ショートショート キャッチコピー
『君は本物の恐怖を感じたことがあるか――』
「キャー!」
『君は本物のスピードを感じたことがあるか――』
「わぁー!」
『本物の遊園地が誕生――』
陽気な音楽とともに動物の着ぐるみが踊り始める。
「みんなの来場待ってるよー。」
最近良く目にするテレビCMである。
近隣に大人気のテーマパークがあり、それに対抗するように新たな遊園地を建設したそうだ。
無謀な挑戦だ。勝てるわけがない。という前評判を裏切り、連日満員になっているらしい。
私もこのブームを体験するべく、彼女と来場することにした。
チケットを購入し門をくぐると、早速CMで見た着ぐるみが出迎えてくれる。大きく手足を動かし、ようこそ!と言わんばかりにアピールしてくる。
「かわいいねー。写真取ろうよ!」
彼女ははしゃぎ、私の手を引いて着ぐるみとの3ショットを自撮りした。
「着ぐるみって久しぶりに見たけど、表情が変わらないから不気味だよね。」
「それがキモかわいくていいんだよ。」
などと雑談しながら、アトラクションへと向かう。
CMに偽りは無く、お化け屋敷はとても怖く、ジェットコースターも感じたことのないぐらいの疾走感を体験できた。彼女も大満足な様子だ。
「めちゃくちゃ面白かったね。これはテーマパークに負けてないわ。さすが『本物の遊園地』だね。また来ようね。」
「帰るまえにトイレ行ってくるわ。」
私は彼女を待たせ、出口付近のトイレに向かった。
用をすませ外に出ると、着ぐるみ2体が関係者通路へと捌けていくところだった。私が近くにいることに気づかなかったのだろう。会話の内容が聞こえてきた。。
「やっぱり着ぐるみは大変だね。大きく動かないといけないから疲れる。」
「馬鹿!まだ声を出すな。控室に帰ってからにしろ!」
ゆっくりと閉まる扉の隙間から見えた着ぐるみは、眉も目も口も会話に合わせて滑らかに動いているように見えた。
『本物』の遊園地――
またの来場待ってるよー!
園内放送が鳴り響いた。
▼Prologueさんで投稿させてもらってます。
よろしければぜひ。
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