ショートショート ノンストップ
「位置について。」
私はふぅーっと大きく息を吐き、スタート位置にしゃがみブロックに足をかける。100m先のゴールラインがいつもより遠く見える。
―ドックンドックン―
自分の心臓の音が聞こえ、明らかにいつもより緊張しているのがわかる。落ち着け……。
今日は学生時代最後の試合だ。この結果次第で企業から声がかかる。この先も走り続けるためには、何としても良いタイムを出す必要がある。
「用意……。」
息を止め、腰を上げる。緊張で足の感覚が麻痺してる。
―ドクンッドクンッ―
心臓の音が速くなっていく。
……パンッ!
競技場に乾いた音が響いたと同時にブロックを思い切り蹴り出す。
最初は細かくピッチを刻み、スピードに乗ったらストライドを伸ばしていく。足の感覚が麻痺した結果、余計な力みが抜けたのだろう。ずっと練習してきたイメージ通りだ。
―ドクッドクッドクッ―
スピードと鼓動がどんどん速くなる。まだだ……。もっと……。もっと速く!
―ドッドッドッ―
経験したことのない鼓動と疾走感を感じ、私は快感に包まれながら、ゴールラインを走り抜けた。
競技場に歓声が響き渡る。恐らく凄い記録が出たのだろうが、そんなことはどうでも良い。
この感覚……。楽しい……。止まりたくない……。
止めにくる全ての人間を振り払い、私は走り続けた。
―ドドドドドッ―
何年走り続けただろう。もう足音と鼓動の区別がつかない。肺も手も足も千切れそうだ。でも自分で選んだ道だ。後悔はない。
――――――――――
そして何も聞こえなくなった。
私はこれからも走り続ける。
▼Prologueさんで投稿させてもらってます。
私なんかより面白い作品あげてる方多いのでぜひ!
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