砂時計で時を刻んで

 バイトが終わって帰り道とぼとぼ歩いて家に着いた。ただいまーと言いながら、ドアを開ける。母親が険しい顔で待っていて、こう言い放った。「アンタ昨日混血の色男と街歩いとったやろ?隆(たかし)くんはどうしたん?あんな睦まじく話しとって、あれは浮気やろ。」全く身に覚えのなかったわたしは急いで弁解する。「あのね、高木さんはバイト先の社員さんなの!うちとは何の色恋の関係もない。お母さんなんなの、最近。ずっとその調子やけん、気が滅入る。」少し機嫌を直した母は「そうなら良かったわ。アンタ婚約中やねんから軽率な行動は控え~。」そう言い残し去っていった。大きなため息をつく。確かに高木さんには口説かれたけどキッパリ断ったのだ。わたしは隆を愛しているから。太陽みたいに明るい性格に何度も救われてきた。茶色い髪をドライヤーで乾かしながら、日に焼けた肌に白い歯がきらきらと光る隆の笑顔を思い出す。中高6年間、サッカーをやっていたから、今でも真っ黒なのだ。6年間文化系で吹奏楽部のわたしとは正反対だ。肌もまっしろだしね。彼を思い出して多幸感に溢れながら、わたしは眠った。

 土曜の朝、目が覚めて起き上がったわたしは朝食を取った。パンをトーストしてミルクと一緒に口に放り込んだ。洗濯物を干したり食器を洗ったりしたのち暇だったので、隆に電話をかけた。コールが3回鳴ったあと隆が電話に出た。珍しく声に元気がなかったので「たかし、元気ないじゃん。なんかあった?」と聞いてみた。たかしは答える。「あのさ、瑞希には本当に申し訳ないんだけど、愛子に俺が孕ませた赤ちゃんが出来た。」…….「え……???どういうこと?」聞いた瞬間心臓がドキドキ煩く鳴る音がした。生唾をごくんと飲み込み、わたしは長い間、沈黙した。

 愛子とは私たちの高校の同級生で私たちが婚約していることも知ってたはずだった。愛子はのっぺりした顔の胸が大きいだけのつまらない女だった。沈黙の後早口で隆が説明的に話す。「久々に街で会って飲むことになってさ、2人とも久しぶりのお酒だったからペース配分間違えて、ベロベロに酔ってホテルで休憩したんだ。愛子が服を脱ぎ始めて誘惑?してきてヤってしまった。本当にごめんなさい。」「最低。あり得ないよ。私、口説かれてもちゃんと断ってるのに。じゃあこの婚約は解消しようか。今までありがとうね。楽しかった。」一方的に言い渡し、電話を切った。電話越しに待ってという声がしたが、知らんぷりをした。あんな奴、もう知らない。でも隆とは数えきれない良い想い出があったのだ。今は思い出すのも苦しいが.........私は早速高木さんに電話を掛けた。そして破局したことを母にも報告した。母は意外にも淡白な反応だった。「次はいい人と出会えるといいね。アンタならきっと出会えるよ。」

 高木くんとは遊びの恋をしよう。私が初めて付き合った人。将来添い遂げる準備をしていた人。もう知らないんだ。マッチングアプリに登録した。毎日遊び呆ける予定だ。高木さんからは真剣なお付き合いを望まれた。ちぇっつまんないの。将来のこととか考えず刹那的な恋がしたいよ。そのあと人伝にたかしが私と別れたことを後悔しているとか聞いたけど、私はもうどうでも良かった。楽しい性生活を謳歌していたからだ。高木さんには遊びたいから遊ばせて欲しいと了承を得て、3ヶ月の間遊びまくった。楽しい。3ヶ月後挙式がある。今度こそ一生を誓ってウェディングドレスを着て誓いのキスをする。幸せになるんだ。

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