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つんの小説

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ぼちぼち書いてます。中編・長編を書きたい。
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#短編小説

それは妖(あやかし)本の虫のおんな。

 彼から聞いた話から想像する限り、彼女は前髪を長くたくわえて下ろしていて髪は鬱陶しい長さ、目は切れ長で陰気な雰囲気で足を引きずって歩いているイメージだった。実際、彼女に会った印象は濃い顔に眼力の鋭い丸い目が付いていて頬っぺたが丸く、キリッとした口元でカッコよくスタスタと早足で歩く女だった。前髪は左右に分けていたので丸いおでこがツヤっと光りを放っていた。しかし彼女が口を開いた途端、イメージは一転する

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女が母になるとき

 女は好きな男に従順だった。言われるがまま男根を口淫し精液を飲み干す。恍惚とした表情を浮かべ、男に気持ち悪いと殴られる。それでもヘラヘラ笑っていた。こんな男でも好きだったのだ。とにかくその男の家に入り浸り不埒な日常を送っていた女。気づけば男の子どもを妊娠していた。
 堕ろせという男、泣きじゃくって産みたいという女。女はこの男の元を離れひとりでこの小さな命を育てる決心がついた。夜逃げみたいにして男か

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蛙化現象のお姫さま

 「え?支払いがPayPayだったから蛙化したの?嘘でしょ?だってあんた颯太先輩のこと半年くらい好きだったじゃん。まじか。」友達のマミコは呆れるくらい惚れっぽく飽きやすい。女友達の間でも評判の分かれる部分だった。「だってさ、好きな人にはカードでってスマートにお会計して欲しいじゃん!PayPay⭐︎って鳴るの余りにもカッコ悪い。なんか一気に冷めちゃった。好きだったけどさ。」

 マミコは色素の薄い茶

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情事迷い妻。

 「だから、君の愛情にはありがとうという気持ちはある。僕はもう君のことを性的には見れないし、そういう行為もできない。でも愛してる。恋人から、家族になったんだ。君が家のことをやってくれるから、働くことができる。君のお陰で幸せなんだ。どうかこれ以上俺に求めないでくれ。」そう、秀夫から告げられた麻美子はクラクラする頭を押さえながら自室に戻り、声を殺して泣いた。麻美子はまだ秀夫のことが男として好きだったか

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恋と愛と三角形と

 「大学生で付き合う人なんかみんなヤリモクやろ。気持ち悪い。」啓太は冷めた目でそう言う。「いやわかんないよ。純愛をちゃんと育んでるカップルもいるかもしれないでしょ。」みなみが口を尖らせてそう言う。夢みがちなみなみとリアリストな啓太、「咲はどう思うの?」みなみに聞かれ、困ってしまう。私はお付き合いをしたことがない。

 「私は男性と付き合ったことがないから分からないけど、高校生カップルに比べてヤリモ

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砂時計で時を刻んで

 バイトが終わって帰り道とぼとぼ歩いて家に着いた。ただいまーと言いながら、ドアを開ける。母親が険しい顔で待っていて、こう言い放った。「アンタ昨日混血の色男と街歩いとったやろ?隆(たかし)くんはどうしたん?あんな睦まじく話しとって、あれは浮気やろ。」全く身に覚えのなかったわたしは急いで弁解する。「あのね、高木さんはバイト先の社員さんなの!うちとは何の色恋の関係もない。お母さんなんなの、最近。ずっとそ

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安楽死救済制度でも救われない。

 20XX年、逼迫した介護による問題で知的障害や精神疾患を抱える者、後期高齢者の安楽死救済制度が法律にて確立された。杏奈は重い、生活に支障をきたすレベルの精神疾患を患っているので、この安楽死制度を受ける側となる。2週間、湖の近くのコテージで余生を過ごしたあと薬物投与で安楽死を図る。ずっと幻覚や幻聴に苦しんでいた杏奈はやっと解放されるんだという思いと、死への恐怖が拭えなかった。幻覚や幻聴って当事者は

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小夜のこと

 「身体が弱かった小夜を優先して美優にはいっぱい我慢させちゃったね。ごめんね。」そう眉毛を下げて謝るお母さんに「大丈夫だよ。私ちっちゃい頃結構楽しかったんだよ?お母さんのお手伝いしてたからさ料理と家事上手くなったし!」そう気にしてないことを伝える。笑顔が戻った母に安心する。
 小夜は白血病だった。小さい身体で何度も辛い治療に耐えていて偉かった。幸い今は健康で元気だ。小夜とはよく恋バナをする。小夜は

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月明かり、盗人現る。

 月か明るすぎる夜、その少年は神のお賽銭をくすねた。今日食べるご飯にも困ってたからだ。草鞋などもなく裸足の足は傷だらけで、顔は土で汚れていた。近所の田圃を少し手伝い、なんとか食べ物を貰っていたが、弟や妹のご飯がない。まだ働けない小さな彼らを食わすためにはお賽銭をくすねるしか無かった。
 その少年は神のお賽銭をくすねた。今日食べるご飯にも困ってたからだ。草鞋などもなく裸足の足は傷だらけで、顔は土で汚

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傷心小旅行

 旅の途中列車の中だった。ガタゴトとイーゼルの汽車が走る音がする。窓から陽の光が差す。眩しいが、同時に気持ちが良い。窓からは汽車の煙も同時に見える。夏代子は恋人と2日前に別れ弾丸で旅に出ていた。有名な温泉地で元恋人と行こうねと言っていた場所、文庫本を読みながらコーヒーを飲んでいる。思えばいつも彼は携帯を触っていて、あれは浮気相手に連絡をしていたのだろう。私には仕事の連絡と言っていたがそれは嘘だ。

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蛍 |蛍を掴んで瓶に入れて、そのまろやかな光をただぼーっと見つめていた。その蛍が急に変身するのである。それは蛍だったのかわたしもよく分からない。光る小人だったのか?わからない。確かに羽根があって、それは虫のものだったような…奇怪だ。

横顔のこと

横顔のこと

 死んだ人の曲ばかりだねってカーナビからかかる音楽を聴いて君は笑うの。だって生きてる人の音楽よりも距離が離れていて、その距離感が心地いいんだもの。運転中のわたしは口を尖らせてそんなことを言う。いつもわたしを揶揄う。そして困ったわたしをみてしてやったり、にこにこな顔になる君、出会ってから君のそんな振る舞いに目が離せないでいるわたしはずっと君のことひとり好きなんだろうな。無邪気な君が憎らしい。早くわた

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丘の上で

丘の上で

むせ返るようなクチナシの匂いが辺りを漂っていた。海岸の近くの坂の上の洋館にその人は住んでいた。ギターを弾き、小鳥のように歌う人だった。桜がちらちらと舞うある日、彼女は涙を流していた。好きな人に想いを伝えたと言う。残念ながら想いは届かなかったようだ。泣いてる彼女は美しかった。

クチナシの咲く頃には彼女の涙も乾いていた。僕らは浜辺で楽器のをセッションをした。彼女はギターを弾いていた。僕はオカリナを吹

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小枝散りゆく、つゆ知らず

小枝散りゆく、つゆ知らず

既視感。
 昔、私はこの近くに住んでいたことがあった気がする。なんとなく河の感じや道に見覚えがある。朧げなのは10年も前の記憶だからで、小学校に上がる前だった。まだ母と暮らしていたときだ。
 この街は交通量の多い、広い大通りよりもうんと幅の広い運河が流れている。河は黒々としていてうねるように流れている。少し潮のニオイが混ざった運河特有の匂いがする。このニオイを嗅ぐのが日常になって暫く経つ。ここでは

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