商品ばかりではないですから、簡単に扱うことはありませんが、例えば150円のペットボトル飲料の新商品を40円引きで買えるクーポンを出すと、お客さんは買ってくれます。しかもコンビニのオーナーにとっては、150円の売上が入るので置いてみようかなとなるわけです。結局、棚に並べてもらって一度試してもらわないと売れるのか売れないのかも分からないので、このように認知を取りに行く目的でのクーポン発行は効果的だと思います。

――なるほど。一方、ドラッグストアは店舗のアプリをダウンロードして利用するよりもLINEを活用したクーポンサービスが多い印象です。リーズナブルであるとか手間なく効率的に運用できるなど、何か理由があるのでしょうか?

郡司氏:そうですね、ドラッグストアは10年近く前からLINEを積極的に使っていると思います。確か10年ほど前の経済専門誌が発表したLINE活用企業トップ5の1位がマツモトキヨシ、3位がスギ薬局でしたから。

運用費は自社アプリのほうが安いと思います、配信する会員が多くなれば特にそうです。ただLINEは友だちになってもらうハードルが低いので、効率的にクーポンを拡散できるというメリットがあります。LINEのクーポンって、3通ぐらいまとめて届くことがありませんか?あれは、1通目と3通目がメーカーの広告で、2通目が5%引きのクーポンだったりするんです。つまり、メーカーの広告費でL I N E の配信費用をカバーして、同時に自社の5%引きクーポンを提供するということをずっとやっているんですね。

――例えばパーソナライズ機能を活用して新しいOMO戦略を展開するのは難しいのでしょうか?

郡司氏:データ分析がしっかりとできればWalmartのようなパーソナライズ戦略は可能だと思います。パーソナライズが効きやすいかどうかは業態にもよります。スーパーは大体の人にとって家族の夕飯の買い物をする場所と決まっているのでパーソナライズが難しいのですが、ドラッグストアは日用品や食品、化粧品、ビタミン剤など利用用途が人によって異なるので、パーソナライズとの相性も良いです。ドラッグストアでいつもペットフードを買っている人にはペット関連商品の新しい商品をお知らせしてあげて、ペットを飼っていない人にはその情報は送らない。ノイズは送らずにシグナルだけ送るという販促方法がドラッグストアやホームセンターには本来向いているはずなんです。

ちなみにWalmartはスーパーセンターなので、ありとあらゆるカテゴリーがあるのでパーソナライズに向いているんですね。釣り具なども置いているので、例えば釣りをやる人にだけ釣り具の紹介をすることもできますよね。

要するに、100個クーポンがあるからといって、それを全部表示させるのではなく、その中からユーザーごとに合いそうなものを10個程度に絞り込んで表示させることが重要なんです。

――そうすると、データをアナライズする技術やテクノロジーがもう少しうまく使えると良さそうですね。

郡司氏:カテゴリーマスタがきちんと作れていれば、自動化はそこまで難しいことではないのですが、仕入れの都合でマスタが作られてしまっていることもあって、その結果、社内のカテゴリーマスタとネット通販でお客様に提供しているカテゴリーマスタが違うといったケースがあります。

例えば、A社の製薬会社は健康食品や日用品も作っているけど、医薬品を扱っているので医薬品のカテゴリー、とか、B社は〇〇カテゴリーの商品を作っているけど、食品メーカーなので食品カテゴリー扱い、という昔からのルールがあったりするんです。

――そこをOMO戦略のために変えることは難しいのでしょうか?

郡司氏:お客さん向けのカテゴリーマスタを作れば大丈夫だと思います。
とはいえ、カテゴリーをどう分けるか?という悩みどころは出てくるんですよね。その場合、少し手間はかかるのですが、カテゴリーをABテストしてみるなど、色々試せると本当は良いと思います。そうすることでペットに興味がある人かどうか、米食なのかパン食なのかは購入履歴から分かるので、その人だけにペットカテゴリーの情報を送ること自体は、マスターさえきちんと整理できれば難しくないと思うんです。卵製品を避けている人であれば、例えば「卵不使用」というタグを用意しておくとか、最初にアンケートでアレルギーの有無を答えてもらって、卵と答えた人には卵を使用している商品は紹介しないとか。マスターを整理せずにAIを入れたら解決するかというと、そんなことはないですよね。

――ただテクノロジーを入れれば解決するという話ではない、ということですね。

郡司氏:人力でも手間をかければできることじゃないですか。実際、店舗で接客している人も、卵を使用していない商品かどうかパッケージを見て調べたり、メーカーに電話して聞いてみたりしているわけですよね。それをマスターでちゃんと整理してあげれば自動化することができるということです。誰が接客しても同じ対応ができるし、接客しなくてもお客さんが自分で調べられるし、そういった商品をカゴに入れたら、他の商品を勧めてあげることもできます。そのような顧客体験のシナリオをしっかりと作ってから初めて、マーケティングオートメーションやAI活用の話になるんだと思います。

――まずはお客さんに提供するサービスをしっかりと設計した上で、テクノロジーを活用することが重要なんですね。本日もありがとうございました。

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【プロフィール】
郡司 昇(ぐんじ のぼる)
店舗のICT活用研究所 代表

ドラッグストア大手ココカラファインでEC事業会社社長として事業黒字化の後、全社マーケティング戦略を策定。マーケティングとECの責任者兼任。現職は小売業のデジタルトランスフォーメーションにおける小売業、ベンダー、顧客の三方良しを支援するコンサルタント。新著に『小売業の本質: 小売業5.0


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