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ショートショート こんな日もいいじゃない

 今日も目覚ましのアラームが鳴る十分前に目が覚めた。布団から出るのか出ないのか、究極の二択を迫られる。布団から出たら損した気がするし、布団に潜り込んでも、ウトウトし始めた頃にアラームで叩き起こされる。どちらを選んでも私に得はない。だから毎日気分が悪い。今日こそはこの残酷な二択に抗うことを心に決めた。早速、目覚ましをとめ布団に潜り込み目をつむる。これで私を止める部外者はいない。「案外簡単じゃないか」ニヤリと呟いた。

 どれぐらい時間が経っただろう。そろそろ家を出ないと仕事に間に合わない時間かもしれない。大事な商談の予定もある。それでも私は動かない。今日は布団から出るかどうか考えることをしないのだ。私は枕元に置いてあったスマホの電源を落とした。

 私の部屋は古い木造アパートの一階だ。外からの声が筒抜けである。小学生だろうか。子供の声が聞こえてきた。
「石を蹴りながら歩くなよ。危ないだろ。」
「お前は本当にびびりだなぁ。大丈夫だって――あっ!」
 ガシャン!!
 大きな音が部屋中に響き渡るとともに、風が吹き抜ける音がし、我が家の窓が割れたことを確信した。「やべっ。逃げるぞ!」
 子供の足音が遠のいていく。本来なら飛びだして「こらっ!」と追いかけるべきだろうが、私は動かない。今日は布団から出るかどうか考えることをしないのだ。

 外から聞いたことのない大きなサイレンの音が聞こえ、続いてアナウンスの声が聞こえてきた。
「未確認生物が本市上空を飛行しております。ただちに屋内へ避難してください。屋外は危険です。」
 未確認生物?危険?何が起きている。気になって仕方がないが、私は動かない。今日は布団から出るかどうかを考えることをしないのだ。

 騒がしかったサイレンも止み、割れた窓から風が通り抜けてくる音が聞こえる。お腹が減った。昨日の夜から何も食べていない。私は身体をグーッと伸ばし、布団から飛び出した。台所に置いてあった食パンをくわえ、窓を開ける。
「よし!明日はきっと!」
 もう一度グーッと身体を伸ばし、空を飛ぶ謎の生物を見上げた。

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