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ショートショート 帰巣本能
仕事の帰り道、タバコを口にくわえ火をつける。煙を肺いっぱいに吸い込み、ふぅーと吐き出す。良くないことと理解しているが、帰り道の夜風に吹かれながら吸う一本がやめられない。幸いこの道は人通りが少なく、歩きタバコをしていても誰かに白い目でみられることはなかった。
今日も終電になってしまったなと思っていると、胸ポケットにいれていたスマホがブブッと震えた。歩きながら画面を確認するとニュースの通知が表示
ショートショート キャッチコピー
『君は本物の恐怖を感じたことがあるか――』
「キャー!」
『君は本物のスピードを感じたことがあるか――』
「わぁー!」
『本物の遊園地が誕生――』
陽気な音楽とともに動物の着ぐるみが踊り始める。
「みんなの来場待ってるよー。」
最近良く目にするテレビCMである。
近隣に大人気のテーマパークがあり、それに対抗するように新たな遊園地を建設したそうだ。
無謀な挑戦だ。勝てるわけがない。という
ショートショート 中毒症
「俳優の〇〇氏、薬物の使用で逮捕――。」
テレビでは人気俳優の不祥事について報道されている。そんなニュースを横目で見ながら、私は大学時代の友人4人と居酒屋で飲んでいる。
「俺はタバコをやめたくてもやめられないんだよね。みんなはそういうことない?」
タクヤもニュースの音が聞こえたのだろう。タバコに火を点け、大きく煙を吸い込みながら、話し始めた。
(本当にやめる気があるやつの行動じゃ
ショートショート ノンストップ
「位置について。」
私はふぅーっと大きく息を吐き、スタート位置にしゃがみブロックに足をかける。100m先のゴールラインがいつもより遠く見える。
―ドックンドックン―
自分の心臓の音が聞こえ、明らかにいつもより緊張しているのがわかる。落ち着け……。
今日は学生時代最後の試合だ。この結果次第で企業から声がかかる。この先も走り続けるためには、何としても良いタイムを出す必要がある。
「用意…
ショートショート 宇宙調査
宇宙人と友達になる。
子供の頃に描いた夢だ。同級生からは馬鹿な夢だと笑われ続けた。
しかし、私はめげすに努力しつづけ、念願の宇宙飛行士となった。そして今日、生命反応のあった星に降り立つのだ。
「本当にそのまま出て大丈夫なんだろうな?」
他の調査員が不安そうにそわそわしている。
慎重になるのはわかるが、私は一刻も早く調査に向かいたい気持ちを抑えきれない。
「安心してください。空気調査