ショートショート 深夜ラジオ
深夜1時、私は布団の中でイヤホンを耳にさし、そっとラジオの電源をいれる。陽気な音楽か流れ、DJがいつもの挨拶を始める。
「さあ、本日一通目のお便りはA県 ラジオネーム『窓際高校生』さんからのお便りです。今日も送ってくれていますね。いつもありがとう。」
よし、今日も読まれた!と物音を立てないようにゆっくりとガッツポーズをとった。
この番組には毎週メールを送っており、自分のメールが読まれることが何よりの楽しみなっている。
「おっと、今日は『窓際の高校生さん』から、もう一通届いていますね。せっかくなんでこちらも読みましょうか。」
ん?今日は一通しか送ってないはずだぞ。
「『同じクラスに気になっている女の子がいます。最近席替えをしたのですが、なんと彼女が後ろの席になったのです。ラッキーと思ったのですが、授業中も後ろが気になって集中できません。どうしたらいいでしょうか。』ということで、いいねぇ、青春だねぇ。気になって仕方ないなら、想い伝えたほうがいいんじゃないかと思うな。もし、まだ親しくないなら、まずは声かけてみるところから――。」
布団を蹴飛ばし身体を起こした。こんなメール知らない。いや、それより内容が事実だ。私が後ろの席の桜井さんのことが気になっていることは友人にも言っていない。思わずメールの送信履歴を確認するが、送った形跡はない。寝ぼけて無意識に送ったという線は消えた。私がパニクっている間も、DJはアドバイスをくれ続けていたが、内容は全く入ってこなかった。
結局、一睡もできず朝を迎え、蒼白い顔のまま登校した。正門をくぐると、生徒指導の先生に声をかけられた。
「顔色がよくないぞ。深夜ラジオを聞くなとは言わないが、あまり夜ふかしするなよ。」
頭を下げながら「気をつけます。」と言いながら通り過ぎたところで、ハッと振り返り先生に尋ねた。
「先生。なぜ私が深夜ラジオを聞いていたのを知ってるんですか。まさかあのメールは――。」
言いかけた途中で、先生の首がグルンと勢いよく回り、吸い込まれそうなほど丸い目でこちらを見つめてきた。
「な、なんですか。気になったんで聞いただけですけど。」
「……。早く教室に行きなさい。遅刻になりますよ。」
と言うとフッといつもの顔に戻り、私から視線を外した。
一体何なんだと考えながら、下駄箱で上靴に履き替えていると、クラスメイトがニタニタしながら声をかけてきた。
「おはよ。昨日のラジオ聞いたぞ。お前、桜井さんのことが好きだったんだな。全然気づかなかったわ。」
「いやいや、ちょっと待て……。なんであの投稿が俺だと思ったんだ。本名は読まれてないだろ。」
「……。」
突然さっきまでニタニタ顔が嘘のように表情は無くなり、丸い目をしながらこちらを見つめてきた。
「――っなんだよ!お前もかよ!なんか言えよ!」
ゴチャゴチャになった感情に任せて怒鳴ると、またフッとニタニタ顔に戻り、上靴に履き替え始めた。
「ふふっ。まぁ桜井さんがどう思ってるかだな。先に教室行ってるぞ、窓際の高校生さん。」
手をヒラヒラと振りながらその場を立ち去っていった。
なぜ『窓際の高校生』が私だと認識しているのだ。それにあのリアクション何なんだ。
疑問に思いながら教室の扉をガラリと開けると、時間が止まったようにピタリと全員が会話をやめ、丸い目でこちらを見つめてきた。あまりの奇妙な状況に身体が硬直し、入口に立ち止まると、何事もなかったように各々の会話が再開された。
何かがおかしい。気味が悪い。血の気が引いていくのがわかった。なかなか教室に入れずにいると、後ろから声をかけられた。
「ねぇ、ちょっといいかな?」
振り返るとそこには桜井さんが立っていた。教室から離れたいという思いから、すぐに「もちろん。」と言うと、校舎裏に連れて行かれた。
「ラジオで君の気持ち知っちゃって、どうしようか考えたんだけど……。いいよ……付き合っても。」
思わぬ展開に開いた口が塞がらなかった。彼女も『窓際の高校生』が私だとわかっている。いや、それよりも付き合えるのか。何だこの展開。頭の中の電子回路がショート寸前になっていく。見かねた桜井さんは顔を真っ赤にして言葉を続けた。
「何か言ってよ。恥ずかしいじゃん。」
「あ……ごめん。突然だったからさ。もちろん嬉しいよ。」
こうして私は桜井さんと恋人関係になった。数日経った今でも誰にも真相を聞けずにいる。真相を明らかにすることで、桜井さんとの関係が白紙になるくらいなら、知らないほうがいい、そう思ったのだ。
深夜1時。ラジオの電源を入れると陽気な音楽が流れてくる。
「皆さんこんばんは。本日も一通目のお便りはA県 ラジオネーム『窓際の高校生』さんからです。……」
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