辻なごみ

短い話を書いてます。不定期更新ですが、興味持ってくれると嬉しいです。 面白いものかける…

辻なごみ

短い話を書いてます。不定期更新ですが、興味持ってくれると嬉しいです。 面白いものかけるようになりたい。

最近の記事

ショートショート 帰巣本能

 仕事の帰り道、タバコを口にくわえ火をつける。煙を肺いっぱいに吸い込み、ふぅーと吐き出す。良くないことと理解しているが、帰り道の夜風に吹かれながら吸う一本がやめられない。幸いこの道は人通りが少なく、歩きタバコをしていても誰かに白い目でみられることはなかった。  今日も終電になってしまったなと思っていると、胸ポケットにいれていたスマホがブブッと震えた。歩きながら画面を確認するとニュースの通知が表示されていた。内容は火事であった。またか、と呟いてしまうほど最近は火事が頻発してい

    • ショートショート 深夜ラジオ

      深夜1時、私は布団の中でイヤホンを耳にさし、そっとラジオの電源をいれる。陽気な音楽か流れ、DJがいつもの挨拶を始める。 「さあ、本日一通目のお便りはA県 ラジオネーム『窓際高校生』さんからのお便りです。今日も送ってくれていますね。いつもありがとう。」  よし、今日も読まれた!と物音を立てないようにゆっくりとガッツポーズをとった。 この番組には毎週メールを送っており、自分のメールが読まれることが何よりの楽しみなっている。 「おっと、今日は『窓際の高校生さん』から、もう一

      • ショートショート こんな日もいいじゃない

         今日も目覚ましのアラームが鳴る十分前に目が覚めた。布団から出るのか出ないのか、究極の二択を迫られる。布団から出たら損した気がするし、布団に潜り込んでも、ウトウトし始めた頃にアラームで叩き起こされる。どちらを選んでも私に得はない。だから毎日気分が悪い。今日こそはこの残酷な二択に抗うことを心に決めた。早速、目覚ましをとめ布団に潜り込み目をつむる。これで私を止める部外者はいない。「案外簡単じゃないか」ニヤリと呟いた。  どれぐらい時間が経っただろう。そろそろ家を出ないと仕事に間

        • ショートショート パーソナルカラー

           彼女にどうしても声を大にして伝えたいことがある。しかし、彼女にとって私はただのクラスメイトでしかなく、その立ち位置は十分に自覚しているため、夜な夜な枕に顔を押し当てながら一人で叫んでいる。 「服が似合ってないんだ!」  彼女との出会いは一年前のことだ。高校の入学式で、新入生代表挨拶で舞台に登壇した彼女の凛とした立ち姿に一目惚れした。二年生に進学し、同じクラスになったとわかったときは、どれほど心躍っただろう。  しかし、そこで彼女が真っ赤な服を着ているのを目の当たりにして

        ショートショート 帰巣本能

          ショートショート 『日の出』

          窓から外を見ると色鮮やかな風が吹いている。こんな日は誰かが風に乗って空へと舞い上がっていく。  高校生までは、いつか私の番が来るんじゃないかとドキドキしながら待っていたが、今は違う。  風に乗れるのは限られた人間だけで、私のような平々凡々な人間は地べたから空を見上げるしかできないのだ。  大学生になり『革命の夜』というサークルに入った。なんとも中二病くさいネーミングで恥ずかしい。 表向きはイベントサークルとしているが、その実態はモテない男達の巣窟で、妬み嫉みを具現化したよう

          ショートショート 『日の出』

          ショートショート カタクリの花

           朝起きると頭に一輪の花が咲いていた。「これは一体どういう状況だ」と学校に行く準備をする手が止まった。その花はうっすらとした紫色で、下を向いて花を咲かせている。まるで自分の姿を見ているようで気分が悪い。    私は小さな頃から引っ込み思案で、人と話すことが苦手だ。話しかけられると緊張して、すぐに俯いてしまう。結果、彼氏はおろか友達もほとんどおらず、基本的にインドアなので肌は白く、うっすらと紫がかっている。私はそんな自分が大嫌いだった。  支度を終え、鏡に写った頭の花を見てい

          ショートショート カタクリの花

          ショートショート 四天王

           戦いのときは突然やってくる。  油断していた私の前に突如として姿を現した敵は、こちらの準備を待たず、魔法を放ってきた。その瞬間、私の身体は固まり、動けなくなる。   「うっ……どうすれば――」     当然、その隙に攻撃を仕掛けてくる。その衝撃は凄まじく、私は大ダメージを負い、口から血が流れ出す。なんとか身体が動くようになり、抵抗を試みたが効果がない。  それならばとダメージを負いながらも、置かれていた武器を手に取り、思い切り突き刺し、一気にトドメをさしてやった。  「

          ショートショート 四天王

          ショートショート キャッチコピー

          『君は本物の恐怖を感じたことがあるか――』 「キャー!」 『君は本物のスピードを感じたことがあるか――』 「わぁー!」 『本物の遊園地が誕生――』  陽気な音楽とともに動物の着ぐるみが踊り始める。 「みんなの来場待ってるよー。」    最近良く目にするテレビCMである。  近隣に大人気のテーマパークがあり、それに対抗するように新たな遊園地を建設したそうだ。  無謀な挑戦だ。勝てるわけがない。という前評判を裏切り、連日満員になっているらしい。  私もこのブームを体験するべく、彼

          ショートショート キャッチコピー

          ショートショート ため息貯金

           サラリーマンにとって、月曜日の朝は憂鬱なものだ。金曜日よりも疲れは少ないはずなのに、身体がすごく重く感じる。 「はぁー……。」  布団から出ると同時に大きなため息をついた。  (チャリン。入金されました。)   「朝からやめてよ。幸せが逃げるわ。」 「ごめんごめん。仕事に行きたくなくてさ……。」 「仕方ないじゃない。一週間がんばりましょう。」  苦笑いしながら、朝の準備を始めるという妻とのやり取りもすっかり定例化している。    妻と3歳になる息子を養うために、どれだけ辛く

          ショートショート ため息貯金

          ショートショート 中毒症

          「俳優の〇〇氏、薬物の使用で逮捕――。」  テレビでは人気俳優の不祥事について報道されている。そんなニュースを横目で見ながら、私は大学時代の友人4人と居酒屋で飲んでいる。     「俺はタバコをやめたくてもやめられないんだよね。みんなはそういうことない?」  タクヤもニュースの音が聞こえたのだろう。タバコに火を点け、大きく煙を吸い込みながら、話し始めた。    (本当にやめる気があるやつの行動じゃないよ。) 「たしかに、人それぞれやめられないことってあるよな。僕はパチンコや

          ショートショート 中毒症

          ショートショート ノンストップ

          「位置について。」  私はふぅーっと大きく息を吐き、スタート位置にしゃがみブロックに足をかける。100m先のゴールラインがいつもより遠く見える。    ―ドックンドックン―  自分の心臓の音が聞こえ、明らかにいつもより緊張しているのがわかる。落ち着け……。  今日は学生時代最後の試合だ。この結果次第で企業から声がかかる。この先も走り続けるためには、何としても良いタイムを出す必要がある。 「用意……。」  息を止め、腰を上げる。緊張で足の感覚が麻痺してる。  ―ドクンッドク

          ショートショート ノンストップ

          ショートショート 宇宙調査

           宇宙人と友達になる。  子供の頃に描いた夢だ。同級生からは馬鹿な夢だと笑われ続けた。  しかし、私はめげすに努力しつづけ、念願の宇宙飛行士となった。そして今日、生命反応のあった星に降り立つのだ。 「本当にそのまま出て大丈夫なんだろうな?」  他の調査員が不安そうにそわそわしている。  慎重になるのはわかるが、私は一刻も早く調査に向かいたい気持ちを抑えきれない。 「安心してください。空気調査の結果、何も着用せずに降り立つことが許可されています。早く行きましょう。」  私

          ショートショート 宇宙調査