ショートショート カタクリの花
朝起きると頭に一輪の花が咲いていた。「これは一体どういう状況だ」と学校に行く準備をする手が止まった。その花はうっすらとした紫色で、下を向いて花を咲かせている。まるで自分の姿を見ているようで気分が悪い。
私は小さな頃から引っ込み思案で、人と話すことが苦手だ。話しかけられると緊張して、すぐに俯いてしまう。結果、彼氏はおろか友達もほとんどおらず、基本的にインドアなので肌は白く、うっすらと紫がかっている。私はそんな自分が大嫌いだった。
支度を終え、鏡に写った頭の花を見ていると、自分の後ろに目を丸くした母親が立っていた。
「あんた何つけてるの?」
「朝起きたら生えてた……。」
母親も状況が飲み込めないようで、しばらく固まっていたが、無理やり飲み込んだ後、突然焦り始めた。
「……あっ!病院行ったほうがいいのかしら!これは何科になるの!」
「いいよ。痛いわけでもないし。学校行ってくる。」
「いいわけ無いでしょ――」
母親の言葉を聞き流し、私は玄関を飛び出した。異常事態であることは認識しているが、何故か焦る感覚はなかった。
通学路ですれ違う人全員の視線を感じたことは言うまでもない。ここでようやく、花が生えた事自体より、注目を浴びてしまうことが、私にとっては重大な問題だと気付いた。
学校に着き、教室に入ると、クラスメイト全員がこちらを見た後、ヒソヒソ話を始めた。黙って自席についたが、全員の視線が突き刺さってくる。凄く居心地が悪い。もはや、はっきりと聞いてくれたらいいのに――、でもうまく答えられないか、などと考えながら俯いていると涙がこぼれそうになってきた。
突然、私の前に人影が現れた。
「これはカタクリの花だね。」
顔を上げると、花をまじまじと見ている同級生の男子がいた。
「カタクリ?」
「うん。片栗粉が取れる花だよ。種をまいてから、花が咲くまで、すごい時間がかかるんだ。」
彼は私の目を真っ直ぐに見ながら話してくる。思わず目を逸らしてしまった。
「この花ずっと俯いてて、なんか嫌……。」
「そう?健気で可愛いじゃん。俺は好きだよ。」
彼は白い歯を見せながら二カッと笑ってみせた。
カタクリの花は一瞬顔を上げ、少し赤みを帯びながら、再び俯いた。
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