ショートショート パーソナルカラー
彼女にどうしても声を大にして伝えたいことがある。しかし、彼女にとって私はただのクラスメイトでしかなく、その立ち位置は十分に自覚しているため、夜な夜な枕に顔を押し当てながら一人で叫んでいる。
「服が似合ってないんだ!」
彼女との出会いは一年前のことだ。高校の入学式で、新入生代表挨拶で舞台に登壇した彼女の凛とした立ち姿に一目惚れした。二年生に進学し、同じクラスになったとわかったときは、どれほど心躍っただろう。
しかし、そこで彼女が真っ赤な服を着ているのを目の当たりにしてしまった。彼女の端正な顔立ちを考えると絶対に青色のほうが似合うはずだ。なぜ赤い服を選んだのだ。
そこから彼女を目で追う日々が始まった。これはストーカーまがいの恋愛感情による愚行ではない。ただ気になって仕方がないのだ。とはいえ、チャンスがあればと青い服を鞄に忍ばせているのは、ここだけの話だ。
観察してわかったことがある。彼女は友人に対しては、嬉しさと恥ずかしさを混ぜたような顔で服を見せつけているが、一人になると窓に映る自分の服装を気難しい顔で眺めている。恐らく、似合っていないことを自覚しているのだ。
私はそんな彼女を見るのが辛くなり、段々と目で追う頻度が減っていった。いや、本当は彼女から赤い服を脱がす勇気のない自分から目を背けたいだけだ。
数週間後、帰宅途中の公園で、ベンチに座って泣いている彼女を見つけた。赤い服はクシャクシャになって地面に捨てられている。
ここぞとばかりに、鞄の奥底にしまっていた青い服に手を伸ばした――。が、思いとどまった。違う。これは私のエゴだ。ここで青い服を渡して、仮に彼女が受け取っても、それは地面でクシャクシャになっているあの服と同じだ。
私はそっとカバンを閉じて、彼女の隣に座った
「はっきり言って、あの赤い服全然似合ってなかったぜ。」
私のぎこちない笑顔に彼女は思わず吹き出した。
いつか彼女の意思で青い服を着てくれる日がくることを願って、再びぎこちない笑顔で彼女を見つめた。
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