傷心小旅行

 旅の途中列車の中だった。ガタゴトとイーゼルの汽車が走る音がする。窓から陽の光が差す。眩しいが、同時に気持ちが良い。窓からは汽車の煙も同時に見える。夏代子は恋人と2日前に別れ弾丸で旅に出ていた。有名な温泉地で元恋人と行こうねと言っていた場所、文庫本を読みながらコーヒーを飲んでいる。思えばいつも彼は携帯を触っていて、あれは浮気相手に連絡をしていたのだろう。私には仕事の連絡と言っていたがそれは嘘だ。
 クリスマスの日、サプライズで彼の家に遊びにいくと、浮気相手とセックス中の彼がそこにいた。私は動揺したのち迷わず彼を平手打ちし、別れを告げた。来年になったら結婚をする約束もしていた。最悪な展開だった。その日は焼酎を酒屋で買ってグビグビ飲んで親友に愚痴をこぼした。
 またここから相手を見つけて交際をするのが面倒だった。来年30になるから、今の相手と結婚して子どもを産みたかったのだと泣いた。親友はうまい具合に慰めてくれて,気分転換に旅行を勧めてくれた。私は結婚資金にと貯金していたボーナスで結構いい宿を取って1人満喫することを決めた。
 別に1人でも楽しいはずなのに涙が出てきた。こんなはずじゃなかった。幸せになりたいだけなのに……涙をポロポロと溢しているとかっこいい好青年に「どうかされましたか。」と話しかけられた。事情を説明すると優しい表情で「僕も恋人と別れたばかりなのです。僕ら運命かもしれないですね。」
 そう微笑んだ。目が合った瞬間ドキッとした。私多分この人のこと好きになれる。彼とは日中行動を共にすることにした。不思議と話が合い、テンションも落ち着いていて相性がいいらしかった。連絡先を交換して彼とは別れた。思わぬ出会いに嬉々として親友に報告すると、向こうもノリノリでいいじゃんと言った。旅行のあとも食事をする予定だ。旅行を終えたら婚活を本格的にしようと思っていたので手間が省けた。今夜はお酒が美味しい。ワインをグラスでゆっくり飲み干して私は眠った。

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